第31話
事件は幕を閉じた。
駆けつけた騎士たちはこの惨状を見て声を出せなかったようだ。異形へと変化してしまった子供たちの亡骸。地下で死んでいる子供たちの亡骸。
頭などが踏み潰され、無残な死を迎えている悪党たち。凄惨な現場であること。それは私も理解しているし……。初めて、人を殺した。
人というのかは語弊があるかもしれないけれど、もともと人だった者を殺してしまった。罪悪感がないわけではなかった。でも躊躇うわけにもいかなかった。
治せるようなことができればよかった。けど、治し方がない。
精霊王となり、いろいろ知識も精霊から教えてもらった。けれど……それでも届かないこと、無理なこともある。
無力というわけではない。でも、力は及ばない。
限界というものを知った。万能ではないということも知った。
「犯人のグループの生き残りは?」
「いない。俺ら逃がしてねえし……」
「もともと気絶だけで済ませてたんだけどねぇ。あの魔物が乱入してきて全員殺しちゃった……」
「なるほどな。うーむ」
現場を確認している騎士とツクヨミ様。
私は騎士を下に連れて行き、魔物になり損ねた子供たちを見せる。下には研究日誌のようなものもあり、騎士の一人が読んでいて嫌気がさしたのか読みたくねえと机の上に置いた。
「アシュリー殿。この子たちは魔物に変化したりとかは……?」
「ない……と思います。ただ、魔力が日常的に供給されてたので気を付けてください。もしものことがあるかもしれません」
「わかった。みな、気を付けて死体をここから出すぞ」
騎士たちがガラスの中の子供たちの亡骸を取り出していく。
すると。
「げほっ、げほっ……」
と、一人の男の子がせき込んだ。
騎士たちは剣を構える。
「ここは……?」
「意識があるのか?」
「え? なんで俺剣を向けられて……。俺はなんでここにいるんだ?」
「ちょっとすいません」
私は目の前の男の子に近づく。
男の子は私を見て。
「あ、イストのアシュリー姉ちゃんじゃん! 久しぶり!」
「タロト……。大丈夫? 意識は? なにがあったの?」
「いや、わかんねえんだけどよー。外で運動してたら知らないやつに殴られて気絶して……そこから記憶がねえ」
「そう? 変な感じとかしない?」
「なんかちょっと気持ち悪い感じがする。なんか変なもん飲み込んでる感じ」
「まぁ液体の中にいたからそれかな……。タロト、これ見える?」
「これって?」
私はシルフを呼び寄せ、シルフをタロトの目の前に現れさせた。
「なんかぼんやりと何かいるのはわかる」
「……見えてる?」
「何が?」
「ここに何がいる?」
「いや、なんもいねえけど。でも、そこだけ空間がぼんやりしてる」
ちょっと見えるようになってるのか……?
タロトは精霊が見えない人だ。それは私以外はそうなんだけど、ぼんやり見えているってことは精霊がちょっと見えるようにはなってるってことになる。
会話とかはできなさそうだけど……。
「うげぇ。吐きそう」
「吐いちゃいな」
「そーずる……。おえぇ」
タロトは振り向いて何もかも口から吐き出す。
緑色の液体がどろどろと中から出てきて全部吐き出したタロトはキモ!っていう声を上げていた。
「アシュリー殿。その男の子は無事なのですか?」
「無事みたいです。多分、今日誘拐された子で日が浅いから魔力の注入も少しで済んだのかもしれないです」
「なるほど! 魔物に変化することは?」
「自我がありますのでないかもしれませんが、一週間程度様子見して何もないようだったら多分ないと思います」
「わかりました! 僕、まず、騎士の私たちと一緒に行こうか。ね? 君のいた孤児院には少し返せそうにないよ」
「ん、わかった! アシュリー姉ちゃん、またね!」
「うん、またね」
タロトは騎士の一人と手をつなぎ行ってしまった。
「ほかの子供たちは?」
「息をしてません。が、生きてはいるようで……」
「ほかの子たちの蘇生をして……魔物になるということは?」
「わかんないです……。そこまではさすがに……」
「そうか……。一応連れ帰り蘇生処置を取ろう。何かあった際は全力で対処だ!」
「はっ!」
「……あの、魔物になってしまって倒す際、血をかぶることはやめてくださいね」
「殺すなということですか?」
「いえ、魔物変化してしまった際、血は人間にとって有毒で……。触れたら血に流れて居た大量の魔力が体を蝕みます。治療は多分私にしかできないので……」
「そういうことでしたか。厄介な魔物ですな……」
隊長さんはわかったと言って、騎士に子供たちを運ぶように指示を出していた。
私も子供が蘇生して目が覚めるまでともに騎士団と一緒に行動してほしいと頼まれたので、しばらくは学園に帰れそうにもない。
いや、しばらく帰れないのはドリトンさんとかも同じかな……。
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