見守る辛さ

「どうすればいいってんだよ!」


 石像2体の剛腕がゴマに迫る。咄嗟に防御とシールドアタックのカードを切ったためか、初撃は受け止め、二撃目は軌道を外に弾いた。


「うおっ!?」


 しかし、攻撃をしたためにゴマは吹き飛ばされてしまった。空中で一回転すると、水気を多く含んだ雑巾のように倒れた。


「くっそ。よりによってこれかよ!」


「兄ちゃん。何か出来ることはない?」


「そのまま隠れてろ! うおおっ!」


 威嚇するように言い捨て、石像に突撃するゴマ。その背中を、ルナは不安で塗りたくられたような顔で眺めていた。


「良いの来てくれよ。お!」


 5枚のカードをデッキに戻し、更に5枚を引いたゴマ。眼前に並ぶカードの内容を見てニヤリと笑っていた。


「ついに『剣』のカードだ! 木っ端微塵にすればあいつらも吹っ飛ばすことなんざできねぇだろう、『シールドアタック』『拳』『剣』だ!」


「え、剣?」


 ゴマの声を聞いたルナがぶるりと震えた。

 カードの力がゴマに移る段階では青い顔をしている。


「喰らえ! まずはシールドアタック!」


 石像1体を思い切り叩く。怯んだのか動きが一瞬止まった。そこに、引いていた拳を上段に放ち、肉球に収束した剣を携え宙を飛んだ。


「トドメだッ!」


「兄ちゃん止めて!」


「ルナ!?」


 宙に飛ぶゴマを横から飛びついたルナが地面へと落下させた。

 剣は光を減少させ消滅したが、頭を起こし、ルナを見下ろすゴマの瞳には、燃える光が滾っていた。


「何で邪魔したんだルナ! あとちょっとだったんだぞ!」


「兄ちゃん忘れたの! もしあの反撃が攻撃属性を跳ね返してるなら、兄ちゃんは切り刻まれるところだったんだよ!」


「んなの、やってみねぇと分かんねえだろ!」


 起き上がりカードを見つめるゴマ。だが、威勢の良さにカードが応えてくれなかったのか、悔しそうに別のカードをタップしていた。


「何でシールドアタックばっかなんだよ。おいルナ! 今度こそ手を出すんじゃねえぞ」


「兄ちゃん……」


 1枚の半透明カードを残したまま、引き直した新しい4枚でゴマは敵へと駆ける。

 攻撃が石像の表面に触れ、崩れる。けれど、決まってゴマは吹き飛び、無様に地面を転がることしか出来ない。


「レイさん! こいつら倒せば力は手に入るんだろうな!」


「あなた達の選択次第です」


「だから何なんだよ選択って!」


 思っていた答えを得られなかったせいか、ゴマの語気がやや荒れる。しかし、レイの周りには不思議な守りでも働いているのか、ゴマの悪態が届いたようには見えない。

 常に祭壇の中央で指を組み、手のひらを合わせ、何かに対して祈りを送っている。

 その姿は、神に仕える信徒のように気高く尊い。またそれがこの場においてなくてはならないと、理性とは別の感性が呟くのを感じ得た。


 数回程攻撃を入れ続けていたゴマは、何度目かの吹き飛ばしに晒され、着地もまともになったあたりでカードを見た。


「お! よし! 『剣』が使えるぞ」


「兄ちゃん駄目だよ! それを使っちゃ」


「うるせぇ! 見てろルナ。お前は考え過ぎだってことを見せてやる! ふにゃー!」


 剣を片手に石像の真正面目掛けて突撃する。石像はその姿に表情や姿勢は変えないが、ゴマがこちらにやってくると分かってるからか、むしろその行動を待ちわびていたように仁王立ちを決め込む。


「今度こそ――うわっ!? なんだ――ってルナ!」


「ごめん兄ちゃん。でも!」


 後方に強く引っ張られているのと、尻尾の痛みとで動きを止めたゴマは、自分の尻尾に縋り付くルナに今度こそ叱咤した。


「てめぇ! このままやられたいのかよ! あいつら倒さないと力が手に入んねぇんだぞ! あの骨野郎だって倒せねぇんだぞ!」


「分かってるよそんな事! でも……」


「でも何だよ! てめぇは戦えねぇんだ。さっさと隠れてろよ!」


「嫌だッ!!」


「……!」


 ルナの叫びに、ゴマの目が見開いた。

 

「僕はずっと、兄ちゃんの戦いを見てきた。ずっと守られてきた。けど、兄ちゃんが無茶する度に後悔だってしてきた。僕は兄ちゃんよりは弱いかもしれない、力を得たって役に立たないかもしれない。でも、強くなれるチャンスがあるんだ。守ってくれた兄ちゃんやソールさんの手助けがしたいんだ。だから……隠れるのは、嫌だ!!」


「ルナ……。お前いつもそんな事を思ってたのか」


「うん……」


 ルナが立ち上がる。服や毛に土埃を付けて。

 ゴマがルナの表情を見て、喉を鳴らす。


 いつの間に強くなったのだろう。

 何を学んで来たのだろう。


 心の底からあふれる純粋な疑問は、たくましく敵を見据えるルナの顔に書いてあるような気が、しなくもなかった。


「へっ! だから生意気なんだよ。ボクを心配するとかまだまだ早いぜ」


「兄ちゃんは無茶しすぎるし、周りに迷惑掛け過ぎなんだよ。……」


「……ルナ、いけるか」


「うん。やってみせる」


 2匹が石像2体へと向けて走った。


「シールドアタックにも飽き飽きしてきたけど、こういうのはどうだ。『シールドアタック』2枚と、『薙ぎ払い』!」


 片手に盾が出現。走力に任せた突撃に石像はぐらりと揺れるが、どっしりとその場に構えている。


「ルナ! 乗れ!」


「う、うん!」


 石像から距離を取るやいなや、盾を水平にして、ルナに向けるゴマがそう促す。

 悪い予感を感じてか、ルナの動きは若干固いものの、ゴマの言う通り盾に乗った。


「喰らえ! シールド薙ぎ払いだッ!」


「うわわっ!?」


 ルナを乗せた盾が水平を維持しながら飛ばされていく。

 盾に乗車する者の悲鳴がにゃーにゃーと聞こえる気がしたが、盾は意思でもあるのか、急に軌道を変え石像の脇腹に直撃した。


「うりゃ!」


 ルナが直撃の寸前盾から飛び降り、石像の首にしがみついた。

 目が回ってるのか、それともカードを使わない攻撃行動をしたからか、ルナは力無く振り落とされる。

 がしかし、ルナの抵抗も相まってか、左右に大きく揺れた石像が1体、バランスを崩す。


 そして、


「兄ちゃん! 見て」


 見ると、ゴマ達の協力で攻撃した脇腹部分から、カウンターの衝撃が放出され石像が吹っ飛び、鉄扉の近くにある壁に激突して粉々になった。


「再生しねぇ……! へっ! やっと片付け方が分かったぜ。ルナ」


「うん、兄ちゃん」


「ボクら兄弟でぶっ倒すぜ!」

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