第4話
陽光を遮る天幕の中は風が通り抜け、見た目以上に涼しく感じられた。
「ナルア、久しぶりだな」
ナルアと呼ばれた老婆とメメはそっと抱き合った。
ナルアは戸惑うばかりのノアンを一瞥すると「また珍しい客を連れているね」と呆れたように言い、何やら熱い茶のようなものを用意した。香ばしい匂いが、ノアンの鼻をくすぐる。
「砂漠に我が血が続く限り」
ナルアが椀を掲げ、メメも黙って続いたのでノアンも慌てて真似をする。椀の中は、覗き込んだノアンの顔が映るほどに黒く濃い。二人が口をつけたのを見て自分も飲んでみる。その苦さに、思わずノアンはぎゅっと目を閉じた。
「あんたにはまだ早かったかね」とナルアは笑いながら、白い乳をノアンの椀に注いだ。泥水のような見た目にはなったが、ノアンも何とか飲めるほどにはまろやかになった。
「さて、これでザタ族はあんたの味方だ。話を聞こうか」
メメは礼を言い、ノアンに向き直る。
「ノアン、彼女はザタ族の長だ。彼らは家畜を連れ砂漠を渡り歩き、荷運びなどもする。ナルアはさっき話したように、私を育ててくれた人間だ」
「ほんのひとときだがね。ザタは弱き者を見捨てない。しかし拾ってみたらちっとも弱くなんぞなかった」
「いやいや、ナルアがいなければ私はそのまま死んでいたよ。ナルア、彼はノアン。人さらいにここまで連れてこられたらしい。砂嵐に巻き込まれたが、彼だけが助かった」
それを聞いたナルアは、目を細めてノアンを見つめた。
「北の大きな水場に、金持ちどもが町を作り始めた。ここらで白くてきれいな子は珍しい。人さらいに狙われたのも、“
ノアンはその話が未だ自分のこととは思えず、首を傾げるばかりだった。
「ファルメリア、という土地をは知っているか?」
「……少し待っておいで」
ナルアは天幕の隅をごそごそとやり、一枚の羊皮紙を持ってきた。
「外の人間が置いていった地図だ。ノアン、読めるかね」
広げられた地図を、ノアンはおずおずと覗き込む。実のところ、ノアンは地図を見たことは無かった。だがどこか見覚えがあるような気もして地図をぐるぐる回していると、急にあっ、と声を上げた。
「どうした、ノアン」
「海図……海図なら知ってる。父さんは漁師だったから。たぶんこの向きで、ええと、うちはここだと思う」
ノアンが指さしたのは、上下反対にした地図の西端だった。それを見たナルアの顔が険しくなる。
「砂漠はここだよ。こりゃあ長旅になるね」
ナルアが皺だらけの指でトンとさしたのは、ノアンの指から海を二つ越えた先の大きな空白だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます