第5話 知恵ある魔物 

 時間間隔はなくなった。でも数日は経過したと思う。だいぶ迷宮での生活に慣れてきた。そんな中で、習得したスキルや魔法も多い。


ステータス

種族──[アンデッド]

固有スキル──【適応】【運命】【死術】

スキル──《威圧》《再生》《超音波》《吸血》《武器使い》《毒術》《身体強化》

種族スキル──なし


称号──死神の後継者

称号スキル──【???】

加護──死神の加護


魔法──〈風魔法〉〈火魔法〉〈土魔法〉〈水魔法〉

耐性──〈風魔法耐性〉〈火魔法耐性〉〈土魔法耐性〉〈水魔法耐性〉


 D級の[オーク]から《武器使い》と〈土魔法〉〈土魔法耐性〉、D級の[ウォーターフロッグ]から《毒術》と〈水魔法〉〈水魔法耐性〉。


 そして今さっき対峙した初めてのC級、[オーガ]の亜種である[ブラッディオーガ]から《身体強化》と〈火魔法〉〈火魔法耐性〉を習得した。


 普通のオーガはD級であり、《身体強化》のみで戦う脳筋なのだが、亜種であるブラッディオーガは〈火魔法〉を操りながら突進してくるので相当手こずった。加えて周囲でちょろちょろと動くブラッディバットのせいで厄介を極めた。こいつらはどこにでもいるので見つけ次第駆除している。


「それにしてもまた反省だな」


 骨ばった口元を抑えながらぼやく。今回の反省は戦闘内容に関してではない。戦闘中の興奮具合だ。歯応えのある魔物との戦闘中、気づけば気分が高揚し声を上げて笑っているときがある。これではまるで戦闘狂だ。

 

 他にも《威圧》で弱い魔物たちを圧する時、気分が晴れるのだ。


 人格──人と言えるのかは置いといて、心が完全に魔物に染まってきている気がする。でもこれが間違いかと言われると正直分からない。今は種族も魔物であり、戦闘中もスキルのおかげで興奮して冷静さを欠くこともない。ただひたすらに力を求めている感じがする。


 だが知性は大事だ。戦闘においても、生きていく上でも。なので元人間としての矜持はできるだけ持ちつつ、生き抜くためにも力を求めることは止めずにいよう。

 

 あやふやな決意表明をして数分後、強者のオーラを感じながら俺はある門の前に立っている。周囲の魔力の様子から門の奥に居るのが自分より強者であることがわかる。


「絶対行くべきじゃないんだろうけど」


 そんなことを言いながらも俺の行動は矛盾する。不安と期待、身体の強張りを感じながら、門を開く。


 部屋の雰囲気は今までの洞窟とは打って変わり、少し派手な印象を受ける。所々に色とりどりの光源があり、注視するとその一つ一つが魔物であった。光るだけでおそらく無害。それよりも…………。


「珍しい来客だな」


 部屋の奥、祭壇のように盛り上がった地面の上に華麗な椅子が一脚。それに座りながら物珍しそうにこちらを窺う相手がいる。


 初老に差し掛かろうかという雰囲気を纏いながらも、肌は綺麗で活気がある。艶のある白髪が乱雑に立ち上げられているのと、銀のピアスリングが少し若作りに見えなくもない。


 見た目に戸惑いはするが、黒いローブを羽織った相手の実力は本物だ。


「どうも、道場破りに来ました」


 目の前の相手は間違いなく上位の魔物で、秘めた力は計り知れず、知性も溢れている。まずは少し茶目っ気を含めて挨拶した。


「貴様が、儂にか? クックッ。では────」


 押し殺すように笑い、口角をややあげたまま、こちらを見据えて。


────激突。


 相手も《威圧》を持っているのだろう。俺の《威圧》と衝突し、辺りが魔力を帯びた突風で吹き荒ぶ。


 若干俺が押し負けてるな……。


 強化して自分色に染め上げた《威圧》でも少し押し負けるほどの相手の圧。地に押し込まれるような重さを感じる。おかげで出るはずのない冷や汗をかいた気分だ。


 《鑑定》を行使する。


種族──[ヴァンパイア] B級

スキル──《ドレイン》《魔力感知》《威圧》

種族スキル──《血操術》

加護──真祖の吸血鬼の加護

魔法──〈風魔法〉〈火魔法〉〈土魔法〉〈水魔法〉〈闇魔法〉

耐性──〈風魔法耐性〉〈火魔法耐性〉〈土魔法耐性〉〈水魔法耐性〉〈闇魔法〉


「ははっ……」


 つい乾いた笑いがこぼれる。

 苦戦を強いられたブラッディオーガですらC級、しかし眼前のヴァンパイアはB級。更には初めて対峙する加護持ちの相手だ。何やら不穏な響きの加護で、俺の直感が激しく警鐘を鳴らしている。


 だけど戦ってみたいと思ってしまう。この強者と。

 同時に進まなくてはいけない。そんな気がするんだ。どうしようもなく強い因果に導かれているように。


「何がおかしい?」


 ヴァンパイアは力量差を正確に把握しているのだろう。《威圧》の衝突の時点で優劣はついている。格下である俺がその場に適さぬ笑みを浮かべていることに眉を顰めた。


「すまない、最近の俺の悪癖なんだ。あんたが今まで見てきた中で一番強いから、ついね」


 俺は皮膚どころか、筋肉すらない口元を抑えて興奮気味に言う。


「手合わせ願いたい」


「ふんッ、スケルトンが風情が。だがまあ、言語を理解し、《威圧》も放った。そこそこの魔力もあるようだし、突然変異種といったところか。興味深い、観察の褒美として相手をしてっやってもよいぞ」


「感謝するよ」


 その言葉を皮切りに場は緊張に包まれた。一方は興奮しながらも冷静に、もう一方は余裕を露わにしながらも冷静に。この世界に来て初めての知性あるものとの戦い。


 凪いだ空気の中、俺は高火力の火魔法で静寂を破る。数瞬遅れて俺の先制攻撃に合わせるようにヴァンパイアも火魔法を放った。


「〈火球かきゅう〉‼」

「〈火球〉」

 周囲を熱する火炎を宿した魔法の衝突により、戦端の幕が切って落とされる。

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