第24話

「”しげ子”に関しては一旦これくらいにして、”のぶすけ”が他のメンバーを閉め出す、っていうところから話を戻しましょうか」

 大介はうなずく。

「まず、他のメンバーを建物の外に出す必要があるけど、これは壁の爆破を利用したんでしょうね。ただでさえ”むねすけ”とか”はるすけ”が殺されて混乱している最中、大爆発なんてあったら余計にパニックになったはず。そして、うまいこと皆を誘い出したら、B棟とC棟を入れなくしてしまえばOKね。そして、その時に”のぶすけ”が利用したことがあるんだけど、それは大介ももう分かってるわよね?さっき手伝ってもらったし」

「ああ。橋に置かれてある銅像の配置を変えることと、音のでるスピーカーをつけたラジコンのような機械だろ」

「うん。それと、毎朝七時から九時まで二時間発生するあの霧ね。第二グループの五人が寝間着姿だったことを踏まえれば、爆破があったのは早朝とかだったと思う。そして寝起きのメンバーを外に出し、何があったのか調べている間に、”のぶすけ”は銅像の位置を変えたり、あらかじめ準備しておいたラジコンを作動させたんでしょうね」

 橋にある銅像は、丈夫ながらも材質的には軽く、一人でも運べるほどのものだったし、ボルトで簡単に留められているだけだったので、取り外しも難しくない。

 霧が発生し、『加護を授かりし者たち』や『SSS』のメンバーがそれぞれ動き出した際、里莉と大介もこっそりと動いており、橋にあった銅像を別の場所にセットしていたのだ。つまり、北東の橋にある猫の銅像を北西の橋に移動させ、北西にあった鳥の銅像を南西の橋に移動させ……ということをしていたのだ。そしてさらに、アラーム音のなる機会を遊歩道に二箇所セットし、音を出しつつ移動させていたのだった。

「里莉が試したかったことっていうのは、あの霧の中、今言った仕掛けで人は建物を誤認するかどうかを確かめたかったんだろ?」

「ええ。”のぶすけ”としては、時間を稼ぎたかったんじゃないかなって。壁が開いた状態で、あんな大きな音が出ていたら、やっぱ怪物が来るのを恐れて消そうとするでしょ?それで、聞こえてくる音を追って遊歩道を探していくでしょ。でも音の元はラジコンで動かせたし、しかも複数あったから、音源を探している人は遊歩道を知らず知らずのうちに長いこと歩かせることができたわ。霧の中グルグルと歩いていたら、自分が今どの部分にいるのか分からなくなるでしょ。霧のせいで目安になるものも見つかりにくいし、そもそも遊歩道の植え込みとかからして代わり映えのない景色だったし。さらに、大学の建物の配置や橋の位置も、対称的で見た目も似てるから、なおさら自分がどこにいるのか分かりにくいわ。守衛室とか門の位置ですら中央から見て対称の場所にあったからね。自分が今どこにいるのか、どの建物に来たのかを判断するのは、橋に置かれた銅像になるでしょう。そしてその銅像が入れ替えられたとしたら、建物を勘違いしちゃうのは想像に難くないわ。というか、実際に成功したもんね」

 邦弘はD棟とは思わず、『SSS』が仕掛けた罠に引っかかっていたし、308番や309番はD棟だと勘違いし、自分達の仲間が仕掛けた罠にかかっていた。冬華や真里も、建物に入って初めて、自分が思っていた建物と違う建物に入ってしまっていた。

「あの銅像が入れ替えられてるってよく気付いたな」

「まあ、方角的にね。あの四つの像、デフォルメされていたから分かりにくかったけど、亀の像は玄武、蛇の像は青龍、鳥の像は朱雀、猫の像は白虎を表してたと思うのよ。亀は分かりやすいけど、牙の生えた猫じゃなくて実は虎で、蛇じゃなくて龍のつもりだったのよ。そうなってくると、私たちが来た時には、B棟につながる橋には玄武である亀があったけど、置くとしたら北の方になるはずだから、もしかして入れ替わったんじゃないかなって思ったのよ。まあ、橋の配置がそもそも東西南北じゃなくて、北東、南東、南西、北西とずれているから、厳密には方角は違うけどね。とにかく、元々置かれていた銅像を別の橋と入れ替えることで、霧の中、何とか戻ってきたメンバーが鍵を使って自分たちの部屋のある棟に入ろうとしても、建物が違うから、電子錠が開かない。別の棟の鍵だと開かないことは実証済みだからね。そうして、外に誘い出したメンバーの持っている鍵では開かない別の建物におびき寄せることで、さらに時間を稼いだのよ。例えば、B棟に行くつもりだったとして、”のぶすけ”の策略で間違ってA棟に来ちゃったら、一度橋を渡って遊歩道を通ってから別の橋を渡り、隣の建物にいかなくちゃいけない。つまり、隣の建物に移動するだけでも遠まわりをしなくちゃいけないのよ」

「時間を稼ぐ必要があったということは、やっぱ単独犯なのかな」

「ええ、そうね、そう考えてるわ。まあ、これまでに分かっている情報だけだと、複数犯の可能性も否定はできないけど、とりあえずは考えなくていいわ」

「それは後々考えるのか?」

 里莉はきっぱりと首を横に振り、

「ううん。まず単独犯だとして全体を考えた時、特に大きく引っかかることもなく最後まで考えられたから、複数犯のことは考えなかったわ」

「そ、そうか。まあ、そもそも里莉がしっくりくる解答を見つけるためだし、それでもいいかもな。うん」

 そこについてはあまり触れず、とりあえず納得したようにうなずき、大介は続きを促す。

「とりあえず、”のぶすけ”の計画通りに建物から閉め出された五人についてだけど、”ひですけ”、”やすすけ”、”よしすけ”の三人は怪物に殺され、”つな子”はボウガンで殺された。まあ、この理由としては、はっきりとしたことは分からないけど、”のぶすけ”としてはあんまり建物の近くにいて欲しくなかったんじゃないかと」

「もしかしたら建物の中に入られるかもしれないからか?」

「それもあるだろうし、あと大学の建物って水路を隔てた場所にあって、その水路がお城の濠のような役割を果たして、怪物が近づきにくいかもしれないでしょ。だとするなら、仮に建物に入れなかったとしても、案外怪物から逃げれるかもしれない。だから、建物の近くにいたから、殺すつもりがなくても、威嚇で撃って建物から離れさせようとしたのかも」

「”みつすけ”が守衛室で毒を飲んで死んでたけど、これも”のぶすけ”が仕掛けたんだろ」

「うん。でも、明確にあの毒で殺害しようとは思ってなかったかもしれないわね。ほとんど持ち物もなく外に閉め出されたメンバーも、時間が経てばお腹が減ったり喉が渇いちゃうでしょ。でも、ネットカフェのあったビルとか、コインランドリーの建物内の水道は、壊されたり泥水を混ぜられて飲めないようにされてた。そのとき、ぱっと見、手付かずに見えた守衛室の水道があれば、そのまま飲んじゃう可能性が高くなるからね。ましてや守衛室に鍵でもかけていれば、苦労して侵入できた分、さらに注意力が散漫になるでしょうし」

「誰でもいいから罠にかかればいいや、って感じか」

「まあね。前も言ったけど、毒が仕掛けられていると知ったら、残りのメンバーは、たとえ外で"のぶすけ"が何も仕掛けてない普通の水道水を見つけたとしても、疑心暗鬼になるだろうからね。怪物にも狙わせて、さらに一切飲み食いもさせないようにしたんでしょう」

「……ってな感じで、第二グループの五人に関してはこれくらいかな」


「で、次は"しげ子"を殺したのは誰かって謎だけど……」

 と、大介が何か言いたげな様子で里莉の方をうかがう。

「分かってるわ。"つぐ子"のことよね。B棟に部屋がある"つぐ子"は閉め出されたんじゃないのか、ってことよね。大介もある程度は予想がつくだろうけど、これについては後で話すわ」

「分かった。で、"しげ子"を殺したのは誰かっていうのは、まあ話の流れ的に"のぶすけ”、ってなるんだろうけど……」

「ええ。"しげ子"を部屋に閉じ込めたのは複数人いたはずだけど、逆に"しげ子"の部屋を開けたのは一人だったというのはさっき言ったわね」

 ロッカーを運んできたときは二人以上だったのに対し、扉の前から動かしたのは、廊下の床の傷跡から一人だと判別できた。

「残りのメンバーを建物から閉め出した後、"のぶすけ"が"しげ子"を出してあげると見せかけて殺したんでしょう。でも、それでも謎は残ってるわね」

「死体があんな状況だったことだろ。顔を潰そうとして、さらに両手ともに炎で炙られていたからな。そんな事をする理由が分からない」

「うん。それも"のぶすけ"の一連の計画の内の一つだったと考えてるんだけど、これも後で話すわ。ともかく、可能性としては”つぐ子”も一応残っているけど、後で話す理由から見て”しげ子”を殺害したのは”のぶすけ”で間違いないと思うわ」

 と、里莉は少しもったいぶる。


「次は誰が"のぶすけ"を殺したのか、ってことだな。まあ、ここまでの話の流れだと、残った"つぐ子"なんだろ」

「まあね。さっき後回しにしたけど、B棟に部屋がある"つぐ子"も本来なら建物から閉め出されたはず。でも、普通に建物内にいたということは、どういうことか。"のぶすけ"がB棟とC棟に入れなくする前に戻ってこれた、っていう可能性もあるけど、私が考えたのは、秘密の通路を通って建物内に戻ってきたんじゃないのか、ってこと」

「俺たちが使ったあそこだな」

 D棟の建物を覆う土壁のとある場所に、土壁を加工して作られた秘密の通路があったのだ。『加護を授かりし者たち』がD棟から脱出し、その後『SSS』の面々がD棟の中を調べていたときも、里莉たちはその秘密の通路に身を潜めており、最後荷物をまとめて出ていくときも、邦広が倒れている出入り口ではなく、その通路を使ってD棟から出ていった。

 一見すると普通の土壁なのだが、その一部が加工され隠し扉のようなものが作られていたのだ。それを開けると、建物を覆う土壁の中に秘密の通路が存在していたのだ。その先は一階にある使用されていない売店の窓に通じていた。出口も一見すると塞がれているように見えるが、こちらも巧妙に扉が隠されており、それを開けることで中に入ることができる。

「あの隠し通路を見つけたのも、能力のおかげか?あそこで能力が発動されたことが分かったから、あそこになにかあるって」

「それもなくはないけど、能力が無かったとしても、あそこに何かあるのは想像がついたかな」

「そうなのか?」

「うん。これが"のぶすけ"の殺害とも関わってくるんだけど、"のぶすけ"の死体を見たとき、ちょっとおかしいなって思ったのよ」

「おかしい?」

「"のぶすけ"はボウガンを持って死んでたけど、特に争った形跡もなく、不意をつかれて殺された、っていう状況がおかしいと思ったのよ。"のぶすけ"はボウガンを持ってたということは、まだ誰かがいるかも、って思って移動してたはず」

「まあ、建物から閉め出したメンバーがまだ死んでないかもって思ったのかもしれないな」

「だから、それなりに注意はしていたはず。でも、"のぶすけ"は後ろから頭を何度も殴られて死んでいたでしょ。つまり"のぶすけ"は、ってことになるわ。でも、あの場所は身を隠すところなんて無かった。じゃあ後ろからこっそり近づいた?ううん、それもなさそう。だって"のぶすけ"が殺された場所って砂利が敷き詰められた場所だったでしょ。実際、死体のそばを歩いたら音が出てたから、仮に犯人が気配を消して近づいたとしても、気づかれる可能性が高くなる。なら、犯人が"のぶすけ"に近づいたルートとして残るは建物の方からってことになる。だから、もしかしたら秘密の空間とかがあるのかも、って考えたのよ」

 そして、"のぶすけ"が倒れていた付近の、建物を覆っている土壁を調べ、秘密の通路を見つけたのだった。

「元々は"むねすけ"が能力を使ってこっそり使ってたんでしょうね。"むねすけ"に聞いたのか、"むねすけ"がこっそり通ってたのをたまたま目撃したのか、詳しいことは分からないけど、その秘密通路を"つぐ子"は知っていた。そこで、建物から閉め出されても、そこを使って侵入したり、その存在を知らない"のぶすけ"の不意をついて殺害したのよ」


「というわけで、第三グループの三人のうち、二人までの話が終わったわね。残るは"つぐ子"よ」

「"しげ子"は"のぶすけ"に殺されて、"のぶすけ"は"つぐ子"に殺されたと。となると、残った"つぐ子"は誰に殺されたんだ?第二グループの五人はすでに死んでたんだろ?」

「ええ、それは間違いないわね」

「自殺とか事故とかでもないんだろ?明らかに誰かいた感じだったし」

「そうね。"つぐ子"を殺した後に、倉庫から誰かが出た痕跡はあったし、返り血を洗い流した跡とかもあったからね」

「……つまり、十一人目の人物Xがいた、ということか?」

 大介の問いに里莉はしっかりと頷き、

「ええ、そうよ。そしてそのX""だと私は考えているの」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る