第3話

 貴族寮には食堂というものがあり、朝食は主にそこで取るようだ。

 自分の家から料理人を連れてくる人もいるらしいが、ここには専属の料理人がいるようで、毎日豪華なフルコースが配給されるらしい。

 平民寮にも食堂はあるらしいけどここまで豪華じゃないんだとか。格差。


「美味しい? アシュリーさん」

「は、はひっ! 美味しいでふっ!」

「それはよかった。我が国の自慢の料理人であるからな」


 正直言って緊張してる今味が全くわからない。

 なぜ公爵家のご令嬢様とこの国の王子様に囲まれてご飯を食べてるんだろう。もぐもぐと咀嚼するけど味わうような気持の余裕はない。

  なんだろう、私何かしましたか。


「あの……。私のことは気にせずお友達と食べてください……」

「あら、私はあなたのことを友達だと思っているの。友達と食べてるだけよ」

「ああ。アシュリーは俺らの友人だからな」

「ひゅっ」


 なんですか。なんなんですか。

 私はちまちまとフォークで料理を食べていた。本当に緊張して全く味がわからない。

 私が困っていると、男の人と女の人が声をかけてきた。


「おい王子殿よ、お前に見られては食事しにくいだろその子も」

「アイリス様……。私も一緒によろしいでしょうかっ!」


 救世主。


「お前がその子に目をかけるなんて珍しいな。誰だ?」

「アイリス様? こちらのお方は……?」

「ああ、平民の子なの。アシュリーさんよ」

「まぁ、アシュリーさん」

「精霊の愛し子か。だから心配で見守ってんのかよ」


 男の人と女の人はテーブルについたのだった。


「初めまして、精霊の愛し子殿。俺はドリトン・アンデルセン。騎士の息子だ。こんな王子だがいい奴だからな。迷惑かけて悪いな」

「えっと、私はアビス・メイディンと申します。メイディン子爵家の者です」

「アビスさんにドリトンさん……」

「お前何しに来たんだよ」

「そりゃその子助けに来たんだろ。お前とアイリス様に見られてめちゃくちゃ緊張させてんじゃねえか。身分の差を考えろ」

「わ、私もちょっと困った様子だったので着たのですけどまさかアイリス様だとは……。わ、私のようなものがお声がけして申し訳ありません……」

「あ、いいのよ。それより緊張させてしまってたのね。申し訳ないわ。あ、そうだ。ならアビスさんも一緒に食べましょう。そのほうがアシュリーさんも緊張せずにすむでしょう?」


 なぜそうなる。

 いや、まぁ、ちょっとそうかもしれないけど。アビスさんは私の隣に座る。


「私もちょっと公爵家の人相手だと緊張しますけど、貴族として頑張りますので、安心してください」

「あ、ありがとうございます?」

「私も子爵家なのでそこまで身分は高くありませんが……。その分、平民に近い気持ちなので……。緊張するのもわかります……」


 とひそひそ話してきた。

 仲間……! わざわざ困ってる様子を見て助けに来てくれたんだ。優しい。優しい人いるんだなあ。


「アシュリー、俺に対しては緊張しなくていいからな。俺はこんな性格だからよ、かしこまられたりすると逆にむず痒いから」

「俺にもかしこまらないでいいから」

「あんたには普通するだろうがよ」

「…………」

「まぁ……。身分の差を考慮してなかった私たちが悪いわね。それはごめんなさい。でも、アシュリーさんと友達になりたいのは本当なの。これに関しては嘘もないのよ」

「ああ。友達としてかしこまらないでほしい。時と場合によるが、基本的にかしこまらないでいいから……」

「といわれましても……」


 身分の差って怖いんですよ。そのやさしさに甘えているとちょっと怖いんですけど……。

 私はちょっと勇気を出してみる。


「あ、えっと……ツクヨミ、さん?」

「ああ、なんだ?」

「あ、アイリスさん?」

「呼び捨てでもいいのに」

「それはさすがにダメだと思います、アイリス様……」

「そ、そう?」

「はい……。その、周りの貴族の方が何無礼なことをしてるのだという感じで敵視されるかも……」

「面倒よねぇ、そういうの」

「貴族も一筋縄ではないからな。お前らよりアビスのほうが貴族の何たるかを知ってるんじゃねえの?」

「え、いや、それはないです!!」


 優しい二人だなァ。

 二人のおかげでさっきより味がちょっとわかるようになった。私が楽しんでいると。


『アシュリーわたしにもりょうりちょうだい!』


 胸元から精霊が飛び出してきたのだった。







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