第14話

 ここまできて帰るというのもいかがなものか……。

 私はとりあえずパーティには参加してみることにした。国の事情を知った今、怖くて震えてるけど……。逃げてもいいことはないと思う。

 精霊が嫌いというのも理解はできてしまったから。


「でも料理とかに毒が盛られてたらどうしよ……」

「それはないわよ。今回は立食形式で、誰が食べるかわからない料理に毒を盛るなんてことはできないわ。パーティ参加者全員をターゲットにするならばともかく、一人だけをピンポイントで狙って毒を盛るというのは不可能よ。ターゲットが手を付けなかったら困るじゃない」

「それもそうですね」

「盛るとしたら……配られる飲み物だろう。飲み物は給仕が配るのだ。それに気を付けておけばいい。ただ……こんな目立つパーティで毒を盛るとは思えんがな。親精霊派の公爵家は全員参加する表明をしているから彼らの目の前ではやることはないだろう」


 時と場所を……。

 私はツクヨミ様と話しながらパーティが始まる時間まで時間を潰していた。


 そして、パーティが始まった。王の挨拶があり、立食形式でのパーティが始まったと同時に、私のもとにたくさんの人がやってきた。


「初めまして、精霊王殿。私はレギウス・ドルムンク。ドルムンク公爵家の当主でございます。めでたい精霊王様への覚醒。誠に喜ばしいことです」

「あ、ありがとうございます……」

「ですが、力に覚醒したからといえど、あまり乱用はしないでくださいね。何かあれば、わが公爵家が後ろ盾になりましょう」

「えっ」


 いきなりそう言ってくるんですか!?


「お父様」

「おお、アイリス。食べてるか?」

「あまりアシュリーに厳しくしないでくださいね。私の友人でありますので」

「おお、そうか。我が娘が……。精霊王様と友達……。しかも同性で同学年の友達……。アイリスになにかされてないか? いじめとか」

「さ、されてません……」

「ちょっと! なんでいじめしてるような考えになるのよ!」


 アイリス様は憤慨して抗議していた。


「ドルムンク公爵殿。紹介が終わったら今度は私がいいだろうか」


 と、今度は金髪の女性が乱入してきた。


「やぁ、精霊王サマ。私はジュエリー・パルテシオ。パルテシオ公爵家のもんだ。よろしくな」

「え、えと……よろしくお願いします」

「なに、うちが公爵家だからって遠慮はいらねえよ? 私は精霊が大好きだからな。小さいころ、気まぐれで助けてもらったことがあってから精霊には何が何でも味方するって決めてんだ」

「そうなんですか?」

『たしかに助けた記憶あるわ』


 シルフが助けたみたいです。

 ジュエリー様はめちゃくちゃ気が強い女性みたいだ。


「パルテシオ公爵家は珍しい女性当主だ。そこが疑問だっただろ」

「そうなんですか……?」

「これは第一王子殿。ひそひそ話とはいただけませんぞ」

「も、申し訳ありません」

「ひそひそ話くらいいいじゃねえかよ頭かてえなぁ」

「パルテシオ! 当主の貴様がそんなんだから……」

「あ、あの……喧嘩は……」

「おっとすまねえ。めでたいパーティだ。口げんかしてる場合じゃないな」

「そうでした。こほん。精霊王様。誠におめでとうございます」


 と、ひょろっとした老眼鏡をかけた人がぺこりと頭を下げてきた。


「えと……」

「失礼。私はバリ・サファリア。サファリア公爵家の当主でございます」


 また公爵家。

 たしか公爵家全員が親精霊派……だから真っ先に挨拶に来るのか。


 ここにはサファリア家、パルテシオ家、ドルムンク家の三つの公爵家が集っていた。

 この人たちは全員親精霊派。頼もしいとは思うけど……。


 先ほどから感じる嫌な視線。私はその視線の先には誰がいるのかなんとなくわかっていた。

 国王様だ。国王様は見た目はよくしているけど、私に向けてくる嫌悪感がものすごく、とても嫌な心地になっていた。

 私の感情の機敏が三人にもわかったようで。


「精霊王様、どうかなされたのですか?」

「おいおい、元気ねえな。なにかあったのか?」

「どうかしたのですか?」


 あからさまに元気がない私を心配して声をかけてきていた。


「……ツクヨミ様」

「わかってる。三人も国王の立場もわかってるから素直に吐いてしまってもかまわないだろう」

「……はい」


 私は三人の当主様に事情を説明した。


「なるほど。精霊王になって感性が鋭くなってしまったが故の……」

「それよりだ。国王g」

「それより先は言ってはダメですよ。とりあえず、帰らせましょう。精霊王様の意思がそうしたいのならば」

「申し訳ないです……」

「構わないよ。アイリス、ついていってやってくれ。精霊王様が帰ることは私たちで伝えておく」

「は、はい!」

「なんかあったらパルテシオ家に逃げて来いよ! 最悪私が匿ってやるから!」


 私はアイリス様に連れられ、会場を後にする。

 あれほど嫌悪感を向けられたのは初めてだった。ただの嫌悪ではなく、憎しみも籠った視線だった。

 その視線は私にとって有毒であることも、今感じ取れた。


『あの国王ムカつくわね。殺してしまおうかしら』

「だめ……」

『精霊王様がこんなになってんのに精霊が黙ってるわけないじゃない! 会場にいた精霊は全員いなくなってたわ』

「……確かにいつの間にかいなくなってたけど」

『それぐらい嫌な相手ってことよ。精霊にとって人間はどうでもいい命なの。気まぐれで協力してるだけ。精霊王様が望むなら私たちはこの国に対しての支援はやめる。精霊王様の意思のままに』

「……そのほうがいいのかな」


 あの国王様はそれが嫌だと言っていた。

 なら、私が精霊の支援をやめさせたほうがいいことにつながるんじゃないだろうか。でも、こういうのって私の独断で決めたくないというのもあるんだ。

 どうしたらいいんだろう。












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