第5話

 ナルアは、メメが頼んだものをすぐに用意してくれた。

 ノアンのための衣服、革袋の水筒、日持ちする食料、簡易な天幕、そして駆竜ヤントを一頭。

 駆竜ヤントは砂漠に住む二足歩行の生き物で、その足は砂漠を最も早く駆けるといわれる。体はトカゲのような鱗に覆われているが、背には羽毛のような柔らかい毛が生え、飼育している駆竜ヤントには鞍や荷物を載せたり、車を引かせることもできた。

 対価に、とメメはいくつかの宝飾品を渡し、獣の巣などの情報も教えた。それを見てノアンは、はたと気づく。


「僕、何も持ってない!」


 メメとナルアは不思議そうにノアンの方を見る。


「ああ、だからこうやって旅支度を───」

「ちがう、メメ。どうして助けてくれるの。僕はメメに何もあげられないのに」


 ノアンが俯きながら言うと、メメはその頭にぽん、と手を置いた。


「私は砂漠の案内人だと言ったろう。迷い込んだ子供がいれば、せめて砂漠の外まで送ってやるのは当然さ」

「でも……」

「大丈夫だよ、ノアン。メメに任せておきな」


 ぎゅっと拳を握っていたノアンの手を取ると、ナルアは自らの額に当て、「白き月の加護があるように」と唱えた。それはザタ族の長からの、最大限の祝福だった。




 こうして、メメとノアンの旅が始まった。


 砂漠の案内人として、メメほどの適役はいなかった。

 灼熱をものともせず、水や食料、睡眠も僅かな量しか必要としない。ノアンの一食分でもあれば、平気で二日は歩き通せた。休むことが出来る水場の場所や、人間が食べられる動植物も知り尽くしていた。

 鷹のヌイが遠くまで見渡せるのはもちろん、メメ自身も、“砂人すなびと”の力によって砂漠に起きていることを素早く気取けどることができた。毒や牙のある獣、突然の雨、流砂などを、一行は避けて進み続けた。

 メメはノアンと出会ったときからずっと変わらず、親切でにこやかだった。


 おかげで、のんびりと平和な旅路がしばらく続いていた。

 ぼんやりしていると暑さと渇きにくらりとするが、メメに教えられた通りに水を飲めばノアンがぶっ倒れることはほとんど無くなったし、飢えとは無縁だった。

 ノアンにとっては、何もかもが新しかった。檻の中にいる間は恐ろしくて何も考えられなかったが、乾いた風も、埃っぽく煙のような匂いも、砂に潜るネズミやウサギがいることも、水の詰まった瓜が砂地に生ることも知らなかった。

 メメは罠の仕掛け方や、肉の捌き方も教えてくれた。血抜きをしたウサギよりも血の気が引きそうになりながら、おっかなびっくり皮を剥いだ。初めて捌いた肉は細切れになってしまって、ほとんどがヌイと駆竜ヤントの餌になったが、何度か繰り返すうちにちゃんと食べられる肉になった。そうしてノアンが捌いた肉を、メメは一緒に食べることもあれば、保存用に干すこともあった。それを見てようやく、ノアンは少し安心した。

 砂漠を運ばれるだけのにはなりたくなかったのだ。

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