第23話

 アマテラス学園に着いた頃にはもう夜遅くなっていた。

 この人、目を離すとアマテラス学園と真反対の方に行きそうになってわざとやってるのかと疑うくらいだった。精霊になんか悪意あるこの人と聞いてみても悪意は感じないって言ってた。


「いやぁ、ものすごく遅れたな!」

「…………」

「おっと、これは僕のせいだね。ごめんごめん」


 本来なら下町からアマテラス学園まで歩いて10分程度といったところなんだけどそれの倍以上かかってる。歩いた方が早かった。


「こりゃツクヨミも寝てっかなぁー。宿取ると絶対戻って来れなさそうだし」

「方向音痴が壊滅的すぎませんか……。ここまで迷うなんて初めてです……」

「そりゃ自国でも迷うんだから他国ならもっと迷うわな!」

「せめて自身の国では迷わないで欲しいんですけど……」


 この人めっちゃお調子ものって感じがする。

 疲れたぁ。疲労感がどっと襲ってきた。でもこの人ここに置いておくわけにもいかないし……。

 と悩んでいると。


「あら、おかえりなさい……。と、やっと来たんですわね」

「アイリス嬢。これはこれは」

「はぁ……。約束の時間くらいは守ってくださらないかしら。今ツクヨミ様を呼んで参りますわ」

「悪い悪い。一ヶ月前には出たはずなんだけどな」

「……えと、ヨルデールってここから馬車で2週間かそこら程度の距離にある国では」

「そう! でも、父上は隣の国にはお付きの人なしで行けっていうからさー、僕はあらかじめ迷ってもいいように早く出たんだ」


 ……この人一人でいかせたのが間違いなのでは。


「父上も息子のことよくみてほしいよねー。昔からよく迷子になってる僕に一人旅って死なせに行くようなもんだよ」

「…………」

「留学前に着いただけでも奇跡だね」

「…………」


 そういえばなんだけど、この人の馬車の中に地図らしきものは見なかったような。

 私は気になってみたので馬車の中を見てみると、本当に地図らしきものはない。


「……あの地図は」

「地図ねー。よく失くすんだよ。食べ物こぼして破いちゃったりとかね!」

「これもう天からの試練なのでは」


 あははと男の人が笑っていた。

 そして、寮の玄関から怒鳴り声が聞こえる。


「遅い! ブルグ!」

「ごめんごめん。いやぁ、ほんっっとに迷っちゃってさ」

「迷ったとしても限度があるだろう! なぜ留学前日に来るんだ! ヨルデール帝国に書簡出そうと思っていたところだぞ!」

「ごめんって! なんとか辿り着けたから! この子のおかげで!」


 私はどうもーと声を出す。


「アシュリー、ご苦労だった」

「いや、ほんとです……。目を離したらアマテラス学園と違うところに行き始めて……」

「お前一度病院行ったらどうだ」

「いやぁ、そこまでおかしくはないよ。ま、ありがとね、アシュリーちゃん。また学園でもよろしくね」

「よ、よろしくお願いします……」


 ツクヨミ様と男の人は言ってしまった。

 名前聞きそびれたな。誰なんだろあの人。私はアイリスさんに聞いてみた。


「あの人? あの人はヨルデール帝国第一皇子のフレズベルグ・ヨルデールよ」

「えっ」


 そんな偉い人だったんですか……!?







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