第32話
騎士団の宿舎で寝泊まりすることになった。
事件の事情聴取と、私は子供たちの治療とかもろもろ。倒れたフラワーさんも騎士団の医務室に運ばれ、治療を受けていた。
「俺は少し城に戻っている。いろいろやることがあるからな……」
「俺もね、ちょっとばかりやることあるから学園の寮に戻ってるわ! ドリトンとフラワーとでうまく説明しておいて!」
二人は用事があると抜けて行ってしまった。
「ん、ここは……」
「騎士団の詰め所です。意識は大丈夫ですか?」
「ああ……。あたし気を失ってたんだな。血をかぶってから記憶がねえ」
「あまり無理しないでくださいね。騎士さんには事情を説明してますから」
「ああ」
フラワーさんが目を覚ました。
体のだるさとかは残っているけれどそれぐらいということ。
私はフラワーさんのお見舞いを終えて、今度は牢屋に寝かしている子供たちの様子を見に行くことにした。
経過観察というべきかな……。一応国が保有している魔法騎士団の人たちも連れてきているようだけど魔法騎士団の人もわかっていないらしい。
魔法に関しては私のほうが分かってるから私がやってるわけなんだけど……。
私は牢につながる階段を降りていく。
最後まで降り切った際、騎士の人達が鎧を付けて剣を構えていた。
「どうしたんで……」
「精霊の愛し子! これが貴殿が言っていた魔物か!?」
「えっ」
目の前にいたのは私が殺したような人間が暴走した姿をした魔物。
自我はなく、目の前のものを破壊するだけの魔物。それに変わりなかった。
「はい……」
「目を覚ましても暴走するのかよ! こりゃ蘇生は無理だな!」
「血をかぶるなよ! 血は有毒だ!」
「つっても剣で殺す以上……!」
「気を付けてください! パワーはリミッターが外れてるのでパンチ受けただけでも顔が吹っ飛ぶくらいの威力はあります!」
「「「えっ」」」
私は魔法を唱える。
「全員退いてください! 私が魔法で殺します!」
「そうしたほうがいい! 全員撤退!」
騎士たちは走りこちらに向かってくる。
魔物は追いかけてきた。私は魔法を放ち、体を消し飛ばす。返り血が私に付着したのだった。
血の魔力を吸い取る。
「うわー、すげぇー……。ほかの魔法使いがやってもこうはならんぞ……」
「これでわかったな。目を覚ました瞬間暴走が始まるのだ。ほかの子供たちも同様だろう。仕方がないが……」
「……ですね」
騎士たちは牢屋の中に入っていく。
目を覚ましていない子供たちに剣を突き刺していた。突き刺した傷から血が流れていく。赤く染まっていく石の床。
騎士たちは暗い顔をしていた。
「精霊の愛し子殿……。貴殿もちをかぶったんだ。治療を……」
「いや……私はこの血をかぶっても大丈夫です。私はもう人間じゃないので……。私はちょっと血の魔力を吸うので、それが終わったら触れても大丈夫です」
私は流れる血に触れる。
大量の魔力があることがわかる。ごめん、という気持ちを抑え込みながら、ただただ血液に含まれる魔力を吸い取っていく。
体にも触れ、魔力を吸い取っていく。生きている人から魔力を奪うことはできないけど……。魔力を奪うことができた。ということはすでに死んでいるということなのだ。
ごめん。私が無力だから。
「……もう死体には魔力がありません。血がついても大丈夫です」
「そうか。みな、運んで弔おう。それが今の俺たちにできることだ」
「はっ!」
騎士たちは子供の死体を運んでいく。
「こんなことが怒ってたなんてなんで今まで気づかなかったんですか」
「すまん……。これは騎士の落ち度だ」
「いえ、攻めたわけじゃないんです。ただ疑問なんです。ツクヨミ様ですら知っていたんですから誘拐事件のことは。7人ともなると本格的に動き出してもおかしくないし、こんなことをしていたんならだれか彼か気づいたと思うんです。こんなことしておいて今までばれないってことはおかしいんですよね」
「そう……だな」
「まだ……裏に何かあるんじゃないですか? 騎士団を本気で動かしたくなかった誰かがいるとか……」
「……」
「私はそこがちょっと疑問なんです……。早くやらないと、また被害が増えるかも。ここだけで研究が行われていたとは思えないんです。こういう大掛かりなものは一つが消えてもいいようにほかのところでもやられてるんじゃないかと思うんです」
目的は何だろう。
精霊が見えるようにするという研究。王都でわざわざ行う理由がわからない。孤児がいるにせよ、王都でやるということはそれなりに見つかるリスクもあるということだ。
私の考えすぎだろうか。
「わかった。調査してみる」
「はい。ただ……」
「ただ?」
「私がここまで言う権利はありませんが、国王様の指示はあまり聞かないでほしいんです」
「国王様の……? それはいくらなんでも」
「ツクヨミ様の私事のほうを優先してください。お願いします」
「……ま、善処する」
そういうしかないんだろう。
私としては国王は信じることができない。あのパーティで出した結論だ。精霊という単語をあの研究者が出した。
となると、国王を関わらせてはならない。という私の危険信号から出した答え。
「……それはそれとして。最後に質問、いいですか」
「なんだ?」
「人を殺した罪悪感は……どうやって拭えばいいんですか」
「……私には答えられん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます