第17話

「アイリス・ドルムンク! 貴様を死刑とする!」


 目の前にいるのは元貴族とは思えないくらい汚い衣服に身を包んだ金髪ドリルのアイリス・ドルムンク元公爵家令嬢。

 錠につながれ、断頭台の上に上がろうとしていた。


「待ってください国王様! 彼女は何もしておりません!」

「黙れ! わが息子とともにクーデターを企てた罪! その罪は重い!」

「ですが……」

「ドリトン! 貴様も逆らうのか!」


 ドリトンは王に怒鳴られ、身を縮ませる。


「……過ぎた真似、申し訳ございませんでした」

「わかればよいのだ」

「……ですが、お願いがあります」

「なんだ? 申してみよ」

「……話す時間を少しだけください。彼女は俺の旧友なんです」

「そうか。許可する。連れていけ。決して逃げるなよ」


 そういって、ドリトンはアイリスと二人きりになる場所に連れていかれたのだった。

 アイリスは機嫌悪そうに口を開く。


「何の用かしら。国の奴隷さん」

「……すまなかった」

「すまなかった? その言葉であの子が浮かばれると思う?」

「…………」

「あんたが私と話したくても、私はあんたと話すことなんかないの。惨めね、父にすら逆らえない腰抜け野郎。あんたの顔なんか見たくないわ。さっさと死刑台に上らせてちょうだい」


 アイリスは部屋を出ようとしていた。

 それを引き留めるドリトン。


「違う! 俺はもう……決めた。決めたんだ。もうついていかないってことを」

「は?」

「逃げるぞ」

「逃げる? 何を言って……あなたも罪に問われるわよ!?」

「知らねえ! 俺はあんとき間違ったんだ……。ずっと後悔してた。ずっと死にたかった! 俺が殺しちまってよ……ずっと後悔して、ずっと死にたくて死にたくて仕方なかった! 俺が腑抜けだったばかりに! 弱虫だったばかりに! だけど、決めたんだ! 俺はもう弱虫にならねえって!」

「でも……あてはないじゃない!」

「あてはある! ツクヨミがいる! ツクヨミが隠れてるんだよ!」

「はぁ!? ツクヨミ様はあなたが殺したって言ってたじゃない!」

「嘘なんだよ! 俺が隠したんだよあいつの存在を! それをまだ王は知らねえ! 国家転覆はまだ間に合う!」


 ドリトンはアイリスの錠を外し、剣を握りしめる。


「俺はもう自分に嘘はつかねえ。誰を殺してでも、お前を守りツクヨミのところまで運ぶ」

「ドリトン……。わかったわ。許してあげる。逃げるわよ!」


 ドリトンは見張りの人間を斬り殺す。

 そして、強引にそのまま一緒に逃げていったのだった。王も逃げたことにいち早く気づき、裏切ったドリトンものとも殺せという号令が飛ぶ。

 追手が来るたび、ドリトンが斬り殺す。ドリトンが持っていた剣はすでに血で錆びていたが、力だけで叩き斬っていた。


「ドリトン……。あなた本当に覚悟が決まったのね」

「ああ。長い間自問自答してた。その答えが見えた気がする。俺はやっぱりあの時選択を間違えたんだ。今ならそれがわかる」

「そうね……」

「あいつがいなくなって、あの王はもっと傲慢になってしまった。そして、精霊の守りが消えて、災害に頭を悩まされるようになった。国力は精霊がいた頃よりはるかに衰退している。それも全部俺のせいだ」

「違うとは……言えないわ」

「ああ。否定しなくていい。事実は消えん。だからこそ、俺も裏切ることにした。あの王より、ツクヨミが王になったほうがはるかによかった。間違って、ようやく実感した」


 ドリトンは剣を強く握りしめた。

 血の道であろうとも、たくさんの死体が転がろうとも、もう腹はくくっていた。自分はどちらにせよ地獄に行く。

 地獄に行くことが決定しているのならば、もう迷う必要はなかった。


「俺が招いた事態は、俺の手で決着をつけるべきなんだ。だからよ、俺も協力する」

「わかったわ。じゃ、さっさとツクヨミ様のところに案内しなさいよ」

「こっちだ」








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