秘めたる能力
「ゲフッ」
地に体を強打したゴマが、憎たらしく『連撃』を決めたルナの姿を見ていた。
その視線が刺さったのか、カードの強制動作から解放されたルナは、顔を隠すようにして落下していた。
「ごめん兄ちゃん、踏むつもりなんてなかったんだよ」
「ルナてめぇ、覚えてろよ」
「うぅ〜」
悲しい唸り声を上げて、無事に地面へと着地したルナの元へゴマが駆け寄った。
「にしてもよ、なんでボクと同じ殴り方したんだよ」
「うーん、何でだろ。特に意識したわけでもないんだけど。何ていうかこう、兄ちゃんがアッパーを決めたのを見たら、突然身体が動いちゃったんだ」
「うん? よく分かんねぇけど、気をつけろよな」
ルナに注意してすぐ、ゴマはカードを5枚タップしてケースに戻し、新たに引き直した。
ゴマが軽く笑う。
「『炎』『剣』『薙ぎ払い』『防御』『防御』か。良いじゃねぇか」
さっ、と移動を始めたゴマは、手早く3枚のカードを選び、巨体を大地に押し付けようとするスケルトンの身体を支える手に迫った。
「兄ちゃん、僕も!」
ルナもまたカードを引き直していた。
「『剣』『剣』『キック』『雷』『連撃』か。ルナ! 連撃を選べ」
「うん!」
兄猫の指示に応え、連撃らしきカードをタップしたルナの顔は真剣だった。
「まずは炎だ!」
カードが光の球体へ変化すると、朝日のような優しい光が、火柱を吹き上げ火球に変わる。
ゴマの前脚に浮くそれを、ゴマは突き出すようにして投げた。
「そして剣と薙ぎ払い!」
硬質な剣へと変わったそれを持って、骨の手に叩きつける。そこから持っていた剣を手放し、その場で回転すると、再び剣を握った。
回転の勢いからゴマの身体はねじれるようになったが、カッ、と持ち主の眼に力が入った瞬間、剣が遠心力に従ってもう一度骨の手を叩きつけた。
「今だルナ!」
「うん!」
小高く飛び上がった弟を見て、ゴマが口の端を吊り上げた。
連撃はその前に攻撃した者の攻撃をマネて追撃する技なら、炎と剣と薙ぎ払いの3枚を、たった1枚が全て再現するはずだ。
効いてるかは分からないが、大ダメージを追加で与えられるのなら便利なカードだ。
それをルナが持ってることに腹は立つけど。
心の底でゴマが算段を思い返す。
が、ゴマの計算は呆気なく崩壊した。
「なっ、ルナ違うだろ!」
「はあぁ!」
ルナは空中で回転する。重心となる後ろ足を突き出して。
「なんでだよ!?」
見事、ルナの後ろ脚での大振りがスケルトンの骨を払った。
その威力は巨大スケルトンのバランスを思い切り崩し、横に転倒させてしまった。
「兄ちゃんやったよ!」
「お、おう。そうだな」
連撃って前の奴の行動を真似をするんじゃないのか?
見解がハズレてしまったために、ゴマの中で、連撃が未知という箇所に割り振られた。
「そもそもカードって何なんだ」
カードを使わなきゃここでは戦えない。そのため深く疑問には思わなかったが、例えば、『炎』のカードのような、魔法のような攻撃を繰り出せることに不思議に思った。本来魔法を使うとMPを消費する。けれど、さっき魔法を使ったのに何かが消費されたような感覚はなかったのだ。
そして、戦闘初心者であるはずのルナ。ルナの攻撃もしっかりとしていた。初心者特有のヘナった動きじゃなかった。
「兄ちゃん。畳み掛けよう!」
「え? あ、ああもちろんだ」
……こんな事考えてる場合じゃないな。
巨大スケルトンが何か悪さをしようとしている。ここでは転身もできないのだ。使えるならありがたく使わさせてもらう。
それがボクの戦い方だ。
「よっしゃ!」
喝を入れ、ゴマが手札を戻し引き直した。
「『拳』『シールドアタック』『シールドアタック』『シールドアタック』『突き上げ』か。本当どうなってるんだ」
シールドアタックに好かれたゴマは、どこか嫌な顔でシールドアタック3枚と突き上げ、拳を選択した。
「全部攻撃カードだ。この攻撃はいてぇぞ。骨野郎!」
伸びた巨大スケルトンに向かってゴマが突進する。
「んにゃ! あれは」
四角い光が視えた。
それは巨大スケルトンの肩で見たものとそっくりで、やはりカードと似ている。
「いや、あれってもしかして……」
ゴマが光を凝視した。
初めてそれが何なのか分かり、ゴマは驚きの声で正体を叫んだ。
「『反射』のカードじゃねぇか!?」
なぜ魔物がカードを使うんだ。
自問に応える時間などないのに、ゴマの頭の中はそれでいっぱいだった。
前方から衝撃波が来る。
それを理解したときには、回避や防御に移行する時間はなかった。
「くっ!」
ここは森だ。
前回のように障害物のない野原とは違う。この衝撃波の威力と障害物の多さによっては、ただでは済まないかもしれない。
「兄ちゃん!」
大気を掻き混ぜる衝撃の塊が発射された時、ルナがゴマに飛びつき、その体を衝撃波の当たる範囲からズラした。
「良かった。無事に済んだね」
「また助けられちまったな」
「『護る』のカードを引けたのが良かったよ」
ほっ、と胸を撫で下ろすルナ。
対して、ゴマは顔を険しいものに変えていた。
「……あの骨野郎。カードを使いやがった」
「えっ、そうなの?」
「あぁー、つまりあいつはカードで技を反射してたんだ。他にもカードを持ってやがるかもな」
カードを使えるというのがどんな意味を持っているのか、ゴマは固唾を呑んで考えた。
カードの力は、普通の攻撃と違ってタイミングを選べる。殴りたい時に殴れて、守りたい時に守れる。
普通それはしたい時に行動できるが、シールドアタックを散々引いたゴマには、その大きな違いに注目できた。
カードにサポートされる、ということ。
「石像の時と違って攻撃した箇所とは違う箇所から反射されちまった。それがカードの力によるなら、ボクらの作戦は効かねぇかも」
「……ゴリ押しは作戦じゃないよ」
「うるせぇな!」
ガツン、とルナの頭に重い前脚を叩きつけた。
よほどに痛かったのだろう。両前脚で頭をさすっている。
「……ところで兄ちゃん」
「なんだよ!」
涙声でルナが尋ねた。
ヒィ、っと身体を縮こませているが、それでも口を動かした。
「兄ちゃん、どうやってカードを視たの?」
「どうもしねぇよ。見たら視えるんだよ」
「……、兄ちゃんのカード、視てもいい?」
「ほらよ」
展開したカードをルナに向けた。
小首を傾げる弟を見て、こんなことしてる場合か、と心で文句を言う。
数秒後、ルナが確認したのかゴマに顔を向けた。
驚きの文言を添えて。
「やっぱり、僕には視えないや」
「……は?」
「兄ちゃんさっきもカードが視えたって言ってたでしょ。でも、僕には衝撃波しか視えなかったんだ」
何言ってるんだ。今だってお前が使った『護る』のカードが半透明になってるのが視えるんだぞ。
その言葉を構築して発言するよりも早く、気付いたような顔のルナが言った。
「もしかして、兄ちゃんだけが相手のカードを見れるんじゃない?」
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