第64話 4-8 置き土産と余波

 ヴィオラで~~す。

 レーベリア王国の処罰は一応済みましたけれど、実はとっても意地悪な置き土産をしてきました。


 それは禁断の召喚魔法陣です。

 本当はね、王宮ごと魔方陣も消し飛ばそうかとも思いましたが、敢えてめました。


 理由は不完全であるにしろ、どこかに関連資料が残っていて、今後も誰かが勇者召喚の真似をする可能性もゼロじゃないからです。

 ですから、魔方陣そのものを少しいじって、もし同じものを使えば爆発するようにしたんです。


 遺しておいたモノは、何らかの形で記録に残ります。

 そうした記録が有れば、禁断の魔方陣と知っていても飛びつく輩がでてくるんでしょうねぇ。


 魔法陣を見つけたらすぐに神様が破棄すれば良いのにと考えたことから派生して、絶対に召喚できない魔方陣を遺し、かつ、使った者には即座に罰を与えるようにしたんです。

 レーベリア王国の地下に遺した改訂版の魔方陣を発動すると、魔法陣の召喚の部分は、空間魔法に置き換えられているために、魔方陣の描かれている地上部分が、およそ一万メートル上空に連結されるだけですので、多分、発動と同時に周囲から魔方陣めがけて空気が押し寄せることになるでしょうね。


 一気圧から一気に0.2気圧くらいの空間へと流れ込むことになりますから、その際の風速はかなりの強さになり、周囲に存在する物や人間をブラックホールの様に吸い込むことになるのじゃないかと考えています。

 吸い込まれたモノは、一万メートル上空に飛ばされ、普通の人なら一瞬で気を失うでしょうね。


 そうして地上へと落下するわけです。

 その上で、魔方陣発動の3秒後には、魔方陣そのものが1トン爆弾程度の破壊力で爆発するんです。


 魔法陣の中央部分から、その周囲百尋ほどが破壊されると思います。

 仮に魔方陣が描かれているのが地下であっても地上の建物ごと崩壊することになるでしょう。


 レーベリア王宮の宮殿は、400m四方ぐらいありますけれど、その四分の一が全壊、残りの部分は半壊することになるでしょうね。

 因みにこの魔方陣は、大勢の魔法師が寄ってたかって魔力を込めないと発動しませんから、組織的にやらないと発動しないんですよ。


 ですから国またはそれに匹敵するような団体が組織的に動かないと発動はできません。

 一応、神の使徒である天使エンゼルまでも幻影で見せて、勇者召喚が禁忌であるとおどかしたわけですので、滅多なことでは追随する者は出ないはずなんですが、のど元過ぎると暑さを忘れる輩が多いですからねぇ。


 将来はわかりません。

 ですから、そのための布石を打ったわけです。


 レーベリア王国若しくはこの魔方陣を真似した国または地域で、二度目の神罰がすぐに起きれば、馬鹿でも勇者召喚は危ないという事が分かるでしょう。

 因みにレーベリア王国以外に有った資料は、その後一カ月ほどかけて探し出し、全てを処分しましたので、レーベリアに残された改ざん資料ぐらいしか残りは無いはずなんです。


 これにはルテナが大いに活躍してくれましたし、神々もその所在が分かっているモノについては教えてくれましたので大いに助かりました。

 99.99%ぐらいの確率で関連資料は残っていないだろうと思います。


 可能性があるとすれば未発見の古代遺跡でしょうかねぇ。

 そうした中に召喚魔法に関連する記録があるかも知れません。


 今後、私(ヴィオラ)も気を付けてまいりましょう。


 ◇◇◇◇


 もう一つ特記すべきことは、これまでセリヴェル世界では、神の使徒と天使は必ずしも結びついておらず、教会の絵画や彫像にも天使が描かれているものがありませんでした。

 でも今回のレーベリア王国の懲罰に関連して、私(ヴィオラ)の見せた式神による幻影がそのまま口伝で広められ、多くの教会で神の使徒としての羽のついた天使エンゼルが偶像として作られるようになりました。


 教会にある神々の偶像の周囲には小さなエンゼルが配置されるようになったのです。

 何だかセリヴェル世界の宗教にも大きな影響を与えたようですね。


 間違いなく今回の一件が天罰として世の中に認識されているわけなので、こういった現象もやむを得ないことなのでしょうね。

 神々がいらっしゃることは、私(ヴィオラ)も確認していますけれど、実のところ天使については見てはいないんですよ。


 飽くまで前世の知識の中にあった創造の産物です。

 でも、地球の場合は、天使が本当に居るんでしょうかねぇ?


 因みに、禁断の魔方陣を改ざんするにあたり、魔方陣の構成を色々調べましたけれど、異空間から異世界人を召喚する空間魔法の部分がどうしても理解はできませんでした。

 時空魔法の一つではあるのですけれど、おそらくは試行錯誤の末に偶然に見つけた手法なのだと思います。


 何千何万と繰り返して、ようやく一度だけつながった世界から人を召喚したんでしょうね。

 そこに至るまで相当数の失敗を繰り返したと思いますよ。


 そんなに都合よく時空魔法が適切な場所へと誘導してくれるわけじゃないはずです。

 例えば、空間魔法による転移だって、私(ヴィオラ)は、何度も試行錯誤を繰り返しましたよ。


 だって転移した先に物体が有れば、その空間と入れ替わっただけで即死することになりかねません。

 そこが真空中なら空気が無くて1秒も経たずに死ぬでしょうし、跳んだ先がマグマの中や太陽の表面だったら即座に蒸発するでしょう。


 そうしたことを避けるには、一度行ったことのある場所で有って、なおかつ何もない場所であることを確認して動かねばなりません。

 例えば目的とする空間に鳥が飛んでいる等、何かの存在があった場合は、それらを避けて元に戻るような安全装置が必要です。


 そうしたものを魔法の中に組み込んで初めて安全に転移魔法だって行使できるんです。

 でも、なんだかよくわからないうちにできちゃったという代物には、理屈も何もわからないだけに安全装置が付けられないんですよね。


 私(ヴィオラ)の場合、多くの神々のお導きで前世の世界から魂だけをこの現世に移し替えられたわけですけれど、生身の身体を仮に前世の地球へ持って行こうとすると、そもそも次元が異なるのでしょうから、相当な試行錯誤が必要になるのでしょうね。

 もしかして、長い年月をかけて研究したならできるようになるかもしれませんが、私(ヴィオラ)自身は、今更、地球へ戻りたいとも思っていません。


 このセリヴェル世界で新たな愛すべき家族を得て、多くの知り合いもできて、それなりに幸せに生きています。

 何より自分の意思で自由に動き回れる身体を得ている幸せを常に噛みしめていますから、これを変えようとは思わないんです。


 ◇◇◇◇


 私は、エミリア・ディ・ラ・シス・オルソー・ドラベルト。

 ライヒベルゼン王国の第四王女でございます。


 学院の地理で教えていただいたレーベリア王国については、ライヒベルゼン王国の東方向にある国であって、我が国とは国境を接しているわけでは無いのですけれど、多少の知識はありました。

 でもそこで、最近、大きな異変が有ったようです。


 生憎と情報が輻輳ふくそうしていて未だ確定したものではないにしても、レーベリア王国の王侯貴族等60名余りが、神の使徒により処罰されたという第一報でございました。

 神罰という者になるのでしょうけれど、見せしめのために公開の場所での縛り首だったそうで、処刑後一月ひとつきの晒し刑になったそうです。


 何だか縛り首だなんてものすごく人間くさいやり方ですよね。

 神様ならばもう少し綺麗にできるのじゃないかとも思うのですけれど、・・・。


 同じく神罰が下った者に異世界から召喚された四人の勇者が居たそうです。

 この四人については、神罰が下る前に神の使徒様から口上が有って、召還された勇者には、それ以前の悪行の報いで煉獄れんごくの炎で焼き尽くすとの宣言が有って、この四人は召喚される前の罪により裁かれたようです。

 

 広場に突然出現した勇者四人は、瞬時に人間松明となって燃え上がり、最終的には燃え尽きたそうなので怖いですよね。

 では、なぜにレーベリア王国の王国貴族は、煉獄の炎じゃなくって縛り首なのでしょうか?


 今のところ、縛り首にしてその姿を晒すことにより、人々への戒めとしているのではないかという解釈が多いようです。

 勿論、私の元に当該情報が入ったのは、異変があって一月ひとつき以上も後のことですが、ライヒベルゼン王国の重鎮たちには王宮から事件後半月ほどで速やかな情報伝達がなされ、同時に注意喚起がなされたようでございます。


 曰く、召喚魔法に手を出してはならないと。

 そもそも召喚魔法自体はその詳細は伝わっていないものの、勇者召喚をすること自体が禁断の魔法として禁じられており、召喚がなされてから概ね八か月後には神罰が下されるという伝承が古くから伝わっているのです。


 これまで勇者召喚は数百年の間に四度試みられ、いずれの場合も、経緯は多少違っても召喚した国が亡びるとともにその周辺国家に大いなる災いをもたらしたそうです。

 ですから何故そのようなことをするのか私には理解できませんが、今回レーベリア王国がそれを行い、国王と王妃、それにその王子二人が縛り首になり、宰相や魔法師団長などの幹部が軒並み処刑されたために、ある意味で王政の維持が困難になったようです。


 現段階では、レーベリア王国内が群雄割拠を呈して内戦状態に陥っており、その後の様子が余り掴めていないようです。

 側近に情報拡散の可否を確認させた上で、私の友人たちにも早速この情報をお知らせしましたけれど、意外と皆さん淡白なんですよねぇ。


 まぁ、隣国ではないので、内乱に乗じた野盗の類の出没も影響ありませんでしょうし、当面、難民が大挙押し寄せるような場所でもないことから、ライヒベルゼン王国の諸貴族には関わりの無い話です。

 従って、その貴族子女があまり関心を寄せないのかも知れません。


 でも、いつもならばこうした情報にはさといはずのヴィオラ嬢までが何となく関心が薄そうなのが気になりました。

 もしかして、ヴィオラ嬢はこの情報を私より先に知っていた?


 でもどこから?

 この二月ふたつきほどは伯爵領には帰省していないはずですけれど、お父様のエルグンド伯爵様から伝書使等で情報が伝えられたのでしょうか?


 少なくともわざわざ領地から王都別邸に知らせるような情報ではないでしょうねぇ。

 王都の方が情報伝達は早いですし、王宮からのお達しも極例外を除いては、王都別邸を通じて密書として伯爵領へ通報されますからね。


 その際に伯爵へのお達しは、その子息までは伝えられないのが普通なんです。

 尤も、成人を迎えた嫡男には領主から伝えられますけれどね。


 ほんの少しですけれど、ヴィオラ嬢の関心の薄さが気になりました。

 神罰によって王族が縛り首に合うこと自体が、私にとって驚きでしたから余計に気になります。


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