第58話 4ー2 コンカツ?
ヴィオラです。
中等部に進級して何が変わったかと言えば、トンカツ、いえ、間違いました。
つまりは将来の伴侶を得るための活動をしなければいけないらしいのです。
私(ヴィオラ)は、まだ9歳なのですよ。
あと二カ月もすれば、私も10歳になりますが、それでも前世でいうと13歳ぐらいになると思います。
まだ中学生の歳頃なのに結婚相手を決めるなんて考えられますか?
でも、お姉さまはこの秋に中等部の三年生になっていますけれど、中等部二年生の夏にお相手が決まってしまったのです。
お相手は、お父様と同じ国王派のハンスリーデン伯爵家長男のエリオット様で、お姉さまよりも三つ年上の15歳、もしかするともう16歳になっているかも知れません。
伯爵家を継ぐ嫡男の嫁になるわけですから、ある意味でとっても良い縁談なんだそうですよ。
親同士の話し合いで、ある程度話を煮詰め、お見合いはたった一度だけで婚約が決定したようです。
お姉さまが初等部1年と中等部1年の際の3年生でしたから、エリオット様と学院内で顔を合わせたことはありそうですけれど、お姉さま曰くお見合いまでは話もしたことの無い人のようですよ。
お輿入れ自体は、お姉さまが学院の中等部を卒業後に両家の都合の良い日を選んですることになっているようです。
勿論、お兄様だって既に婚約者がいるのですよ。
お兄様は、バンシュミット侯爵家三女のミューズ嬢と結婚する予定になっています。
ミューズ嬢も、今現在は中等部二年に在学中で、私(ヴィオラ)よりも一つ上の方ですから、お姉さま同様、中等部を卒業してから結婚の運びになります。
この二つの事例を見ると、中等部在学中にお相手を決めるのが普通なのでしょうか?
前世の記憶に引きずられている私(ヴィオラ)にとっては、とっても早すぎると思うのですけれどねぇ。
私(ヴィオラ)の考えがおかしいのでしょうか?
前世で家庭教師の安奈先生に教えられたのは、明治時代よりも前の日本では女は幼くして嫁ぐこともかなり多かったそうです。
豊臣秀吉のお嫁さんは『
小学校の6年生ぐらいの娘を嫁にするわけですので、秀吉さんて、ひょっとしてロリコンだったのかしらと思うほどですよね。
いずれにせよ、戦国から江戸にかけての女性の場合は、如何にも結婚する年齢が早かったようですね。
満年齢で6歳とか7歳とかでお輿入れをしても、お床入りはもっと後になることもあったとは聞いていますけれど、あまりに早すぎる結婚はしばしば子をなすときに障害になったようですね。
一つには、当時の医療技術や衛生観念が進んでいなかったこともありますけれど、身体が出来上がっていないうちに妊娠すると母体の方にかかる負担も大きいのです。
ですからお産は女の戦場でもあったはず。
上手く子供を産むことができればよし、さもなければ母子ともに死ぬこともままあったのです。
貴族の場合は、血筋を残すために早めに嫁を迎え、そうして予備で側室も抱えて、子作りに励むのが家長の大事な仕事の一つになっているのです。
この辺は、江戸時代の武家と同じかもしれません。
何よりも家の存続の為に動くのです。
本音を言うと、その古い考え方に私(ヴィオラ)がついて行けないんです。ごめんなさい。
前世で読んだり音声ソフトで読み上げてもらった書籍の中に、いくつか〇〇クイーンのロマンス小説が御座いましたけれど、どの場合も、最低でも高校生以上の年代の人がヒロインでしたね。
主流は、18歳から25歳ぐらいの人で、この年齢の女性が最も輝いている時期だとも思います。
バルディス世界で云えば、概ね14歳から19歳と言うところでしょうか?
ですから、私としては、せめて14歳ぐらいまでは自由な恋愛をしたいのですけれど、どうも周囲が許してはくれそうにありません。
お姉さまの婚約成就に気をよくしたのか、お母様が率先して私(ヴィオラ)の婚活に動いているのです。
勿論、私(ヴィオラ)に事前の相談などありませんよ。
お父様とはそれなりに相談されているようですけれど、娘の嫁ぎ先を決める話に10歳前後の娘の意思をわざわざ確認するおつもりは無いようなのです。
でも、これってある意味で私(ヴィオラ)の将来を決める一大事ですよね。
私(ヴィオラ)の未来が、お母様とお父様の一存で決められてしまうなんて・・・。
前世の私は、ほとんど寝たきりの状態で短い人生の半分を生きていました。
でも前世は、民主主義の世の中であり、誰にでも平等な権利と機会が与えられていた世界でもありましたからね。
バルディス世界のような封建主義の思想には、なかなか馴染めないんです。
そんな私(ヴィオラ)にも対抗武器はあるんですよ。
私(ヴィオラ)が推し進めている各種生産工房であり、農業改革などです。
ある程度は職人が自立できるように修行を積ませていますけれど、私が居なくなったら計画が頓挫してしまうような分野があるかも知れません。
今や、私(ヴィオラ)が関わっている産業が生み出す利益は、エルグンド家の財政の6割以上を担っていますからね。
仮にそれらの財源が減少するようなことになれば、エルグンド家そのものの衰退につながりかねません。
ですから、お母様も無暗なところへ嫁には出したくないようです。
私(ヴィオラ)が嫁いだ先で、ロデアルと同じように職人を育て始めたりすれば、そこが強力なライバルになり得ますからね。
その辺をどうするかも含めて色々考えているようで、他家の次男坊や三男坊辺りに嫁がせて、
私(ヴィオラ)は、政争とか家の駒に過ぎないのでしょうか?
あんまり酷いことになりそうなら、私(ヴィオラ)は家出も考えますよ。
生きる術なら持っていますからね。
一人でも十分生きて行ける自信はあります。
何故、このようにお母様たち動きについての詳しいかと言うと、家族の安全確保のためもあって、常時お母様とお父様の傍には監視の
お母様とお父様が
一応、お父様とお母様の良識を信じておりますけれど、場合によっては強硬手段をとることもやぶさかではありません。
では、今現在の私(ヴィオラ)の周辺に素敵な男性が居るのかと言えば・・・、うーん、居ないですよね。
同級生の男子は精神面でも知識面でも幼な過ぎると感じていますから、今後の成長如何ではありますけれど、今現在は選択肢に入りません。
上級生の男子についても、念のために素行調査なんかもしましたけれど、所謂尊敬できるような先輩はいませんでしたね。
それより上の方?
たくさん居すぎますので、一人一人調べるのが大変です。
尤も、別の意味で怪しい人物とか危ない人物とかについては、結構リストアップしていますので、少なくとも嫁に行きたくない人物ならばすぐにも言えますよ。
私の結婚相手について語るとすすなら・・・。
難しいですねぇ。
今のところ、恋に恋する年齢にも至って居ないからなんでしょうか?
一応生理も始まりましたので、結婚できる身体にはなりつつあるんだと思います。
だからと言って、いきなり隣の男子が気になったりはしませんよ。
私(ヴィオラ)の未来の旦那様がどこにいるかは知りませんけれど、できれば自分でしっかりと選びたいものですね。
私は常々そう思っているのですけれど、同級生の意識は少し違うみたいです。
中等部卒業前に何とか嫁ぎ先を見つけないといけないという焦りに似た強迫観念に取り付かれている女子がかなりいそうなんです。
エミリア王女は、その点、達観していますね。
側室の娘であるために、父である国王の命に従い、どこにでも嫁ぐ覚悟ができているようなのです。
同じ寮生のルミエ嬢も、どちらかというと運命任せのところがあるかもしれません。
ルミエ嬢は、中等部進級時の成績から言えば中の中ぐらいで、さほど良い成績ではないことから、良いコネでもない限りは、余り良い嫁ぎ先は無いだろうと半ば諦めている様子が伺えます。
ご本人から聞いた話ではありませんよ。
内緒で
盗み読みの言い訳をするつもりはございませんが、ルミエ嬢が中等部進級時に幾分落ち込んでいたように見えたので一応秘密裏に調べたのです。
ですからエミリア嬢の場合は、嫁ぎ先について多少気にはしていても思い通りにならないと諦めていることが伺えます。
学院は貴族の子女が集まるところですから、大勢の貴族の娘たちは迫りくる婚活期限に向けて焦燥感を覚え、半ば神頼みをしているような娘も少なくないようですね。
一方、男子の方はどうかというと、婚約者を決めるまでには結構時間的な余裕が有るのです。
お兄様の様に学院中等部を卒業して間もなく婚約者を決めてしまうのはむしろかなり早い方なのです。
男性の場合、特に爵位を継ぐ立場の嫡男である場合は、さほど急がず、しかしながら一方で早目に子作りするための一環で、ある程度は早めに正妻を決めるのが普通のようです。
嫡男の場合で云うと、15歳頃までに婚約者を決めるのが一般的のようですね。
一方で、次男や三男の場合は少々様相が異なるのです。
次男や三男の場合は、長男が婚約者を決める前に婚約者を決めてはならないという不文律があるのです。
江戸時代の武家社会においても似たようなことが有りました。
武家の次男は「部屋住み」と称されて、嫡男に万が一のことが有った場合の予備として据え置かれたのです。
予備の立場で子作りなんぞできませんから、当然に独り身の飼い殺しです。
嫡男に子供が生まれて初めて一人立ちできるようになるらしいのですが、貧乏武家では独り立ちだって難しいのです。
そうしてこの世界でも似たようなことが生じているのです。
貴族の嫡男が嫁を迎えない限りは、次男坊や三男坊は婚約者を決めることができません。
江戸の武家社会の慣習と異なることは、長男に子供ができるまで飼い殺しという事にはならないことでしょうか。
武家社会では、お家騒動による取りつぶしをとにかく気にしましたので、そのような習慣ができてしまったのですね。
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