第16話

 精霊王の誕生を祝う者。祝うつもりは毛頭ないが王の顔を立てるために参加する者。

 様々な人がこの精霊王の誕生パーティに参加していた。


 その中で……。


「ドリトン」

「なんだ?」


 ツクヨミがドリトンに声をかけた。

 ドリトンが振り返った瞬間、ドリトンの手を引っ張り、ツクヨミは人気がない場所に自ら入っていく。

 ここは普段、貴族がひそかに密会し合うような場所。人がそこまで少ないからこそ密かに会うことができる場所。


 その場所で、ツクヨミはドリトンに詰め寄っていた。


「お前のその懐に入っているナイフは何だ」

「……ナイフ? な、なんのことだよ」

「とぼけるな。パーティでは刃物の持ち込みは禁止されている。なのになぜ持ち込んでいる」


 ツクヨミはドリトンの胸ポケットからナイフを取り出していた。

 ドリトンはとぼけてみたが、ツクヨミ相手には無駄だと悟り、事情を話し始める。ツクヨミはドリトンのことを友人だと思っていた。が、突然の裏切り。ナイフを持っていた理由によっては処罰も考える。

 だがしかし、すでになぜドリトンがナイフを所持していたかの理由はわかっていた。


「わかっているぞ。アンデルセン伯爵から指示を受けているんだろう」

「……なんでわかってんだよ」

「わかるとも。アンデルセン伯爵は表向きは親精霊派を名乗ってはいるが本当は反精霊派だ。王から命令されていつでも動けるように、疑われることを避けるために、親精霊派を名乗っている反精霊派。わかっているんだよ」

「……そうかよ。王子殿には最初からオミトオシだったってわけか。俺がお前に近づいた理由も」

「ああ。だが……お前自身は本当はやりたくない、そう思ってるだろ」

「…………」


 押し黙るドリトン。

 反論しようにも、できなかった。できるわけがなかった。あまりかかわったことはないが、精霊王であるアシュリーは善人だと理解していた。

 だからこそ、ドリトンは友人であると認識し、実行するのを躊躇っていた。だからこそ逃げられた。


「すべては父の命令か……。情けないな」

「なんだと……! お前に何がわかるんだよ……。生まれも才能も! 何もかも持ってるお前に何がわかるんだよ!」


 ドリトンはツクヨミの胸ぐらをつかんだ。

 

「俺はな! 無理なんだよ! 才能の何もねえ! 父上に見捨てられたら俺は生きてくことすらできねえ貴族のボンボンなんだよ! だから……だから言うことを聞くしかねえんだ……」

「……友人を殺してもか? その選択は未来で後悔を招くことになる」

「未来なんて誰にもわからねえだろ! 俺が誰を殺そうとも! あいつを殺そうとも未来は誰にだってわかんね」

「わかるんだよ。俺には」


 ツクヨミは淡々と述べる。

 涙を流し、王子につかみかかるドリトン。


「お前はまだ記憶が戻っていないのか」

「何のことだよ」

「記憶が戻ってない場合は……たしかこういえばいいんだったか」


 王子は一瞬考えて、口を開く。


『クオキノイラミ』


 ツクヨミがそう唱えた瞬間。


「……は?」


 ドリトンはツクヨミの胸ぐらを手放した。

 そして、頭を抑える。


「な、なん……なんだ、この記憶は……」

「……」

「こんなの……俺は知らねえ……。知るはずもねえ……」


 ドリトンの顔からは大量の汗が垂れ流されていた。

 ぽたりぽたりと滴り落ちる汗の雫。


「俺の……記憶か、これは……?」

「ああ。お前の記憶だ」

「違う……いや違わない……。たしかに体験した……。なんだ……?」

「いい加減目を覚ませ、ドリトン。お前も変えるために来たんだろ」

「そうだ……。俺は……」


 ドリトンの脳内に垂れ流される存在しているかどうか怪しい記憶。

 ただ、体験したという感覚がよみがえっていた。









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