第13話 真祖の吸血鬼
『[ヴァンパイア]に適応しました。《魔力感知》を習得します』
激闘を制した。
脇には首のないヴァンパイアの死体が転がっている。俺が殺したのだ。
初めてまともに会話の成立した知性を持った相手、前世で言えば人間に近しい存在の首をぶった切った。
人間だったこれであれば、精神はぐちゃぐちゃになっていたかもしれない。そもそも命を奪う選択肢なんか、出てくることもなかっただろうけど。
でも今、戦いが終わって、命のなくなった死体が横にある中、感情は薄い。興味すらなくなってきた。ヴァンパイアがただの敵だったからだと、そう思いたい。その時は、喜怒哀楽のなんでもいいから感じられればと願う。
できることなら、目の前で命の灯が消えてしまう時、人の慈しみを持って哀しみ弔いたいものだ。
過ぎた願いだっただろうか、戒めるように失ったはずの左腕の痛みを思い出す。幻肢痛を感じる左腕、戦ってる時は後先考えなかったが、果たしてこれは治るのだろうか?
心配になりながらも《再生》を行使する。軽い傷を癒す時とは比較にならぬほどの魔力を持っていかれた。足元が少しふらつく。やはり人体の欠損の再生とはそれだけ大変なものなのだろう。
しかし効果は抜群。失った左腕はめきめきと再生し、元通りの白く筋肉質なものへ戻る。他に受けた傷も治りだし、ほとんど完治だ。
傷の一つも残らない万全な状態となったわけだが疲労は取れない。むしろ魔力を大量に使って余計疲れた。
俺は死体の側ということも気にせずその場に寝ころんだ。この世界に来てから今まで睡眠をとったことがなかった。アンデットという種族に睡眠は必要なかったのだ。それどころか寝方が分からなかった。閉じようにも瞼はなく、常に目は開いたままで眠気もないため、寝ようとしたことはあっても寝れたことはない。
睡眠欲で言うと、アンデットという種族が残っているせいか、眠りたいと体が訴えかけてくることは寝転んでる今でさえない。
ただ、今は精神的に眠りにつきたい。微睡も何もない中、ゆっくりと瞼を閉じた。
「のう」
そういえばこんなとこで寝てて襲われないかな。【適応】が対処してくれるだろうか?
「のう死神の後継者よ」
なんにせよ疲れたな。一回死んだことで精神的な疲労もあるのかもしれない。
「無視するでない」
とりあえず、眠ろう。
「ぐぬぬ、さっさと起きんかー‼」
「何事⁈」
頭に響くような叫びが聞こえてきて飛び起きた。急いで辺りを見回すが誰もいない。今はヴァンパイアも光虫も死んで何の気配もないのだ。
「ここじゃ、ここ。少量とは言えど我の偉大なる魔力に気づかんとは……。《魔力感知》ぐらい常時発動させておけ」
なにやらもの凄く傲慢で腹の立つ奴だ。《魔力感知》はさっき習得したばっかだけど常時発動なんてできるのか。
『《魔力感知》の常時発動に適応しました』
はい。ありがとうございます。
視界、とはまた別に視える世界ができた。視認しているわけではないが全方位で何が起きているのかがわかる。魔力の形、色、移ろい、微量な変化で周囲を把握する要領だ。
この部屋の中ではヴァンパイアや光虫の死体に残った微量な魔力、自分とその周りに漂う魔力があり、もう一つ歪な揺らめきを見せる赤い魔力があった。
魔力の色なんてものは今日初めて見たが、この反応は誰でも異常だと分かる。
飛んでいったヴァンパイアの首に残った魔力に紛れている小さな魔力の粒。
どぎつい魔力を凝縮して内包しているのは銀のピアスリングだ。
“導かれるように”
美しく輝く銀のピアスに…………違う。その内に秘められた原色の赤に引き寄せられている。
ヴァンパイアのような仮初の赤じゃない。
俺はヴァンパイアの首の側に膝を付いて座り、ゆっくりとピアスに触れる。
「やっと気づきよったか。死神の奴、こんなのろまが本当に後継者に相応しいのじゃろうな。素質があるのは認めるが、ちと阿呆な感じが否めんぞ」
なんだろう。畏怖を感じるほどの力を前にしているのに一発しばいてやりたい。
「初対面? ていうのかは分からないけど、初めて話す奴に随分と失礼な奴だな」
おそらく、存在的には圧倒的に相手が上位に来るだろう。だが相手の砕けた雰囲気を感じて、俺もあえて気を遣わず話す。
「我らの仲じゃ、物言いなどはどうでもよかろう。お主も気にするでない」
何の仲なんだよ。初めて喋っただろうが。
「とりあえず我をこやつから外してはくれんか」
確かに死体の生首についているのは気分の良いものではないだろうと、俺はすぐに外してやる。取ったは良いものの、どうするべきか悩んで掌に乗せた。
「ふぅぅぅーーー。やっぱ自由は良いの。このヴァンパイア、勝手に我を装備して好き勝手振舞っていたくせに、センスのかけらもない。知識面においては好い線を行っておるが、戦闘においては凡以下じゃ」
そんな言わんでも…………。
「でもそいつ、結構強かったぞ?」
「せいぜいがA級ってとこじゃろう。我の加護を受けてその程度なら素質がないのは明白じゃ。虎の威を借る狐とはまさにこのことよ」
俺もさっきまではどうでもよかったが、一応そいつとは身を削り合って激闘を繰り広げたので、目の前でここまで言われていると情も沸く。まあ勝手に装備してたらしいしヴァンパイア悪いとも言えるけど。
でも、それ以上に気になるワードが出た。
「加護? てことはお前……」
「そうじゃ、まだ名乗っておらんかったな」
俺が確かめようとすると、銀のピアスリングは思い出したように言う。
「我こそは太古より生きる夜の支配者にして、“真祖の吸血姫” ツクヨミじゃ。死神とは盟友じゃよ」
【運命】に導かれる。
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