第3話 【適応】の真価 ①
《鑑定》の結果は[
鼠色の毛並みで風魔法を操る狼だ。おそらく普通に対峙しても負ける相手が取っ組み合いの真っただ中、しかも背後に現れた。がら空きの背中を前に、風魔狼は風の刃を創り始める。
────あれは喰らったらヤバイ!
直撃すれば骨を断つであろうサイズの刃が出来上がる。咄嗟に横に躱し、俺の元居た位置に相手のスケルトンを引っ張った。
スパンッと綺麗な断面を残し、スケルトンの頭蓋骨は宙を舞った。間一髪、少し遅れていれば自分もあの末路を辿っていたと思うと肝が冷える。
『〈風魔法〉に適応しました。〈風魔法〉〈風魔法耐性〉を習得しました』
────これだけで⁈
驚きはしたがこれで勝ち筋が見えた。俺は見様見真似で風の刃を作り出す。〈風刃〉といったところだな。
〈風刃〉が飛んでいく軌道をイメージしながら腕を振り下ろすと、猛威を振るいながら風魔狼に襲い掛かる。が、軽快なステップによって躱される。
魔法を扱う上に素早い身のこなしが可能であり、本来ならE級のスケルトンが敵う相手ではない。だがそれも、この世界の通常のスケルトンならではの話。
風魔狼は躱した躱した直後から生成を始めていた〈風刃〉を俺に向けて放つ。スケルトンの動きの鈍さというハンディキャップのせいで、人間の身体なら躱せそうな速さの魔法も回避不可能に思うほど早く感じる。
────間に合え! 〈風圧〉!
体の側面に向けて強烈な烈風をぶつける。そのまま行けば肩から胸にかけて骨を切断されていただろう攻撃は、勢い任せに自分を壁際までぶっ飛ばしたおかげで肩を少し砕かれるに留まった。
────〈風魔法耐性〉様様だな。
実際、耐性がなければ〈風圧〉で骨が砕けていてもおかしくない勢いだったし、〈風刃〉の一撃も骨を断たれていたかもしれない。
なんとか魔法を凌いだが、危機は続く。体勢を崩している俺に向かって風魔狼が猛追してくる。自慢の牙により確実に仕留めに来たのだ。魔法よりもタイムラグがなく、一瞬にして肉薄する。
その牙が首元に届く────。
────これなら躱せないだろ! 〈風刃〉!
首の骨を砕かれるすんでのところ、ほとんどゼロ距離からの風の刃が炸裂する。小気味いい音を残して眼前にあった風魔狼の首を跳ね飛ばした。
『[風魔狼]に適応しました。[風魔狼]の能力に合わせて身体能力が向上します。スキル《威圧》を習得しました』
枷が外れたように、一気に体が軽くなる。しかし疲労は感じるため、一息つこうとその場に倒れこむ。
────危なかった。死んでてもおかしくなかった。
相手にもう少し知性があれば、今の戦いも危うかっただろう。
戦闘を振り返るとともに実感する。ここは異世界で、命を懸けて戦わなければならない状況がすぐそこにあるのだと。
《蘇生》があるせいだろうか、命をおとりにした戦略を簡単にとってしまった。条件も分からず、保険になる保証もないのに。それでも、あの時はそれ以外に勝ち目がなかったと瞬時に冷静な分析ができた。
平気で命を懸けたり、それに全く違和感を覚えなかったり、危うさを覚えずにはいられなかったが────。
────まあ勝ちは勝ちだ。
そう肯定しながら、先ほど得た身体能力を活かして跳ね起きる。筋肉はないのに体操選手ばりに柔軟な動きと安定した体感。誰も見てない中で着地のポーズをとると、右腕に纏わりつく違和感…………。
────スライム⁈
いつのまにそこに居たのか、スライムが俺の右腕に纏わりついている。しかもなにやら骨を溶かしている様子だ。
────こいつ!
焦って放った〈風刃〉がスライムの右上をスライスする。少し狙いが外れたが確実に致命傷を与えたはず、そう思っていると。青々とした丸みのあるボディが揺らめき始める。
────なんだ?
不審に思って《鑑定》を行使する。
[スライム] E級
スキル 《再生》
『《再生》に適応しました。《再生》を習得しました』
────再生すんのか、厄介だな…………。
自分の腕に絡みついている限りは、再生できないほどに切り刻むということもできない。悩みながら、しかし冷静に分析していると、スライムの半透明な体の中央に丸い物質があるのが分かる。
俺は直感でそこに向けて《風刃》を放つ。ゼリーを斬るように滑らかに魔法が走り、丸い物質は両断された。そこが弱点だったらしく、スライムは液状化してどろどろと溶けていった。
────うげっ、気持ち悪い。
べたべたとした感触だけが残り、振り払おうと腕を振る。他にも体の状態を確認してみると、始めに比べて随分と傷だらけになったものだ。ここはひとつ、先ほど習得したスキルにお世話になろうと思う。
────《再生》
みるみると傷が元通りになっていく。《風圧》により痛んでいた肋骨は正常、砕けていた方も綺麗になり、ぐるぐると滑らかに回る。
それもこれも全て【適応】のおかげ。超便利。
────今のところ死神にもらった力よりもだいぶ役に立ってるな。
貰いものにも関わらずかなり図々しいことを思う。
取り敢えずこの殺風景な洞窟の中ですることもなく、俺は左右に分かれている道を左に進むのだった。導かれるように。
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