第7話
ときに、困難は続くものである。
陽が落ち始め、そろそろ今夜休むための天幕を張ろうとしていた矢先に、それはやってきた。
メメの表情が急に強張り、戸惑うノアンを強引に
「行け!」
メメが
メメが素早く
「メメ!」
「構うな! 時間を稼ぐ!」
それは“虫”と呼ばれる、この砂漠で最も大きく、最も危険な生き物だった。砂に潜り獲物を狩るもの。もうすぐ産卵の季節で、目の前の“虫”がひどく飢えていることにメメは気づいた。本来深追いはしない性質だが、見境のなくなった地中の“虫”は
ヌイが注意を引くように、鋭く鳴きながら飛び回る。“虫”は目ではなく音で見る。ヌイに惑わされている内にメメが対処できればいい。一撃でも浴びせられれば退くはずだ。
そう判断して、メメは“虫”の前に飛び込んだ。ナイフが確かに“虫”の腹を裂く。
しかしその時、地平線に触れた夕陽の光が一瞬メメの視界を奪った。痛みに暴れた“虫”の顎先がメメの
赤い石に一筋の傷が入る。
「あ」
か細い声を残して、メメは倒れてしまった。
ヌイがけたたましく鳴き、ノアンと
“虫”はいくつもの穴を残して地中へ逃げ、辺りは再び静寂を取り戻していた。ノアンはメメを見つけると、
「メメ、どうしたの、メメ!」
叫んでも、揺らしても、抱きしめても、メメの瞼は閉じられたままだった。穏やかに眠っているような顔が、ノアンには恐ろしかった。砂漠の気温が落ちるのにつれて、メメの体もどんどん冷えていくように感じた。それをノアンにはどうすることもできない。
その時、二人の周りの砂が突然に渦を巻いた。
砂嵐、ではない。舞い上がった砂は見る間に三つの人影になった。砂と同じく、光に白っぽく輝く肌。黄金の瞳。そして額の赤い石。彼らこそ“
『哀れな子』
『醜い子』
『愛しい子』
三人はメメを見下ろし、乾いた囁き声で言った。
ノアンは驚いて身動きできずにいたが、慌てて一人に縋りつこうとした。が、それを避けるように体の一部が崩れてしまい、ノアンは砂に突っ込むことになった。
『嗚呼、まったく』
『なんて憎らしい』
『なんて美しい』
六つの目が妬まし気にノアンの青い瞳を見つめていた。ノアンはそれにも構わず、吸い込んだ砂を吐き出すと懇願した。
「お願いです。メメを助けて……!」
三人の“
『自ら“石”をなおすこともできず』
『人になることもできず』
『我らと交わることもできず』
『愚かな子』
『悲しい子』
『愛しい子』
囁く三人の手からはさらさらと砂がこぼれだし、メメの額に落ちていく。砂が触れる度に、少しずつ、少しずつ、三人に比べれば随分と小さな
「……ありがとう!」
三人の“
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