カード相性

「喰らえ!」


 うねる炎を纏った拳が巨大スケルトンの顔面に直撃。

 どストレートな正拳突きに巨大スケルトンもくらりとよろめく。町人から「おぉ」と歓声が上がり、勝利を確信した。

 ように見えた、


「……? ぬわっ!?」


 事はそう簡単ではなかった。


 ゴマが先程のように後方へ吹き飛ばされたのだ。

 空中で吹き飛ばされたのが良かったのだろう、民家にぶつかることもなく、ハッとゴマがくるりと一回転して地に着地した。


「さっきといい今といい、なんなんだよ!」


 ダメージは入ってる。入ってるのだが……。

 食らわせた前脚を見つめ落とした。


「手応えはある。けど、そのあと吹き飛ばされちまう。何とか出来ねぇか」


 自問自答をするが、名案は浮かばない。

 フレイムと拳のカードは使用不可になったため、チャージ出来たカードはそのままに、カードを引き直す。


「シールドアタック2枚、ニャー! もっと強力なのねえのかよ!」


 こうなれば一撃で沈めてやる。表情にそう書かれてそうなほど、気の張った険しい顔をしていた。


「さっさとくたばれ骨野郎!」



 □■□■□



「兄ちゃん、また吹き飛ばされてた」


「それも攻撃の直後。もしかして相手は攻撃を跳ね返せる?」


 見守る猫2匹が、ゴマの戦況を遠くから眺めて話していた。


「でも、吹き飛ばされるだけだし、脅威じゃない、ですよね……」


「……いや。そうとも限らないかも」


「え?」


 目を細くしてソールが「これは想像だけど」と言って語り始めた。


「ゴマ君は2回とも、シールドアタックや拳の様な打撃の攻撃をした。跳ね返されたゴマ君自体に変化はないけど、もし、もしも、跳ね返しが相手の『攻撃属性』によるなら、だいぶ厄介だよ」


「攻撃属性?」


「剣なら斬撃。拳やハンマーみたいなのは打撃。槍や弓矢は突撃と呼ばれてる。相手によってこれらに有利不利が存在するんだ。今回相手はスケルトンだから、体の所々に空間があるため突撃は効きにくい。斬撃は硬い骨には通りにくい。だから、打撃のように表面に力を加えるのは有利なんだ。ゴマ君は、それが分かっていて打撃攻撃をしてるんだよ」


「う~ん。兄ちゃん。そんな賢いこと出来ないと思うけど……」


 渋い顔をしてルナは攻撃するゴマを見つめた。無茶苦茶な行動をするゴマにそんな狙いがあるんだろうか?

 そう言いたげに首を傾げていた。


「話しを戻すと、相手によって攻撃属性に有利不利がある。それは、僕らも同じだよ。普段は戦う時、防具を身に付けてるけど、今は転身出来なくていつもの姿で戦ってる。そして、僕らにとって不利なのは斬撃と突撃なんだ」


「そっか。刃物で切り刻まれるから」


「普段は防具で弱点を克服していたけど、今回は違う。ゴマ君は今、打撃しか使えない」


 断言したソール。ルナは「兄ちゃん……」と不安顔でゴマと巨大スケルトンの戦いを見つめ直した。


「この戦い。すぐには決まらないかも……」


「兄ちゃん。頑張れ!」



 □■□■□


「くっそ、また吹き飛ばされちまった!」


 空中で身を翻すゴマ。シールドアタックと拳の攻撃を食らわせ、謎の反撃を受けた後だった。


「やっぱりいつもの戦いが出来ねぇのは辛いな。それによ」


 意思を汲み取ったカード群が6枚、主の眼前に整列する。


「なんで『剣』が出てこねぇんだよ! 殴るより叩き切る方が得意なのによ!」


 使ったカードをケースに戻し、やや不機嫌な顔で引いたカードを睨んでいる。


「また拳かよ! 適当にカードを突っ込んでりゃ強くなるんじゃねぇのか」


 地に着地を果たし、くるりと振り返る。

 口ひげをピクピクとしならせ、敵と街の距離を見る。

 黒い巨大スケルトン。小さい丘の上に出現したのだが、ゴマとの戦闘を繰り広げつつも、街との距離は確かに縮まっていた。

 吹き飛ばす以外でいまだ反撃らしい反撃をしないことに、最初ゴマはラッキー程度に思っていた。だが、何回か吹き飛ばされて考えを変えたのか、カードを見つめる時間が少しずつ増えていった。


「あいつだって、ボクのこと邪魔だって思ってるはずだ。なのに、倒そうとしねぇ」


 腕組みをし、相手を観察する。


 ゴマは猫である。動く物に興味を持ち、その動向や行動を観察することが多い。転身が使えなかった時も、相手の隙を見つけたり、弱点を探っていたりしていた。


 弱点の無い敵はいない。それをよく知ってるから。


「もしあの骨野郎に目的があったとして、どこに向かう気だ?」


 巨大スケルトンが進む進行を確認する。すると、なにやら大きな山の麓に向かっている。住人達はそこにはないし、家もない。むしろ、そのまま向かわせればいいと思えるような、何もない場所であった。


「ん〜、にゃ〜! 分かんねぇ。暴れる様子もねえし、一旦ソールさん達の所に戻るか」


 ゴマはソール達の元へと向かった。無機質な頭蓋骨の顔に、何かを感じながら。


 □■□■□



「あのスケルトン、山の麓に向かってるの?」


「もし山を破壊して落石でも起こしたら大変だ。けど、弱点か……」


「ああそうだ。ボクの攻撃は確かに効いてるみてぇ何だが、決め手にはなんねぇんだ。剣さえ引けたら一撃なのによ!」


 3匹がそれぞれ思案顔を浮かべ、少しするとため息を吐いた。


「すまない、僕も戦えればいいんだけど」


「ソールさんは悪くねぇ。それに、あのスケルトンの群れがいつまた出てくるか分かんねぇんだ。戦えなくても、指揮出来るやつがいたほうが住人も安心だろ」


「うん、そうだよソールさん。でも、確かにもう一人戦えた方がいいのかも」


「なら、祠に向かってください」


「にゃー!? レイさん!? 急に話し掛けるんじゃねぇ、びっくりするだろう!」


 幽霊のように現れたレイに、ギャーギャーと鳴くゴマ。しかし眼中にないのかレイは山の麓を見つめて話しを続けた。


「あの祠には、選択する者に力を与えます。敵はおそらく、その力を狙って来ているのです」


「なるほどな。ならあいつより先にその力を得て、でその力で倒しちゃえばいいのか」


「はい。野蛮な言い方で言うのならそうです」


「野蛮じゃねぇ! 勇者だ!」


「それでレイさん、その祠に案内してくれますか?」


 ルナがレイに尋ねると、コクリと頷いた。


「ただ、案内出来るのは――」


 ゆったりと上がるレイの腕に合わせて、空気が重く詰まるような感覚がした。

 伏せ気味な瞳から射抜かれるようにして、ゴマはその言葉を聞いた。


「ゴマ様。ルナ様。あなた達です」

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