決着を着けろ!

「ボクにしか見えない……?」


 ルナも、あの骸骨野郎も、相手の手札を見れてないってことか?


「ルナ、お前本当にボクの手札が見えないのか?」


「うん」


「マジか」


 急な事実にゴマの髭が伸びたり縮こまたっりしていた。

 ルナの野郎見えてなかったのか。じゃあボクみたいにカードを見てから行動を決めたりできねぇじゃねえか。


 ……カードを見てから行動?


「……兄ちゃん?」


「――ニャハッハッハ! そうかそうだぜそうすればいいんじゃねえか!」


「兄ちゃん!?」


 狂喜乱舞と言うべきか、その場で小躍りしだしたゴマは狂ったようにそうだそうだと繰り返している。ご機嫌なのは上がりくねった髭を見ても明らかだった。


「そうだ! あいつがカードを使って反射するなら、カードを見てればいいじゃねえかよ! ボクはやっぱり天才だぜ!」


「? どういうこと?」


 ルナの質問に、落ち着かない様子でゴマが答えた。


「つまりだ。ルナ。あの骨野郎がカードを使った直後に攻撃を浴びせればいいんだ」


「でも、そしたらその箇所で反撃が来ちゃうでしょ」


「ああ、そこでボクがあいつのカードが出てきたか見りゃいいんだ! 石像のと違って、カードは連発できねぇ!」


 決まった、と言わんばかりに胸を逸らす。ルナは、気にも止めず話しを続けた。


「つまり、兄ちゃんはあの巨大スケルトンの反射回数が分かるってこと?」


「そうだ!」


 初戦と石像との反射の共通は、どれも攻撃した箇所から反射が来ていた。少なくとも最初はそう思えた。

 けれど、巨大スケルトンがカードを使って反射しているとなると、どのタイミングで使おうとしてるか確認が取れる。

 それは、魚が飛び跳ねるタイミングを教えてくれるのと同じだ。飛び跳ねるタイミングさえ分かれば、そこに手を伸ばすだけで美味しい思いができる。


「そうと分かれば、反撃だ!」


 巨大スケルトンが足代わりに動かす手に、ゴマの前脚が高速で動く。


「『防御』『防御』『拳』『防御』『剣』 よっしゃ!」


 剣のカードを選んだらしく、背負うようにして剣が現れる。それを骨の表面に叩きつけた。


「あ! 兄ちゃんそんなことしたら!」


「見てろよ。これがボクの全力だ!」


 頭を抱えるルナ。

 ニヤリと笑うゴマ。


 刀身が骨を僅かに砕いてめり込む。光の粒子となって消えると、入れ替わるように『反射』のカードが顔を見せた。


「ルナ!」


「『護る』!」


 合図に気付いたルナが、ゴマの身を横にズラした。


「いいぞ! 反射の攻撃範囲から外れた。ルナ」


「なに?」


「このままボクを上に投げろ」


「え!? で、できないよそんなこと!」


「いいからやれ! そんでボクが攻撃したらお前も攻撃するんだ。あ、『護る』を手元に置いとけよ」


「猫使いが荒いよ兄ちゃんは!」


 スパン、と兄弟猫の横で重く爽快な音が響いた。連鎖するように重々しい物が根本から千切れ、地面へと叩きつける。

 音が伝える物語は、安易に何が倒れたのかを想像させた。


「兄ちゃん、今のって……」


「振り返るんじゃねぇ! あいつをぶっ飛ばさない限り、ボクらは安全じゃねぇんだ。さっさと投げろ! あいつもボクらと同じカードを使うなら、連発はできねぇはずだ!」


「……っ! 兄ちゃん恨まないでよ! 『キック』!」


 ルナの前脚から解放されたゴマ。ルナは地面に前脚を着くと、バネのように飛んで後ろ脚を突き出した。

 その後ろ脚にゴマは合わさるようにして落ち、空中で、見事ルナの脚に着地した。


「飛ばせ!」


「んにゃーー〜〜!!」


 雄叫び、というには気迫の足りない――を上げて、ルナが空中でゴマを蹴り飛ばした。


「良くやったルナ!」


 胸骨、頭骨、そして頭骨を過ぎる。


 飛び上がってきた勇者に、巨大スケルトンが遅くも眼窩を追わせる。


「残念だったな骨野郎。ボクにはお前のカードが丸見えなんだ」


 それに反応してか、スケルトンが口を開け、なにもないはずの眼窩の奥で黒い何かがゴォっと燃える。


「見てやるよ!。……、げっ! 反射のカードが4枚かよ。そんでその半透明のカードはさっき使ったカードだな」


 巨大スケルトンの周りに浮かぶカード。禍々しいオーラを纏うそれは、人魂を思わせるような動きで浮遊していた。


「どうして今になっててめぇの手札が見えたか分かんねぇけど、もうどうでもいいな!『拳』!」


 拳を引くと、流れ星を思わせる速度でゴマが頭骨の頭頂部に落ちる。


「おらぁ!」


 渾身の右ストレートが炸裂。巨大スケルトンはその衝撃にガクン! と頭を傾かせた。

 同時に、漂っていた巨大スケルトンのカードの1枚が展開され、ゴマを見下すようにして照準を定めていた。


「ルナ! 攻撃だ!」


「『キック』『キック』!」


 下方にいるルナが掛け声のようにそういうと、人魂のようなカードが2枚、何かを追うようにして下方へと消えた。


「へっ! あと1枚だな。連発できねぇと思ってたけど、大したことねぇな!」


 その1枚が、亡霊のようにゴマの周りを回る。


 倒せるわけがない。

 不可能だ。

 諦めてしまえ。


 煽るように威嚇するように、どす黒い粘着質なオーラをゴマに向けていた。


 反射の充填が完了しつつあるのか、光の塊がドクンと収縮する。下方でも似た音が響く。

 まるで戦艦の大砲が唸り声を上げるように、それは絶叫を上げて放射された。

 

 

「――へ! それを、待ってたぜ! 『防御』『防御』『防御』だ!」


 同じカードを使うと能力が上がる。

 普段、白い粒子を零すカードが、何故かゴマの転身した鎧と同じく紫の発光をする。

 カードの形をしたままで、それがゴマの防壁として立ち塞がった。


「よっ!」


 片方の前脚を突き出し防壁の面を傾かせると、まるで水車のように回転してゴマを真横に吹き飛ばす。そこに、間欠泉のように吹き出す衝撃波が迎え、ゴマを上空へと連れて行った。


「全然予想してなかったけど、この勢いを利用して、んふにゃぁぁあああ!」


 身体の前身に空気抵抗を受けつつも、回復した剣のカードを額でタップして、手にした剣の先をスケルトンに出し、本来なら出せない推進力で骨を砕く。

 最後の反射カードが、ゴマが砕いた骨に纏わりつき噴射する。


 その結果、ゴマを押し上げていた衝撃波が収まり、またも巨大スケルトンより上の空に滞空した。


 剣はまだ前脚にある。

 身体を半分砕かれた巨大スケルトンは、身体中から噴射する衝撃波に身体の自由を取られ動けなくなっていた。

 また、胸骨に守られるように黒い太陽のようなものが浮かび上がり、弱々しく黒いオーラを明滅させていた。


「それがてめぇの弱点だな! あ」


 切ってやる。勇ましく柄を握るも前脚の中が空になる。


 「くそ! どうすれば」


「兄ちゃん! 助けにきたよ」


「ルナ!? お前また何でこんな上空にいるんだ!」


「分かんないけど、また『護る』を2枚使ったら兄ちゃんの眼の前に――」


「んなこと今はどうでもいい! あれだ、あの黒い太陽みたいなのに攻撃するぞ!」


「連撃ならあるよ!」


「ボクは、今剣が使えなくなった。拳も防御も使えねぇ。それに、さっきの奴のカード。あれがまた使えるようになったらあの太陽見てぇなのも消えちまう気がする。こうなりゃ!」


 半透明のカード全てをデッキに戻し、新たなカードを引いた。


「ドローーーッ!」


 『剣』『剣』『シールドアタック』『シールドアタック』『薙ぎ払い』


「来たぜ! 『剣』『剣』『薙ぎ払い』だぁぁ!」


 紫に輝く剣が神々しく輝く。斜め急降下で迫るゴマは叫びながら黒い太陽に近づき、射程距離になると、ルナもまた、青紫の剣を担いでゴマとは反対の位置に着いた。


「終わりだぁぁぁぁあ!」


 2つの剣が禍々しき太陽を斬り伏せると、巨大スケルトンは絶叫をする。


「ボクら兄弟は、最強だ!」


 スケルトンが爆散すると、朝日の光が大地を照らした。

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