ボス戦

「ニャッハー! 今行くぞ骨野郎!」


「兄ちゃん! この森の祭壇まで長かったんだよ! 走ってすぐには着かないよ」


「いいえ。そんな事はありません」


 ルナの言葉に反論したのはレイだった。

 やる気を漲らせるゴマとなだめるルナ。そういった調子だったために、言われてないゴマも聞き入った。


「どうして? 結構歩いたし、それに、ここからあの巨大スケルトンは見えないよ」


「この森はそういう場所です。決断する者に答えを示してもらうまで閉じ込め護ります。本当は――」


 ガラス細工でも取るような、丁寧でゆったりとした動作で、レイの手が虚空を撫でる。

 そして、

 しわくちゃになったラップでも掴むように、乱暴にを剥ぎ取った。


「なっ!?」


「えっ!?」


「これが、本来の状況です」


 巨大スケルトンが、森を掻き分け進んでいた。

 木の幹を推し倒し、乱暴に抜いてはどこかに放り投げる。胸椎にある肋骨は、人間のそれと変わりない形だが、下半身が無いからか、それともわざとなのか、鉤爪のように骨先を地面に立てては引きずり、まるで掘削機くっさくきの如く大地を蹂躙している。


 巨大な骨の重機が森を薙ぎ倒す姿に、震える声が轟いた。


「あの野郎! ボク達を探すために森をめちゃめちゃにしてるのかよ。この森にだって暮らしてる生き物がいるんだぞ!」


「それに、街の人が木材を取るために伐採にもくるから、あんなことされたら街の人達が困っちゃうよ!」


 ゴマが駆け出すと、ルナがその背を追う。


 落ちる葉を舞い上がらせて、スケルトンの元に近づいていく。


「へへっ! 今度こそ倒してやるよ!」


 ケースに嵌められた紫の宝石が呼応して輝き、ゴマの目の前に5枚のカードが展開された。


「『拳』『シールドアタック』『シールドアタック』『突き上げ』『反射』! 早速新カードが使えるじゃねえか。よし!」


 振り落とされるスケルトンの腕。爆散するように巻き上がる土煙に突っ込んだゴマ。


「これと、これと、これだ!」


 尺骨から駆け上がるゴマ。不敵な笑みは子供のようだが、カードがゴマに力を与えると、戦士のような身のこなしでスケルトンの横顔に蹴りを繰り出した。


「シールドアタック!」


 ゴマの伸ばした後ろ足の先に、光が集まり盾の形状を描きだした。

 それが実体化すると、スケルトンの頬骨を強打してみせた。


「まだまだ! シールドアタック!」


 盾を押し付けている後ろ足を浮かせると宙に躍り出る。一回転してみせると前脚に光が集まり、盾が顕現した。


「ニャハハ! 普通ならこんな風に使わねぇけど、こういうのも良いな!」


 先程殴打した部分に盾を殴りつけた。


「そして、反射!」


 粒子となって盾が消え、ゴマが攻撃した部分を前に、仁王立ちをしてみせた。


「兄ちゃん!? 何してるの!!」


「反射を反射するんだよ」


「はっ!?」


 素っ頓狂な声がゴマの遥か下方で木霊した。


「考えたんだ。反射は攻撃をした部分からくるだろ。ならそれを反射しちまえばいいんだよ。そしたらこいつだけダメージが入るって訳だ!」


 ニャッハハハ! 勝ち誇った様な笑い声が虚しく響いた。


「よおし! 来い! 反射してやらあ!」


 反射する気満々のゴマ。髭は浮かれたように上下に揺れまくっていた。


「……兄ちゃん!」


「何だよ、ルナ」


「その反射が反射されたらどうなるの!?」


「んなのまた反射して……あ」


 ピンと天に向いていた髭が、しおれた。


「そうだ! カードは使ったらしばらく使えねぇから、もし反射されたらぶっ飛ばされる!」


 前脚をバタバタとしだすゴマ。

 その格好に危機を感じたのか、ルナの表情に緊張が走った。

 反射が攻撃属性を返しているとして、もし反射を反射で返せるとして、その攻撃属性が必ず打撃属性で返ってくるとは限らない。


「……んあ? 何だあれ」


 反射の衝撃が放出されるその刹那、ゴマが目を張った。


「兄ちゃん!!」


「おわっ!?」


 エネルギーが放出される直前。横からルナがゴマに飛びついた。

 2匹は肋骨を段々と落ちるが、途中しがみつくことに成功してそれ以上落ちなかった。

 2匹が骨の上に登ると、不思議そうに顔を傾けた。


「あれ? 何で僕兄ちゃんを助けられたんだ?」


「ルナ、お前もっと下にいただろう。何で急に現れるんだよ」


「それがよく分からなくて。兄ちゃんみたいにケースの表面を擦ったらカードが出てきて、それで、護るのカードが2枚あったからタップして、早く兄ちゃんを助けたい! って兄ちゃんを見てたら……」


「助けてたってことか。じゃああの光はルナってことか」


「光?」


「あぁ、吹き飛ばされる瞬間に見たんだ。何かよく分かんねぇけどありがとよ」


「……兄ちゃん。その光は知らないけど、僕が兄ちゃんを助けた時の記憶は、横顔だったよ」


 もしその光が僕なら、位置がおかしい。

 そう付け加えた。


「んにゃ!? じゃああれ何だったんだ。何か四角いカードみてぇのだったけど」


「ともかく。この状況どうしよう兄ちゃん」


 ルナが言うこの状況とは、巨大スケルトンの肋骨に隠れている状況のことであった。

 う~んと、ゴマが前脚を組んで唸りだす。


「おいルナ。何のカードを持ってる」


「これだよ」


 ルナがケースを撫でるとカードが展開される。

 その内、2枚のカードが半透明になっていて『護る』と書かれていた。


「『剣』『雷』『連撃』か。剣はともかく、雷と連撃は知らねえな」


 新たなカードに興味を示しつつも、何とか連携を考える。

 初の戦闘でどのくらいルナが動けるのか分からない。出来れば把握してるカードだけを使わせて戦いたいと心の底で思う。

 ゴマがよし、と言って立ち上がった。


「ルナ、カードを引き直してボクに見せろ」


「うん」


 手札にあったカードを全てデッキに戻して、新たなカードを引いたルナ。そのカードをゴマが見た。


「『拳』『拳』『護る』『連撃』『キック』か。よしルナ、拳を選べ」


「どうするの?」


「ボク達兄弟の拳をめっちゃ浴びせるんだ」


「それ作戦じゃなくてゴリ押しなんじゃ……」


「うるせぇ。とにかくやるんだよ」


 兄弟猫が肋骨から降りると、次に見えた骨に向かって前脚を突き出した。



「オラオラオラオラ!」「やぁー!」


 紫と青紫の光の双拳が骨の表面を何度も叩いた。

 攻撃を終えたあと反射が起きたが、自由落下の最中である2匹に当たることはなかった。


「そんで突き上げだ!」


「れ、連撃!」


 ゴマのタップしたカードが巨大化して足場となり、ゴマとルナがその上に立つ。


「うにゃー!」


 気合と共に飛び跳ねたゴマ、それを追いかけるようにして足場だったカードが突き出したゴマの前脚に力を与える。

 太い骨にアッパーが決まり、またも自由落下を体験してる時。


「うげっ!」


「わっわっわ!」


 ルナが、ゴマの腹を踏んづけて骨にアッパーを繰り出した。


「兄ちゃんごめん!」


「連撃って、そういうことかよ……」


 やはりカードの内容を知りたいと、落下中激しく思っていた。

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