第11話
トレーニングルームはちょくちょく人が来るようだ。エドガー様はその大半の人と知り合いで、みんな筋トレ仲間らしい。
みんなダンベルや懸垂機にぶら下がったりしてめちゃくちゃ筋トレに励んでる。
「お、お嬢ちゃんこの器具やるかい!?」
「えっ」
「俺らがサポートしてやるからさ! ささ、やってみなよ!」
「えと……」
「ふっ……。アシュリー、そいつらに下心はないぞ。あるとしたら筋トレの沼にどっぷり浸からせたいだけだ」
「ええ!?」
それもそれでちょっと怖いですけど!?
でも試しにやってみる。重いしちょっとキツかったけど……。
「意外と楽しい……」
「「「「でっしょーーー?」」」」
ちょっと楽しかった……。
筋肉を虐めるのはちょっと楽しい。キツイけど、なんか爽快感があるというか。
なんか楽しくなってきた……!
「もっとやらせてください……!」
「よっしゃあ! もう1セットぉ!」
私はまた再びやり始める。
「キツイ〜! 誰か助けてぇ〜!」
「キツイか? 苦しいか? 耐えろ! それが筋トレだ!」
「泣きそう〜!」
「筋肉はまだ泣いてないぞ! イケる!」
やり始めると弱音が出るのは私の悪いくせだ。
私がバーベルを持ち上げていると突然トレーニングルームの扉が開かれた。
「アシュリー! 大丈夫か!」
「アシュリー!」
「お前ら何してる!」
と、ツクヨミ様たちの声が聞こえた。それに驚いて思わずバーベルを身体に落としてしまう。
めちゃくちゃ痛かった。精霊王の力を使って自分を回復させる。
「つ、ツクヨミ様……」
「おい、アビス。アシュリーに何をしていた……!」
怒気を孕んだ王子の声。それにビビり誰もが口を紡ぐ。
アイリス様が私に駆け寄ってきた。
「何かされてたのね? もう大丈夫よ」
「いや、あの……」
「何を、していたかと、聞いているのだ!」
「ツクヨミ様……。ちょっと聞いてください……!」
「言い訳か?」
「言い訳じゃないです! あ、あの! やってたのは筋トレです!!」
「筋トレ? 筋トレで助けてなんて言うはずがないだろう!」
そこを聞いてたんですね……。
私はなんとか回復し、ツクヨミ様に説明をしたのだった。ツクヨミ様はポカンと言う顔をしていた。
「筋トレしてまして……。癖で弱音吐いてしまうみたいで」
「お、俺らは何もしてねえ! 本当だ!」
「……筋トレ?」
「いやぁ、やってみると楽しいですね! エドガー様、教えるのものすごく上手で……」
「筋トレか……。たしかに器具は揃ってるな……。本当に筋トレみてえだな」
「もう……」
よかったぁ。
ツクヨミ様の怒りが収まり、ダンベルを手に取っていた。
「落ち込んでたのを励まそうとしてくれたんです。筋トレって良いですね」
「……ムキムキの、アシュリー?」
「……アシュリー。頼むからその可愛らしいフォルムでいてちょうだい」
「えっ!?」
「俺からも命令だ。筋肉ムキムキにはならないで欲しい……」
「ええ!?」
筋肉ムキムキになってカッコよくなろうと思ってたんですけど……。
「えと……」
「やるからやらないかはアシュリーの自由だ。王子様と筋トレどっちを取る?」
「……筋」
「おっとアシュリー。俺はアシュリーの大好物をなんでも用意できる。精霊をもてなすのも余裕だ」
「公爵家、王族の力を使えば余裕よ?」
なんだろう、絶対そっちには行くなと言う圧を感じる。
『私もムキムキなアシュリーやだかも』
「えぇ……!? ハマりかけてたというかもうハマってしまったんですけど……。動かないのも太りそうですし、こういう身体を動かす趣味はあったほうが……」
「筋肉イズベスト! 筋肉は全てを解決する……!」
「筋肉は全てを……」
「エドガー。もう貴様は口を開かないでくれ」
「おいおい、なにもそこまでしなくてもいいだろ」
「アシュリー、お金よ。お金だって全てを解決するわ……! お金なら私たちの方があるわよ……!」
「言われてみればたしかに……」
何を買うにもお金が必要……。
「お金出したらこっちに勝ち目ないですよ!? 資本の差が出過ぎです!」
「……たしかにお金の方がいいですね」
「初めて公爵家に生まれた身分に感謝したわ……」
「アシュリー、なんでも好きなものを買ってやろう」
「いいんですか?」
「あぁ。ムキムキになるよりかは……」
どうしてムキムキになるのを拒むんですか。
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