第11話 【創造】×【適応】
両者が白い手で銃を象り、赤き弾丸を創り出す。
「「《
一方は上空からねじ伏せるように、一方は地上から殴り上げるように、お互いに一切の手加減なく放たれた。
大量の血を拳サイズまで凝縮させた弾丸の衝突は、爆発音を残して深紅の巨大花火を上げた。迷宮の中に白人のヴァンパイアが二人。赤いスプラッターがいやに映えた。
────まだ蘇ったばかりのはず…………さも当然のように《血操術》を扱いよって……。
地上で血の雨を受けながらヴァンパイアが苦い顔をする。
吸血鬼系統の魔物の常識としては《血操術》を使いこなすのは困難を極めるのだ。体内の血の知覚から始まり、血流操作を熟し、体内と外界の血液を自由に扱えるようになって初めて実践で使える。
《血弾》などは特に面倒で、血の凝縮、形状の維持、射出の速度、破壊力、意識するべき点は多い。そのため威力は折り紙付きだが、難易度は非常に高い。
それを蘇ってすぐ、つまりヴァンパイアに成ってわずかの個体が苦も無く成功させて見せたのだ。まずありえない。
実際のところ、スケルトン時代に右半身を吹き飛ばされた《血弾》を【創造】でイメージして外殻を完成させ、必要な分の血やエネルギーを【適応】にて最も効率的な方法で算出する。あとはそれを力いっぱい射出するだけ、二つの固有スキルをかけ合わせれば、造作もないことであった。
しばらくはこの戦い方に依存しそうだな。
頼りになる固有スキルを当てにしつつも、戦いは続いている。ヴァンパイアはすでに次の攻撃に移っていた。
「〈炎槍〉‼」
この魔法はスケルトン時代でも〈黒魔引〉で対処しているところを見せている。俺を削る目的としては火力不足なのは理解しているはずだ。
ならばおそらく本当の狙いは…………。
「〈黒魔引〉」
先端から吸い込むように炎の槍を呑み込んでいく。問題なく全てを飲み込み終え、開けた視界には凄まじいバネで飛び跳ねて急接近してきていたヴァンパイアがいた。そして勢いのままに殴りかかってくる。
予想通り。魔法は接近戦に持ち込むための布石だ。だが、接近戦は俺も望むところ。以前はぼこぼこにされたが、今の俺がどこまで通用するのか試したい。《身体強化》をかけて動きを研磨する。
真っ向勝負。ヴァンパイアの拳は視えている。【適応】に頼らなければ反応できなかったヴァンパイアの疾さも、向上した動体視力でしっかりと捉えることができた。後は体が追い付くかどうか。結論から言うと、何も問題なかった。
殴打の衝突が突風を巻き起こし、俺の長い髪が激しく波打つ。
近接戦の相性は互角にまで至っていた。
ヴァンパイアは苦虫をかみつぶしたような顔で睨む。近接戦まで成長を遂げた俺をちゃんと厄介だと思ってくれているようだ。
でもやっぱりこいつは強い。同じ種族であっても、スキルを用いない素の能力ならば、近接戦はヴァンパイアに軍配が上がるだろう。
俺が互角に打ち合えているのは《身体強化》と《思考転写》のおかげだ。
《身体強化》はともかく《思考転写》の効果は絶大だ。まだまだ使いこなせてはいないが、今でさえ試行してから筋肉に伝達し、行動を起こすまでのタイムラグがほとんどない。
今までは俺自身を脳と身体に分けて、脳がコマンドを入力してから身体が動いていたのに対し、《思考転写》は脳と身体が同一化しているように感じる。あるいは思考能力が上昇し、情報処理能力が早くなったか。いずれにせよ身体が軽く、思い通りに動くのだ。
そして【適応】は俺の感知しえない致命傷に至る不意打ちに、神の視点から自動で反射して対応してくれる。つまりは近接戦において互角の相手ならば、ほぼノーリスクで戦えるのだ。
俺って最強なのでは⁈
────ぱしッ。
調子に乗っていると、腕を掴まれた。ヴァンパイアはそのまま俺を下に叩き落とす。飛び続けられないヴァンパイアは空中戦では圧倒的に不利、最初から俺を地上に落とすことが目的だったのだ。戦い慣れてやがる。
俺は地面付近で一度回転して勢いを殺してから両足と片手の三点で上手く着地した。
わずかに生じた隙をついて、ヴァンパイアは〈火球〉を複数展開しながら急降下する。
各方面から飛んでくる〈火球〉。今まで正面の一点のみに向けていた〈黒魔引〉を横に長くあてがった。六つのうち五つは上手く呑み込んだが、一つは逃してしまい俺のもとに飛んでくる。
右肩辺りを狙い撃ちしてきた火の玉を最小限の動きで躱しはしたが、ヴァンパイアにはそれで十分。完璧な体勢が取れていない俺に向けて連撃を加えてくる。
一発目の殴打は片手で逸らし、すぐに放ってきた蹴りは首をのけぞらして躱す。そのままバク転の要領で、片手のみを使いアクロバティックに後ろへ飛んだが、着地と同時に迫る〈火球〉。
〈黒魔引〉を使うどころか、避ける余裕もない。だが展開と射出のスピードに特化していて、威力はお粗末。〈火魔法耐性〉もあるため受けることを選んだ。
右手で咄嗟に顔を覆い、ボッと燃やされる。初めて経験する魔法の直撃。軽く火傷はしたが動くのに全く支障はない。しかしあいつはこの隙を逃す奴ではない。
ヴァンパイアを目で視て確認するまでもなく、俺は空いている左手で地面を殴りつけた。クレーターを創りながら、無数の礫が飛ぶ散った。
予想通り距離を詰めていたヴァンパイアは、驚きを露わにしながら防御をとったものの、何発か岩の打撃をもらう。俺はその間に一度距離を取る。
ヴァンパイアは服に着いた砂を払う。お互いに軽傷を負い、場は再び静寂に包まれた。少し考える。
ヴァンパイアとの近接戦で真っ向から殴り合うなら、いつか勝てそうな気はする。でも隙を作ろうと打ってくる小さい魔法が厄介すぎる。威力はないから致命傷にはならないものの、確実に気はとられる。
いちいち〈黒魔引〉を展開するのも面倒だしな…………。
少し風が吹く。戦闘の緊張から少しの緩和で、思考は反転した。
俺、素っ裸だ。
今まで真剣に戦ってきたは良いものの、そこに映るのは全裸で嬉々として戦う変態。これはまずい。すごく恥ずかしくなってきた。
そして天啓のように閃いた。
俺は自分の胸に手を当てる。
「【創造】────ローブ」
手から溢れ出る闇がみるみると身体をを包んでいく。首元から足首まで全身黒。〈黒魔引〉の効果が付与された百パーセント闇魔法の純正ローブ。
これが素っ裸の状況も、小規模の魔法への対応も両方打開する秘策だ。しかもちょっとかっちょいい。
すべて魔力でできてるから物理への体勢は皆無だけど。
その様子をヴァンパイアは驚愕しながら見ていた。
────〈黒魔引〉を付与した闇魔法で創り出す全身を覆うほどのローブだと? 馬鹿げている。そんなもの籠める魔力によっては魔法を展開せずとも、大概の魔法は無効だ。あれだけでいったいいくらの値打ちが付くか…………。
加速度的に成長を続くる相手。今ここで、すぐにでも殺さなければならない。一秒先のこいつは、何をしでかすか分かったものじゃないのだ。
「闇魔法では完全に上回られてしまったか。やはり貴様は危険だ。確実にここで殺す」
言いながらヴァンパイアは自分の身体に意識を向ける。ヴァンパイアに力が漲っていくのが分かるが、魔力が変動しているわけでない。ヴァンパイアの体内構造が変化を起こしているのだ。
雪のごとく白い肌に、赤い血管が浮く。
「《
血流の巡りを加速させ、全身の筋肉への干渉を操りながら身体能力を極限まで引き上げる高等技術だ。
「いいなそれ。じゃあ俺も」
にやりと笑んで言う。
────まさか。
ヴァンパイアを襲う悪寒。
体中の血を感じて、【創造】と【適応】の全開放。
「《爆流圧血》‼」
初見での勝手な創造に追随して、異次元の適応力を見せた。体内構造を変えるという技に一ミリも臆さない狂気。異常なピエロのように、目や鼻から零れる血が模様を描く。
「気色の悪い。死ね‼」
「へへはッ‼」
楽し気に笑いながら、俺はヴァンパイアとぶつかった。
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