第63話 4-7 勇者召喚の後始末

 ヴィオラだっぺ。(えぇっ??あぁ、もしかして、あの地方の言葉かなぁ?)

 レーベリア王国が禁断の召喚魔法を行使したことについて、神様とご相談をしなければなりません。


 王都別邸の地下に、私だけの礼拝堂を実は作っているのです。

 勿論、ロデアルの工房にもありますけれどね。


 私(ヴィオラ)の場合、転移魔法を使えばどちらにも行けるんですけれど・・・。

 ロデアルの工房の方は、私専用じゃなくって、工房関係者が誰でも利用できるように開放しています。


 どちらも柱や壁、天井の装飾は、至って簡素なものにしていますけれど、石造りの礼拝堂の祭壇には、きちんと創造神様を中心に他の12神様の石造が揃っているんです。

 あちらこちらの教会にも神様の像や肖像画がありますけれど、人が勝手に想像して作った神々ですし、あまり知られていない神様についてはそもそも像が無いんですよね。


 だから王都別邸の私(ヴィオラ)の礼拝堂は、写実主義に徹した神様像が置かれているんですよ。

 正面の祭壇には、セリヴェル世界の13神、礼拝堂の左右の側面には、アルコーブに地球の神々の祭壇もそれぞれに小さく置かれています。


 私(ヴィオラ)専用の礼拝堂だからできることですね。

 ちゃんと日本式の神棚もありますし、その他の地球の神様の神殿様式に則った祭壇もあるんですが、いずれもミニチュアです。


 本格的な神殿を立てたりしたら敷地がいくらあっても足りませんからね。

 例えば、日本の神様達の分は神棚一つですし、ギリシャ神話に出てくる神様もパルテノン神殿のミニチュア版一つです。(ゴメンナサイ・・・。)


 決して地球の神様達をあなどっているわけではありませんが、私(ヴィオラ)が居る世界はくまでセリヴェル世界ですから、やはり、この世界の神々を中心にすべきでしょう。

 王都に戻ってから、翌早朝に礼拝堂に入って、神様とご相談しました。


 礼拝堂で祈りを捧げると、すぐに反応してくれるのがとても嬉しいですね。

 今日は、私の願いに応えてくれて、創造神のヴェリエル様が顕現されました。


 久方ぶりでしたのでご挨拶を交わし、その上で現在の分かっている範囲での状況説明をして、その対処についてお伺いをしました。

 ヴェリエル様の決断は早かったですね。


 神々も禁忌の召喚魔法が使われたことに対しては既にご承知のようで、かなりご立腹のようでした。

 但し、神々が何らかの処罰を地上に下すのは、手続き上の問題もあって、どうしても相応の時差が免れないのだそうです。


 個々の神々が地上に干渉しすぎるのを防ぐ意味合いもあって、天上界で相応の準備をしなければ地上界へは力を行使できないようなのです。

 従って、私(ヴィオラ)が動いて関係者を処罰できるのであれば、私(ヴィオラ)の裁量に任せるとまで仰ってくれました。


 私(ヴィオラ)が行った処罰を見た上で、更なる処罰を課すかどうかは天上界で決めるそうですよ。

 過去において、数度、禁忌の召喚魔法が行使され、その都度、地上界では大きな災(わざわい)が起きたようです。


 一度目は、召喚された勇者に対して何の縛(しば)りも無かったことから、当該勇者が有る程度実力をつけたところで召喚者の意思に反して暴れまくり、召喚をした王国が真っ先に滅亡したそうです。

 そうして勇者たちの乱行が周辺国にまで及んだところで、神の鉄槌が下され、召喚された勇者は殲滅されたようです。


 二度目は、その様な過去の経緯を踏まえて隷属魔法による縛り(隷属の首輪ではなく、闇魔法による従属)を召喚勇者にかけて支配をするようにしました。

 ところが、勇者達がレベルアップをするに従い、魔法無効の能力が増大し、隷属魔法が効かなくなって実効支配ができなくなり、召喚した王国周辺の国家が荒廃し、次いで召喚した王国も滅亡したのだとか。


 二度目までは、いずれも召喚して以後8カ月程度の出来事のようでした。

 為に三度目と四度目は、その経験をもとに隷属の首輪が使用されたようです。


 闇魔法よりも隷属の首輪の効果が大きいらしいのですが、多分永続的に使えるものではないような気がします。

 神様の処罰が発動する8カ月以内の話なのでしょうね。


 三度目は、召喚した王国周辺の国家が勇者達を交えた軍の侵攻により大きく衰退、その際に戦場で生じた感染症(コレラのような症状)により召喚をなした王国を含めて多数の国が滅亡したようです。

 四度目の場合は、勇者達が軍とともに周辺諸国に侵攻中に神々の処罰が発動して、勇者が戦闘中に死亡したことにより、当該召喚をなした王国は、周辺王国から集中攻撃を受けて滅亡する羽目になったとか。


 いずれにしろ、勇者達も召喚をなした王国も必ず滅びるとわかっていて、召喚を実行に移した者の気が知れません。

 きっと目先の欲だけに捕らわれているのでしょうね。


 その意味では、神様が召喚魔法を禁忌にしているのだという事を良く良く知らしめなければなりませんね。

 これまでは、どうも地上界に住む者達の話し合いで、神罰がありそうなので禁忌にしようと決まっただけのようで、神様からの御託宣なんかは無かったみたいですね。


 一番良いのは、召喚魔法陣を発動した途端に当該王国を滅亡させるとか?

 でも、そういうことができたのなら、神様も既にしていたのかも・・・。


 神様達の地上界への干渉自体が余りできないようになっているので、そこまではできないのかな?

 いずれにしろ、ヴェリエル様の御墨付きをいただきましたから、私(ヴィオラ)のできる範囲でしっかりと罰を与えることにしましょう。


 首謀者達は、残酷なようですが見せしめのために縛り首の公開処刑ですね。

 王宮前の広場に罪状を記載した高札を立て、そのすぐそばに丸太で組んだ枠からぶら下げて、一月の間はさらすことにしましょう。


 そのためにルテナと私(ヴィオラ)は、三日間ほどフル稼働です。

 私(ヴィオラ)の留守中は式神にお任せで、今回の勇者召喚の関係者とその罪状を密かに調べ上げました。


 秘密裏に個別に面談し、闇魔法で全てを洗いざらい聞き出し、ルテナがアカシックレコードと照合して行くんです。

 勇者召喚の中心人物だけでも60名を超えることになりましたが、12歳未満は未成人なので当該事実を知っている者だとしても処罰の対象から外します。


 事情を知っていた人物まで含めると数百名の規模になりますし、勇者の訓練に携わる者まで含めると千名を超える規模になります。

 それらすべてを処罰することも可能ですけれど、例えば勇者達に無理やり夜のお相手を務めさせられたメイドを含めたりすると流石にかわいそうですよね。


 本来なら、高札と一緒に罪の証拠も一緒に公開すべきなのかもしれませんが、今回は敢えて省きます。

 その代わりに、これら処罰を断行する実行行為者として「神の使徒」を名乗ることにしましょう。


 その際には、翼を持った天使(エンゼル)の式神を多用し、人目につかせるのです。

 庶民の目に見えるような対応をしてやれば、神様の意向というものがあまねく広められるでしょう。


 悪いのは、主として王侯貴族の首謀者で、それに悪乗りした周囲の関係者もいますが、大勢の民草は何も知りませんし、関係が無いのです。

 但し、彼らの上に立つ者が押しなべて神の意向に逆らう悪行を為したことだけは、知っておいてもらわねばなりません。


 それゆえの公開処刑で有り、高札であり、天使の出現なのです。


 ◇◇◇◇


 レーベリア王国首都の王宮の正門付近には、大きな広場がある。

 ここは、王国の威勢を国民に見せつける軍のパレードなどが良く行われる場所でもある。


 レーベリア王国において、秘密裏に勇者召喚の儀式が行われてから5日目、間もなく太陽が中天に差し掛かる頃、突如としてその広場の中央に細い竜巻のような火柱が立った。

 二尋ほどの直径を有し、山ほどの高さまで高くそびえる火柱ではあるが、さほど熱さを感じさせない不思議な火柱だった。


 そうしてその火柱の周囲、高さが二十尋ほど上空に、八体の天使が忽然と現れたのです。

 天使達はいずれも七色にきらめいており、火柱の周囲を優雅に飛び回りながら、片手に持った角笛を吹き鳴らしました。


 八つの角笛はそれぞれに異なる音程をかなで、その音は王都中に響き渡りました。

 その音色を聞いて、何事が起きたと、王都の住民が戸外に出て来て、異変を知ります。


 なにしろ、王宮前の広場に太い火柱が山の高さほどにそびえたっており、街外れからも見えるほど高い位置に、火柱の周囲を飛び交う八体の天使の姿が見えるのです。

 八音程の角笛は、30ほどもゆっくり数えられるほど吹き鳴らされました。


 それから、大きな声が王都中に響き渡ったのです。

 男なのか女なのか判然としない声でしたが、耳の遠いご老人にも明瞭に聞こえる声でした。


「レーベリア王国は大きな過ちを犯した。

 それゆえにこれより大いなる神の裁きを受けることになる。」


 王宮内に居た首謀者の者達は、その声で、一様に恐れおののいた。

 自分がそれに関わったという認識が有るからである。


 神の裁きが関わると言うのであれば、禁忌の召喚魔法陣に他あるまい。

 然し、いかにも早すぎるのではないか?


 これまでは八カ月ほどの猶予が有ったはず。

 その間に周辺国を平定してしまえば、勇者が居なくなっても事後の支配は可能と予測していたのに、どこで間違ったのだ?


 そのような自分たちの勝手な思い込みをよそに、不思議な声はなおも続ける。


「召還された勇者は、それ以前の悪行の報いを持って、煉獄れんごくの炎で焼き尽くされるべし。」


 その声が終わった途端に、武装した四人の男達が忽然こつぜんと広場に出現した。

 訓練の為に王都周辺の樹海に入って訓練中であった勇者達であり、彼らはいきなり転移魔法で樹海から広場に転移させられたのだ。


 そうして、勇者達が何が起きたかわからぬうちに、一斉に青白い炎に包まれた。

 男たちの凄まじい叫び声が一瞬聞こえたが、すぐにその声が途絶えた。


 広場の中央には、松明たいまつの様に燃え上がる人柱が有ったが、不思議なことにその人柱は倒れずにそのまま立ったまま徐々に燃え尽きて行く。

 そうして不思議な声が続ける。


「禁忌の召喚魔法を企て、そうしてそれを実行に移した者は縛り首の刑に処し、その姿を一月ひとつきの間この広場にさらす。」


 その声が終わると同時にいくつもの丸太を組み合わせて作られた絞首刑台が、炎の火柱を中心に出現し、その一つ一つに人がぶら下げられた。

 その首にはロープがかけられ、後ろ手で縛られているために絞首刑に処されている者は抵抗もできずに首が絞められている。


 前世の死刑台の様に急激に上から落とされて首が締まれば、頸骨が折れて瞬時に意識を失ったであろうが、残酷なことにこの縛り首では、ジワリと自分の体重がかかったことから一気には意識が飛ばず、吊り下げられた者達が空中を蹴る動作をして、じたばたするが首が締まるだけで助かる可能性はない。

 広場の衛士が駆け寄って手近の者を救おうとするが、目に見えない結界がそれを阻んだ。


 更に、一人一人の縛り首の傍には高札が出現した。

 近くに寄らねば見えないが、結界近くまで寄ると何とか見えるようだ。


 高札にはぶら下がっている者の罪状が記載されていた。

 その末尾には『神々の使徒』と明記されていたのである。


 一刻ほどもすると火柱と天使が消滅し、一連の処罰は終了したが、その日のうちに王都中に神の処罰という噂が広まり、徐々に周辺諸国にも広がって行ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る