第10話
先ほども来たトレーニングルームはダンベルとかもろもろ置いてあった。
「これ一つ私室にしたんですか? 寮母さんの許可は……」
「とったよ! そういうトレーニングをする部屋もあってもいいかもしれないって言って作るの任されたんだ〜。たまに他の貴族さんも使うからねぇ。ほら、今もきたよ」
「アビスさん、今日もトレーニングさせていただいても?」
「はい、一応使用者名簿に名前を記入してくださいね」
と言って名前を記入した後トレーニングを始めていた。
すげえ筋骨隆々……。ものすごく鍛えたんだなとわかる。私がトレーニングをしてる男の人を見ていると。
「なんだ? 俺の筋肉に惚れたか? アシュリーさんよ」
「え、私の名前……」
「同じクラスだぜ俺ら。俺はエドガー。ギリジッド侯爵家のもんだ。よろしくな」
「え、えと……、よろしく?」
まさかの同じクラス……。なんて失礼を……。
「まさかアシュリーも筋トレに興味があるのか? ふっ、女にも筋肉の素晴らしさがわかるとはな……。俺と鍛えないか」
「でも……」
「なんだ? 精霊が教室を破壊したことで悩んでんのか? ふっ、あの竜巻、俺の筋肉なら耐えてただろう。精霊というのもまだまだだな」
『なんですとー!?』
「その程度で悩んでいては先へと進めないぞアシュリー! 精霊が暴れてもお前に非はないッ! 元はと言えばあのアブラハム伯爵令嬢が悪いのだ!」
そう言うけれど……。
「ウジウジ悩むくらいなら筋トレをしろ! 身体を鍛えれば心も鍛えられる」
「心も……」
「ウジウジ悩む軟弱な心を鍛えるなら筋トレだ!」
「……うん、やります」
私はダンベルを手にしてみる。
重い。だけど、なんとか持ち上げてみた。
「ふんっ!」
「最初から重いものをやったら怪我につながるぞ! まずは少し重いかなと思う程度のものでやるのだ」
「そう! 怪我したら元も子もないからね。これがいいかも?」
と、少し軽めのダンベルを渡された。
うん、私は非力ですから……。渡されたものは片手で持てなくもないが普通に重いダンベルだった。
私はふん、ふんと鼻息を荒くしながら何度も持ち上げる。
『アシュリー楽しそう』
「うん、ちょっと楽しい」
「ほほう? それが精霊か」
「あ、うん。そう」
「名前はあるのか?」
「……名前?」
そういえば知らない。
小さい頃から精霊さんと呼んでたから……。私は名前を尋ねてみるが、精霊はそんなのないと言っていた。
名付けてくれるならそれを名乗ると言われたので。
「じゃあ、風を使うの得意だしシルフとか?」
『シルフ! じゃあそれでいいわ!』
「ほほう。いい名前だ」
『アシュリー以外に褒められても嬉しくない』
「あはは……。我儘ですいません……」
「ふむ……。アシュリーよ」
「はい?」
「とりあえず謝るくせやめたらどうだ?」
「え」
エドガー様はそう指摘してきた。
「周りが上流貴族というのもあるからだろうが、何事も失礼だと考えてはそれこそ失礼だぞ。すいません、ではなく、お願いしますとか、そう言った前向きの言葉が聞きたい」
「前向きな……?」
「ピンと来ないか。例えばだが、お前が王子に何か頼み事をする際どうやってお願いする?」
「ええと……すいませんと謝ってから……」
「それがダメだ!」
「ええ!?」
目上の人にはそうやらないと……。
「いいか? ここは学園だ。本来、俺らの間には身分も関係ない。等しく、勉学を学ぶ場なのだ。なのに上下関係を作ってどうする? 俺らは同じクラスで学ぶ立場であり、身分だなんだの言い出したらキリがないだろう」
「そうですけど……」
「この学園は、身分の差も関係なく、優秀なものに学業を修めて欲しいと言う願いから作られたのだ。その願いをまずは汲み取るべきだろう。まぁ……身分の差を気にしてる貴族もいるからそこは見計らってだがな。少なくとも俺は気にしないし、ツクヨミ様、アイリス様も気にしてる様子はねえだろ。仲良いやつらにはすいませんなんて言葉いらねえんじゃねえか?」
……言われてることがその通り。
私が壁を作ってたのかな……。うーん。わからん。難しい話ではないと思うけど……。
でも、たしかに仲良い人にはすいませんなんて謝るのも失礼、かな?
「は、はい。わかりました。前向きに考えてみます」
「それはやらない人の発言だよアシュリーちゃん……」
「え、前向きにって……」
「そういう意味じゃなくて。とりあえず、何かしてもらったらすいませんよりありがとうとかそういう感じに」
「あ、そういう感じに……」
「……アシュリーって割と天然か?」
「それはわかんないです……」
天然じゃないと思うけどなぁ。
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