第25話

 夜を迎えた。

 私は誰もいない厨房に足を踏み入れる。精霊たちが何か食べたいとせびるので仕方なく何か作ろうということ。きちんと寮母さんの許可はもらっているから好きにやらせてもらう。


「何がいい?」

『オムレツー!』

「オムレツね。わかったよ」


 私は冷房魔道具から魔鶏卵の卵を取り出し、ボウルに割り入れる。

 そしてかしゃかしゃとかき混ぜて熱したフライパンの上に乗せた。中に煮締豚を刻んだやつとネギも入れて卵を巻いた。


「ほら、どうぞ」

『いただきまーす!』


 皿に盛り付けたオムレツを複数の精霊が群がって食べていた。

 本来なら私なんかじゃなくそういう人のを食べた方がもっと美味しいんだろうけど我慢してほしい。


 私もちょっと小腹空いたので適当に何か作っていると食堂の扉が開かれた。


「くんかくんか……。いい匂いだナー! アシュリーちゃん、僕にも作ってぇ」

「え……」

「いい匂い〜」


 あの、困りますけど……。


「あの……私は素人なので王族の方にお出しできるようなクオリティでは……」

「いいのいいの。毒入ってなかったらなんでもね!」

「その発言はちょっと傷つきますが……。毒入れるような人間に見えますか……」

「んー、言葉選び難しいね。やっぱ僕って王族に向いてないよね」

「……」


 否定できない……。


「簡単なものでいいから! ね?」

「わかりました……」


 私は精霊に作ったようなオムレツを作り提供した。

 フレズベルグさんは食べて美味いと声を出す。


「これ美味いよ! 卵の中のトロトロ加減最高!」

「そうですか?」

「煮豚も美味いし、入れられたネギもしっかり……。ちょっと塩も入ってるのかな」

「そこまでわかるんですか? 塩は割と隠し味程度なんですけど」

「わかるわかる。僕、味覚だけは自信あるから。まぁ……この舌のおかげであまり粗悪なものは食えなくなったんだけどね」

「……それ褒め言葉として?」

「受け取ってもいいよん。実際美味いし」


 そう言ってもらえるんなら嬉しい。

 もぐもぐとオムレツを平らげていた。私はフレズベルグ様の皿を片付け、一緒に洗う。

 

「あ、片付けは僕やるよ?」

「大丈夫です……。フレズベルグ様はゆっくり休んでてください」

「そっか……」


 フレズベルグ様は深く腰をかける。


「君ってさぁ」

「はい?」

「めっっちゃ自分を下にするよね」

「そうですか?」

「僕は勝手に食べに来たやつだよ? 働かせればいいじゃん」

「……いや、あの、なんかフレズベルグ様に任せるとお皿割りそうで」

「……だね!」

「自覚あるんなら少しは治す努力してください……」


 皿を割ったらドヤされるのは私だから……。


「でもだよね。なんだろ……。なんて言うのかな。君はなんだかつまんない」

「……つまんない」

「多分言われたことあるよね? 自己評価低すぎるって」

「まぁ」


 エドガー様に似たようなことは。


「僕なんか大国の皇子だからすげーんだぞ!って威張ってんのにさー! アシュリーちゃんは精霊の愛し子だぞー!って威張らないじゃんかー。それってつまんなーい」

「と言われても。こればかりは生まれ持った性格なので治すのに時間かかります……」

「だよねー。僕と同じだね」

「自由人の皇子は私なんかよりもっと周りから矯正受けますよね?」

「それを素直に受けると思う? この僕が」

「思いません……」


 絶対逃げ出しそうだ。で、逃げた先で迷うんだろうな……。なんかこの人の付き人さんの苦労が見える気がする。


「もっと自由に行こうぜ!」

「自由すぎるのもまあまあ嫌ですけど」

「僕をみて思ってるな?」

「それは……」

「いやぁ。そうだよね。僕の迷子癖でやめていった付き人なんて数知れずだよ」

「でしょうね……」


 探さないといけないから大変だろうな……。目撃情報を辿り見つけるしかないもん。

 同情致します……。


「ま、自由にやれるのは今だけだからね。僕は今の時間を精一杯謳歌するって決めたんだよ。今のヨルデールには跡継ぎが僕しかいないからね珍しく。のちのち縛られる。今のうちに楽しんでおかなくちゃね」

「……」

「ツクヨミもツクヨミで苦労してるね。話は聞いてるよ。親精霊派、反精霊派の対立のこと。君もとんでもないものに巻き込まれてるね。無理もないか。僕ツクヨミは好きだけどあの国王とツクヨミの弟は大嫌いだしね。僕が大嫌いなやつは基本的にろくでもない。これ本当」

「……あの」

「わかってるよ。本当に嫌になったらヨルデールに逃げておいで。僕の権力で全身全霊で守るよ。僕の父上もそうするさ。自己顕示欲のためだけに君が殺されていいわけがないもんね」


 フレズベルグさんは笑顔を向けてくる。

 そう言ってもらえてとても嬉しい。本当に、嫌になったらヨルデールに逃げてしまうというのもアリかもしれない。ツクヨミ様がどういうかはわからないけど。


「とりあえず、僕もツクヨミと同じ味方さ。王位継承権が危うい第一王子よりかは、心強いよ」

「……誰が危ういだって?」


 ツクヨミ様が疲れた顔でやってきた。

 ツクヨミ様はフレズベルグ様の横に座る。


「あら、聞いてたの?」

「最初からな……。まったく。ま、アシュリー。そういう手もありだ。危なくなったら俺はお前をヨルデールに逃がすつもりでいる」

「ツクヨミ様……」

「俺が王位継承権がほとんどないのは事実。これは前に言ったね」

「はい」

「だからヨルデールからこいつを呼んだんだよ。そういう話もいつかはする予定だったんだけど」

「今僕がしちゃいました!」


 ツクヨミ様はため息を吐いた。

 大変ですね……。







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