第6話

 私は鞄を手に取り、学園へ向かう。

 寮は学園の敷地内にあり、わざわざ馬車を使うほど遠くにあるわけでもないのでみんな歩いていくようだ。


 教室について私は自分の席に座る。

 貴族の皆さんはもう既にグループが出来てるようでもうみんな固まってる。

 上流貴族の中に放り込まれる私……。


 私はただひたすら一人で沈黙しながら時間を待っていると。


「ツクヨミ様〜!」

「きゃ〜っ! かっこいい〜!」


 ツクヨミ様が来訪。もちろんこのクラスの生徒なので当たり前にここに来るんだけど。

 ツクヨミ様はドリトン様を起こして来たらしい。ドリトン様も背後にいて寝癖がひどいように見えた。


「おはよう」

「おはようございます、アイリス様」


 アイリス様もご到着。

 アイリス様は私の隣に座り。


「おはよう」

「お、おはようございます……」

「改めておはよう、アシュリー」

「え、あ、おはようございます……」

「おはよーさん……」

「眠そうですね……」

「寝起きだからな……」


 ドリトンさんは欠伸をしていた。

 先生が入ってきて、とうとう学園生活が始まる。何事もないといいけどなぁ。


 という私の淡い希望は砕け散った。


「あ、あの……」

「何あんた。なんで王子様に話しかけられてんの?」

「えっ……いや……」

「色目使ったのねこの平民が!」

「違います……!」

「身の程を弁えなさい! あんたみたいなのが王子の目に適うわけもないわ!!」


 金髪の女性に呼びつけられたかと思うと、取り巻きの女性がバケツの水をぶっかけてきた。

 私は水を被り頭から水滴が滴り落ちる。精霊が怒って出て行こうとしたのを止める。


「落ち着いて。私はいいから。こういう扱いされるのも慣れてる」

『でも……』

「実際その通りだよ。身の程知らずなのは私。だから収めて」

『…………』


 精霊は不服そうにしながらも黙った。

 高笑いしながら出ていくお嬢様。私は立ち上がり、とりあえず制服を脱いだ。


「びしゃびしゃだなぁ〜。どうしよ。まぁ……濡れてるくらいだしいっか」


 私はそのまま制服を着直し、教室に戻った。


「……なぜ濡れてるのですか?」

「いやぁ、水の入ったバケツに足を引っ掛けて転んでしまって……」

「今すぐ着替えを用意させましょう」

「い、いいですよ! このままでも……」

「風邪ひきますので」


 と言われて替えの制服を用意される。私は仕方なくその制服に袖を通した。

 さっきの人は少ししくじったというような顔をしている。多分、目に見えるようなことをしたから危ないと思ったんだろうな……。私も報復が怖いから本当のことを言えなかったけど……。


 まぁいいさ。

 学園は3年間。3年耐えたらこんなことはきっとなくなるだろう。


「……何かあったというわけではないわね?」

「はい」

「この公爵家令嬢アイリス様に嘘をついていたらタダじゃおかないわよ?」

「……はひ」


 どうしよう。どっちも怖い……。


「嘘ね。ま、なんとなくそうだと思っていたけれど。犯人はおそらくあの子らかしら。くだらないことするわね」

「あ、あの……。あまり大事には……」

「もちろんするわ。あなたの友達なのだから守ってあげるのは当然よね」

「えっ、あっ」

「それに、あなたに対する攻撃はツクヨミ様も見過ごせないはずよ」

「だな」


 と、ツクヨミ様はものすごく怒った顔をしていた。


「誰にやられた?」

「あのアブラハム伯爵家ですわ」

「なるほど。平民ならともかく、上流貴族がこの子が精霊の愛し子だと知らんはずはないだろう。わかっててやっているな」

『ムカつくーーー! 殺しちゃえ』

「こ、殺すのはダメだよ!」

『アシュリーをいじめてんだもん! ぜつゆる!』


 精霊の怒りがまた湧き上がってしまった……。

 精霊はこの場の空気を支配した。談笑していた人たちも話を止めてこちらに視線を向けている。

 何かわからない恐怖があるのか、汗を吹き出していた。逃げようとしている人。だが、精霊は扉を閉じる。


「あ、あかない……!」

「ダメ! ダメだって!」

『じゃあアシュリーを虐めるのはいいの? そんなわけないよね。たかがにんげんごときがさ!』

「ひっ……」

「ヘンリー・アブラハム」

「は、はい。なんでしょうツクヨミ様……」

「この事態は誰のせいだと思う?」

「そ、そこの平民の……」

「違うな。愛し子に害をなした貴様のせいだ。どう責任取るつもりだ」


 私はなんとか精霊を宥めてみる。

 が、聞かない。聞きそうにない。耳を貸してくれない。

 教室の中央に竜巻が起こり、竜巻はゆっくりとアブラハム伯爵家の令嬢さんに向かっていく。


「おい! どうすると聞いている!」

「わ、私は悪くないですわ! そこの平民が……!」

「精霊さんダメぇええええ!」

「皆さん壁際に避難を! 手と手を繋いで竜巻に巻き込まれないように!」


 ああああああ、どうしよう!!!









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