第8話
学園の方はあまり順調とは言いづらい。
精霊が暴れた一件以降、腫れ物扱いのような待遇だった。
気分を害したらアブラハム伯爵家の令嬢のようになるぞという声も聞こえた。
件のアブラハム伯爵家のヘンリー様は退学処分、家からも追い出されて行き場を失ってしまったようだ。アブラハム伯爵家の当主という方からものすごく平身低頭な謝罪を受けた。こちらこそ申し訳ない……。
そして今日は。
「はい、パプリェです」
平民街の飲食店でバイトしていた。
私には自由に使えるお金がないから……。一応国王様から貰ってるけど流石に使えない。
なので働いてる。精霊は申し訳ないけど連れてこなかった。ちょっとむくれ顔してたからお土産でも買っていこう。
「アシュリーちゃん! 客がいないテーブルも順次片付けてってや!」
「わかりました!」
私はテキパキと仕事をこなす。
孤児院にいた時からたくさん内職とかしてたから意外と出来るもんだなぁなんて思いながら、忙しい昼の時間帯を駆け抜けていく。
「いやぁ、初日とは思えないね! 毎日入ってもらいたいくらいだよ!」
「学校があるので……」
「学校に行くことがそんなに大事かねぇ? 人間、生い先短いんだから金を稼げる時に稼いでいたほうがいいよ。学業は貴族に任せてさ」
「あはは……。そうともいかないんですよ」
国としては私の保護と監視をしたいからこそ入学させたんだと思ってる。
だから私の退学はあまりないんじゃなかろうか。
「バーさん、お腹空いたので賄いもらっても……」
「ああ、今作ってあげるからね! 何がいい?」
「こう、ガツンとくるものを」
「わかった!」
客数も少なくなってきたところで私は昼食をとらせてもらうことにした。
女将さんである店主のバージリアさんが賄いを作ってくれた。バージリアさん特製タータンというご飯を炒めたもの。ニンニックの香りが香る。
「いただきます」
「どうぞ〜」
私はスプーンを手にして食べようとしていた時だった。
食堂の扉が乱暴に開かれる。
「らっしゃい。お客さん、扉はもう少し丁寧に開けてくれよ。壊したら……」
「静かにしろ」
女将さんにナイフが突きつけられていた。
「やはりここにいたか、愛し子よ」
「……どちら様でしょう」
いかにもお客さんじゃない見た目の男の人。そして、私を探していたという発言。
私の中の危険信号が鳴り響いている。
「逃げるなよ」
と、男は女将さんの首元を掻っ切った。
女将さんががはっと血を流しその場に倒れる。
「バーさん!」
「…………」
「愛し子。お前が生きていると困るのだ」
「…………」
どうしたらいい。
私のせいだ。誰なんだこの人たちは。私が生きてることの何が悪い。
バーさんの息は絶えてしまった。私が狙われて、それに巻き込んでしまった形になるんだろうか?
私が働きに来なければ……。なんて悔いている時間も今はなさそう。
精霊さんを連れてくればよかったかな……。私は戦えない。戦う力を持たない。
私は……。
「私は生きる。死にたくない!」
殺されてたまるものか……!
私は決意した途端、なんだか力が湧いてきた気がする。
今なら何か出来そうという確信。私はなんとなくでバーさんに治癒魔法をかけてみた。
バーさんの傷が塞がり、目を開ける。
「なっ……! たしかに殺したはずだぞ!」
「うーん……。何が起きて……。あたしは……。っとアシュリーちゃんその姿なんだい!?」
「わかんないです……。とりあえず私の後ろへ。あなたたちが誰だか知りませんけど、殺されるくらいなら私があなたを殺します」
「やばい、覚醒させちまった……!」
男は逃げようとしていた。
私は魔法を放つ。木の根が突如地面から生えてきて男の足と手を拘束していた。
「理解してきました。私は多分もう人間ではないかもしれませんね」
「…………悪かった、命だけは」
「…………」
私は殺そうと手をかざす。
その時。
「間に合ったァ! アシュリー! 殺してはダメよ!」
「アイリス、様?」
「精霊王の力に覚醒してしまったか! 早いな!」
「????」
「とりあえず殺すな! 情報を吐かせる!」
「えっ、あっ、はい?」
アイリス様、ツクヨミ様、ドリトン様が駆けつけてきたのだった。
私は言われた通りにしようかと思う。たしかに情報は吐いてもらわなきゃ……。
私は落ち着いてみる。が、なんか戻りそうにない。
「あの……私どうやってこの状態から戻れば……」
「それを俺らに聞くなよ……」
「わかるわけないわよ」
「ですよね」
精霊さんに聞いてみよう。
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