第18話
ドリトンは剣を握り、人々は血を流す。
革命のため、すべては自分が葬った精霊王のため。後悔して、悩んで、最後の最後で選んだ決断が本当に正しかったのか、ドリトン自身はわからない。
けれど、もう後戻りできなかった。
「最強騎士の首! 取れるもんなら取ってみやがれ!」
一つの国相手に戦争を起こしたツクヨミ。
ドリトン一人で、渡り合っていた。ツクヨミとしても一番の懸念点はドリトンであり、味方陣営となった今、ツクヨミを邪魔する者はいない。
「進め、進め! この国の王は俺にしか務まらん!」
「仲間が死んでも立ち止まらないで! 悔やむのは後回しよ!」
ツクヨミとアイリスの指示のもと、ツクヨミが持っていた軍勢が王国軍に突撃していく。
味方が死に、相手が死に。血が、王国内に溢れていた。どちらとももう止まることは不可能だった。やらなきゃやられる。もう王国内に安全な場所などない。
だが、一番優勢だったのは王国軍のほうだった。
王国軍はドリトンを後回しにし、ほかの兵士たちを殺していく。王国に不信感があり立ち上がったものが次々と粛清されていく。
ツクヨミももちろん悔やんでないわけではなかった。同胞たちが死んでいくのを見たくはなかった。
アイリスは悔やんだ。けれど、すぐに立ち直った。
ドリトンは再びまた後悔の念が襲った。あの時殺していなければとまた再び後悔していた。
人の死に思うところがないわけではない。
人が死ぬ世の中にしたのは自分たちであり、その道を選んでしまったのだから仕方がないと割り切るしかなかった。
が、限界が来た。
「ツクヨミ様……。もう……私は見たくないわ……」
と、弱音を漏らすアイリス。
同胞たちの死。間近で見ていて、心に来ないわけもなく。
「……だが、進むしかない」
「この先進んだって何があるのよ!? 同胞たちはまた死んでいくわ……。私たちの気持ちに共感して立ち上がってくれた同胞を、死なせていくなんて……。やっぱり私たちには革命は無理だったのよ……!」
「…………」
ドリトンはアジトの外で敵を見張りながら、中でリーダーの二人の会話を聞いていた。
すると、ドリトンはありえないものを目にしていた。外に見えたのは王国の軍勢でもなく、たった一人の女の子。
でも……それは本来ならこの世にいるはずもなかった。それは自分が殺したのだから。
「……アシュリー?」
外にはアシュリーがいた。
アシュリーはこちらに近づいてきている。俺を殺しに来たのかな。とドリトンは思った。それもそれでよし。アシュリーは俺を殺す権利があると、恨まれてしかるべきだと理解していた。
歩いてきたアシュリーは壁をすり抜け、ドリトンの目の前に現れる。
「あの、ツクヨミ様たちは?」
「……中に」
「そうですか。ドリトンさん、一緒に中に入りましょ?」
「え……」
「ふふ、どうしたんですか。私が生きていることが不思議ですか? ふふ。私は精霊の愛し子だったんですよ。精霊王となって復活したんです」
「復活した……?」
アシュリーはドリトンの腕を引っ張り、ツクヨミ様たちがいる部屋に引っ張り込んだ。
ツクヨミ、アイリスはその姿を見て驚いていた。なぜ死んだはずのアシュリーがいるのかわからなかった。
「復活に時間がかかってすいませんでした。私は精霊王となって復活したんですけど……。えと、この国の惨状はなんなんですか」
アシュリーの言葉には怒りが含まれていた。
ツクヨミはすべて説明をする。自分たちが国の革命のために起こした戦争だということを。
それを悔やんでいることも。すべて自分たちの感情を吐露する。
「なるほど。すべては私が死んじゃったから……」
「すまなかった、アシュリー……。俺が弱いばかりに、お前を殺してしまった」
「いいんです。あとから精霊から事情を聴いて納得しましたから。私は誰も恨むつもりはありませんよ。国の人だって一筋縄じゃないというのは理解してます。だけど……ここまでは流石にやりすぎですよ。私怒っちゃいますからね」
アシュリーは微笑みを浮かべていた。
「じゃ、やり直しますか?」
「やり直す……?」
「すべての原因は私が殺されたこと、なんですよね? だったら、みなさん3人が過去に戻ってやり直しましょう」
「できるの!?」
「私の力を使えば余裕です。まぁ、すべての力を使うんですけどね。あなたたちが過去を変えたらなかったことになるので大丈夫です。後悔のないように、未来でこんな最悪な形にならないように、過去に戻りましょう」
「……ああ。頼めるか?」
「はい。ただ……もしかすると中には未来の記憶を引き継げない人もいるかもしれないので、その時はクオキノイラミと唱えると、思い出すと思います。過去を変えようとした未来の記憶を。じゃ、円になってください」
ツクヨミたちは肩を組む。中心にはアシュリーがいた。
「必ず、過去の私を救ってくださいね。じゃないとまたこの未来になりますから」
「ああ、必ず救う」
「わかってるわ。任せて頂戴」
「……ああ」
アシュリーは魔法を唱えたのだった。
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