第3話

「私は少し特殊な生まれでな」と、メメは肩をすくめた。

「“砂人すなびと”の中では好奇心が旺盛だった母と、行き倒れていたのを彼女に助けられた人間の父とが愛し合って、どういうわけかできてしまった子供が私だ」


 メメとノアンは、真昼の砂漠を歩いていた。このまま水場に暮らすわけにはいかないからとメメが連れ出し、ノアンはその後ろをついて歩いた。慣れない砂の上でも、メメの通った跡を辿ればいくらか歩きやすかった。

 煤色のローブは、やはりノアンが被っていた。砂が入ってこないよう、口元を覆うようにフードをメメに巻いてもらった。ノアンが身につけていた衣服は、砂漠を行くには不向きだった。その上、ノアンの白い肌は砂漠の陽に直接灼かれると火傷のように赤く腫れてしまうのだ。

 メメは肌着の上から、マントを袖のない巻衣まきいのようにして身につけていた。それではメメの肌が灼かれてしまう、とノアンが言うと、自分の肌は灼けはしないし、そうそう血も流れないのだ、と自らの生まれを語ったのだった。


「母は、あるはずのないたいから私を産み、その時にほとんど砂塵に還ってしまった。母の核珠チェカの欠片が私の額に埋まり、母の砂が体の表面を形作ったが、父の血がその色を黒く染めた。混じりけのない“砂人すなびと”の核珠チェカはもっと大きいし、人型をとったときにはこの砂漠の砂と同じ色をしている。私は彼らに疎まれたし、彼らに私を育てる術も無かった。だから砂漠を渡る人間の天幕の前に、置き去りにされた。」


 ノアンは何も言えなかった。生まれ育った港町にも疎まれた子供は少なくなかった。私生児、不具、口減らし。そんな子供らが路地裏で支え合いながら生きていた。ノアンもときどき、逃げるように路地裏へ行った。「愚図のノアン」とからかわれても、酒臭い父親に蹴られるよりマシだった。けれど家に帰ろうとするノアンを見る彼らの視線はどうにも苦手だった。

 それを思い出していると、振り返ったメメが苦笑した。


「そんな顔をするな。結果、こうして私は生きている。今向かっているのも、その人間のところだ。もうすぐ見えてくるはず」


 やがて眼下に、赤茶色の乾いた岩山が見えてきた。それを影にするようにして、メメのローブに似た煤色の天幕が並んでいた。

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