選択肢

「……え? 」 

 和葉は驚いて口が開きっぱなしになる。 カイトはコーヒーをもう一口飲むと、面倒臭そうに和葉に向き直る。

「だ〜か〜ら、てめぇは今死ぬか死なないかの状態なんだよ。だから死にてえのか、それとも現実に戻りてえのか選べって言って……ッてぇ!」

 和葉の理解の遅さとその鈍臭さに怒気を強めたカイトを、ミレナが叩いて制止する。

「ちょっと、言葉は選びなさい! それに説明不足でしょ! あと子供の前で煙草は吸わないの、身体に悪いでしょ! 」

 ミレナはカイトの胸ポケットに手を突っ込むと、残っている煙草を箱ごと奪い取る。まるで保護者の様だ。

「……はぁ。わぁったよ、ちゃんと説明するさ」

 カイトは姿勢を正すと、身体を和葉に向ける。そして先程とは違う真面目な口調で話し始める。

「いいか、あんたは恐らく自殺かなんかしたんだろう。だがその時に何か後悔や思いが遺った。 だから……」

「ちょ、ちょっと待ってください! 」

 和葉は驚いて手を突き出して話を止める。和葉は2人に自殺したということは言っていない。なのにカイトは、その死因をわかっているような言い草だったからだ。

「何で……自殺だってわかるんですか? 」

 和葉の手にぐっと力がこもる。あの現場を見ていたのだろうか?いや、周りに人はいなかった。そんなはずはない。

「……」

 カイトは頭を少しかくと、面倒くさいと溜息をついてからポツリと漏らす。

「今までここに来た迷い人全員……自殺した奴だったからだよ」

 あまりの衝撃に身体が固まってしまう。ここは死者の行き先を別ける場所なのだろうか?だとしたら何故生き返るという選択肢があるのだろうか。

 様々な情報と疑問が和葉の頭を一瞬で駆け巡り、思考が固まってしまう。カイトはそんな和葉を気にせずに続ける。

「原理や理屈は俺も知らねぇ。だが、今までがそうだったからあんたもそうだと思っただけだ」

 カイトは喋って乾いた喉と口内をコーヒーを一気に飲み干してで湿らすと、マスターにおかわりを注文する。

「……その人たちは、どうなったんですか? 」

 カイトはマスターから貰ったコーヒーを飲もうとしていたその手を止めると、コーヒーを皿に優しく戻す。それから懐かしい物を思い出す様に軽く笑う。

「そうだなぁ……中にはそのまま死んでった奴もいたな。だが、現実に戻って生きていった奴もいたっけな」 

「カイトったら、教師だから人の面倒見るのが好きでね~。初めて迷い人に会ったのが小学6年生のときだったかしら? 」

 ミレナはからかう様にクスクスと笑う。カイトは溜息をつくと熱々のコーヒーを一口すする。

「今はいんだよ、その話は。ま、そんな感じだから……和葉だっけか? お前はどうすんだって話」

 和葉は話を振られると、下を向いて黙ってしまう。確かに自分はしようとしていた。それが一番楽だったからだ。しかし、いざ選べと言われるとどこか怖がっている自分がいるのがわかる。

 すぐに決めれるような選択肢では無かった。

 そんな和葉の事を察したカイトは、残りのコーヒーを飲み干すと3人分のお代をまとめて払う。

「まぁ、期限まではまだ時間がある。よく考えるんだな」

「え? 期限って? 」

「あぁ、言ってなかったわね! 実は、迷い人がここにいれるのは3日間だけなの。それまでに決めないと、強制的に死んじゃうからなるべく早く決めてね和葉ちゃん」

 ミレナは可愛らしいポーズでごまかしながら説明する。

 とても大事なことを最後に言われた和葉は、数秒間の思考のあとに説明を理解し、絶叫した。

「ええええええぇぇっ! 」

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裏TOKYO 丸井メガネ @megamaruk

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