第6話

 メメの力をもってしても、避けられぬものもある。

 砂嵐である。

 いち早く気づくことはできたものの、ヌイを遠くに飛ばし、自分たちは手近な岩陰に隠れることしかできなかった。メメは暴れる駆竜ヤントの手綱を引っ張り、荷物ごとなんとかその場に伏せさせる。


「鼻と口をしっかりと覆って伏せていろ。風が止むまで決して目を開けてはいけないよ」


 ノアンにはそう言っておいて、メメは猛烈な勢いで近づいてくる砂の壁を見つめていた。その金色の瞳は爛々と輝き、砂嵐の中心を眼差しで追い続けた。

 ノアンは、震えていた。檻から放り出され、あっという間に砂に飲まれたときの恐怖を、何も見えず、息もできず、ゆっくりと意識が遠のいていくあの感覚が、その身に蘇ってくる。だが今は、一人ではない。メメは視線を砂嵐に向けたまま、伏せたノアンの手をしっかりと握っていた。少しざらついたその手が、ノアンには何より心強かった。

 舞い上がり渦をまく砂塵が空まで覆い、日の光すら通さない。熱風が砂を容赦なく叩きつける。息は浅くなり、もはや風の音しか聞こえない。

 しかし現れたときと同じように、砂嵐は突然に去った。

 吹き上げられた砂がばさりと背にかかり重く感じるほどだった。バサバサと身を震わせた駆竜ヤントがクワッと鳴くのを聞いてようやく、ノアンは目を開いてみた。砂嵐の前にはそびえていたはずの砂丘が、ごっそりと無くなっている。


「メメ、砂丘が───」


 それを伝えようとした相手は、どこかうっとりとした顔つきで遠くを見ていた。ピューイと鳴き声を響かせながらヌイが急降下してきて、メメはハッと目を瞬かせた。その拍子に涙が一滴こぼれて、流れもせずに乾いていった。


「メメ、どうしたの」


 メメの手を強く握り返しながらノアンは尋ねた。


「どうもしないさ。私の目にも砂が入ってしまっただけだろう」


 その声は、いつもよりもずっと儚く聞こえた。メメは砂嵐の去っていった方角を見遣りながらぼんやりと言葉を続ける。


「砂嵐は、“砂人すなびと”の逢瀬なんだ。私には見える。その中心に赤々と燃える核珠チェカが二つあるのが。私にはわかる。彼らが私を避けていくのが。それでも私は、あの中へ飛び込んでいきたくてたまらなくなる。胸のあたりが締め付けられるようなのに、から目を離せない」


 ノアンは咄嗟に、メメの体をぐっと引き寄せた。


「ここにいてよ、メメ」


 互いに砂まみれなのもお構いなしに、ノアンはメメを抱きしめる。

 そうだ、メメの体はこんなにも小さいのだ。


「ここにいて」


 メメは驚いた顔をして固まっていたが、やがてノアンの肩にふっと顔を埋めると、「うん」と囁くように答えた。

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