第33話

 目の前の出来事に考える余裕ができてしまったことで、私には一気に子供を殺してしまった罪悪感がとめどなく溢れ出してきた。

 あれは仕方なかったんだと割り切ればいい。それでいいのは理解している。でも、精霊王の力で助けられる可能性も少しはあったんじゃないかと思ってしまう。私も精霊の力は知っているけれど、ありとあらゆることまで知ってるわけじゃない。助けられた可能性があったのなら、助けたほうがよかったんじゃないか。


「アシュリーさん。凄く落ち込んでいらっしゃいますわね」

「アイリス様……」

「ツクヨミ様から聞いたわ。その……なんて言えばいいかわからないけど、あまり気に病まぬように。その事件で王都に広がる惨劇を考えたら最善の策だと思うわ」

「本当にそうだと思いますか」

「え?」

「私は精霊王となってるんです。人知を超えた力があって……。その力でもし、助けられたかもしれないんですよ。それなのに試そうともせず殺してしまった……。助けようともしないで……」

「……」


 私はシステムもまだ何も知らない。

 助けられたかもしれない可能性があって、それを切り捨てて。私がもし、その方法を知っていたら、助けられる可能性があると気づけていたら助けられていただろうか。

 もともと人だった化け物を、人間に戻すこともできたんじゃないだろうか。

 それなのに、殺した。この手で吹き飛ばした。


「はぁ~あ……。ま、人を殺したことのないあんたはそうやって罪悪感を抱くのねぇ。もしかして、未来でもそうだったのかしら。私たちが革命を起こそうとした罪悪感で過去に戻したのかしら」

「何の話をしてるんです……?」


 過去に戻す? 何のことを言って……。

 

「こっちの話。それより……たらればなんて考えても仕方ないことじゃないの。難しいかもしれないけど、割り切ることも大事よ」

「……はい」

「人はいつか死ぬ。今日かもしれないし明日かもしれない。その子たちにとっては今日死ぬってことだったのでしょう。冷たいかもしれないけど、それが運命ってやつなのよ」

「運命……。運命は決まってると思うんですか?」

「いや全く? でも、決まってなくても起きてしまったことは運命だって思うしかないわ。そうじゃないとやっていけないもの」

「そう、です、か……」


 割り切る、割り切るか。難しい。

 私はそう簡単に割り切れるような性格をしてないんです。本当に厄介な性格で……。


「しょうがないわねぇ。アシュリーさん。いきましょ」

「え、行くってどこに……」

「素敵な場所」


 と、アイリス様は満面の笑みを浮かべてそう言ってきた。

 素敵な場所といって、私の手を引くアイリス様。学校の外に出て、乗り合いの馬車に連れていかれて乗せられる。


「あの、学校から出ちゃいましたけど……」

「いいじゃない。一日ぐらいさぼっても私なら何も言われないわ」

「そういう問題なんですか……?」

「そういう問題よ。だって、学校より友人のメンタルケアのほうが大事だもの。ささー! レッツゴーよ! 私の領地まで!」

「え」


 領地まで行くんですか!?









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