ちびちゃん日和

そら

はじめに

妊娠、出産というのがとても個人的で、かつ、センシティブな事柄だということは重々承知しているつもりだ。


子どもとしても、まだ自分の意思表明ができる前に、自分のあれやこれやを書かれるのは嫌だろう。


それでも、ここにこうして記録しておこうと思ったのには理由がある。


と、いうのも、妊娠というものをしてから、わたしは「コンパスも地図の使い方もわからずに航海に出た下っ端船乗り」といった状態であった。


コンパスも海図も使いこなした先輩船乗りやキャプテンは確かにいるのだけれど、いつも話しかけられるわけじゃないし、下っ端にはなかなか会える存在じゃあない。


だから、なんとなく船の行き着く先は知っているけれど、どう進んでいくかもわからないし、目の前のことに必死でそれどころじゃない。


そんな下っ端船乗りこそ、わたしであった。


聞きかじった微妙な知識はあるけれど、よくわからない。


何がどうなっているのか、よくわからない。


何が起こっているのか、よくわからない。


何をどうしたらよいのか、よくわからない。


これからどうしたらいいのか、よくわからない。


とにもかくにも、「よくわからない」のオンパレードなのである。


世の学校(小、中、高、大など限らず)の1年生ってこんな感じだったのかもしれないな。


で、よくわからないわたしが頼ったのは、スマホだった。


医師や看護師に相談しようにも診察はたまにしかないし、家族は遠く離れて暮らしているし、子育て中の友達も簡単に会える距離に住んでいないし、何より子育て中はそれはそれで大変なのだ。


図書館や本屋に行こうにも、体調不良で家から出られない。


結果、わたしが手にしたのは、スマホだったのだ。


相手の負担にならないか気にしながら友人に連絡をしたり、妊娠に関するあれやこれやを検索したりした。


その情報は、結果的にわたしを不安にさせることもあれば、安堵させてくれることもあった。


まあ、結局は「いつも少し不安」なのだ。


それでも、どうにも耐えられないような暗い夜の海を進んでいるようなときとか、数メートル先に何があるかわからない濃い霧の中を進んでいるときとか、そういうときに同じ船に乗った同志たち(顔も知らないとしても)の経験や冒険譚は、わたしに一縷の光を示してくれた。


わたしの経験が有益なものになるかはわからないけれど、わたしを助けてくれた少し先を歩く先輩たちの背中を追って、ここに「ちびちゃん」との日々を記しておこうと思う。


もちろん、ちびちゃんの人権には精一杯配慮していこうと思うので、これは主に母であるわたしの記録の予定。そこはあしからず。

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ちびちゃん日和 そら @hoshizora_cat

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