ファイト 初めての駆け引き

「おらぁ!」


 剣がスケルトンを粉砕する。弾ける骨片を浴びてゴマは嬉々として地を踏みしめた。


「ようやく攻撃できたな、こうなればお前らなんて一瞬だ」


 中腰になり剣の柄を持ち直す。突進し間合いを詰め、にやりと下方から剣を上段に振り切る。

 その瞬間。


「にゃ!? 剣が」


 刃が瞬時に光の粒子に変わってほどけていく。束の間の出来事に硬直するゴマだったが、スケルトンの敵意を感じてか、軽い身のこなしで後方に下がり距離を保った。


「もう一回剣だ、ふにゃ、んにゃ……! なんだよ! どうして使えねぇ!」


 ケースに触れるとカードが眼前に並ぶ、そこには剣もあった。ゴマは先程と同じくカードの表面に触れてみるが、微弱な発光しか返さないカードに変化は現れなかった。


「こうなったら、拳だ、それ!」


 拳と書かれたカードをタップすると、紫の発光がゴマの両前脚を包む。光に包まれた両腕を確かめるように拳同士で打ち付けると、よし! と短く吠えてスケルトンに肉迫する。


「殴るのは得意じゃねえけど、おらぁ!」


 素朴な盾を破壊し、残った拳で頭骨を捉えた。一方的にやられたスケルトンは、残った骨の体が事切れるようにして地に崩れた。


「まだまだ! にゃ!? またかよ!」


 紫の発光が霧散する。ケースに触れて拳のカードを確認すると、やはり微弱な発光しか返さず、先程よりも頼りなく宙に浮いていた。


「もう攻撃できねぇ、どうすればいい……」


 残された選択肢は『防御』のみで、その言葉は持つ意味を考えると、とても返り討ちには出来ない。


 カタカタカタカタ。


 残ったスケルトンが剣を振り下ろす。いつの間にか間合いに入りこまれたらしい。


「防御だ!」


 カードをタップすると、全身が素早く防御の姿勢をとった。

 元々刃こぼれした剣だったからだろうか、ほとんど痛みはない、が、それとは違う何かの力を、ゴマは感じとった。


「もしかして、あ!」


 湧き上がる力の源がどこか、ハッとケースを浮かぶと、思考を読み取ったようにカードが整列し、力強く剣と拳が輝いていた。


「両方だ! おらぁ!」


 両腕で迎えた剣を押し返し、拳のカードの力が宿った両腕で盾と剣を持つ腕を粉砕する。


 そして、


「これで、とどめだ!」


 後方に倒れ込むスケルトン、刹那、ゴマがカードを握りしめ、上段に振りかぶった剣を直下に振り下ろした。

 防ぐ術を持たないスケルトンは顎を限界まで開口して、骨身に運命を刻んだ。


「勝った! やったぜ!」


 勝利した勇者は、消えた剣を持っていた方に残る重みの余韻に、少しもどかしさを感じつつも、次の敵を探して駆け出そうと後ろ脚を一歩前進させる。


「あなたは、試練に打ち勝ちました」


「ん?」


 引き止めたのはレイの静かな声。


「あなたは得る権利を選べます」


「得る権利って何だよ?」


 レイがゴマのケースを手に取り、骨片にかざした。漂っていた骨粉も、転がっていた欠片も、全てケースに吸い込まれる。


 そして、強く発光して見せたケースは、1枚のカードを顕現させる。


「『薙ぎ払い』か、もしかして、倒した敵を吸い込んでカードに出来るってのか?」


「それが勝者の権利です」


「なるほどな。それじゃ早速使わせてもらうぞ」


 ケースを腰に装着すると、ゴマはスケルトンの群れに突撃を繰り返した。

 ゴマがケースに骨片を吸い込ませる度に、新しいカードが生まれ、攻撃手段が増えていく。


「こいつで、最後だ!」


 切り払いを食らったスケルトンが倒れる。すかさずケースを掲げると、スケルトンは安々と吸い込まれ、新しいカードを生成した。


「シールドアタックか、良いなこれ」


「兄ちゃん、村の人達は全員無事だったよ」


「スケルトンの群れも、今のが最後だったみたいだ」


「フン、勇者ゴマに敵うやつなんていねぇんだ! ニャッハッハッハ!」


「兄ちゃん、そんなこと言ってるとまたピンチが訪れるよ」


「来るなら来いってんだ!」


「僕は、大人の男達と共に村の消火に回る、ゴマ君は警戒を続けて――ぬわっ!?」


「うわっ!? な、なに!」


 地面が揺れる。足の悪い老人や急な事に足を持ってかれる村人が複数いた。

 ゴマ達一行はすくみこそしたが、警戒体制を崩さない。


「この感じ、ゴマ君!」


「ボスのおでましだ!」


 艶のある黒、家を容易に包む手、カタカタとかち鳴らす頭蓋骨。

 それが、スケルトンを指揮していたボスの全容。


「ハッ、上半身だけか。腕も歩くのに使ってるみてぇだし、楽勝だな」


「気を付けるんだ。嫌な気配がする」


「おらぁ、行くぜ! ……えっと、そうだな」


 手元に来たカードを吟味する。


 剣、突き上げ、シールドアタック、防御、薙ぎ払い。


「剣、突き上げ、シールドアタックだ!」


 3枚のカードに触れたゴマに紫の光が走る。

 顕現した剣を握りしめ、巨大スケルトンの手に叩きつけ、尺骨の方へと突き上げた。


「シールドアタック!」


 円盤状の盾が剣と交代するように出現、突き上げとともに跳躍したゴマは、盾を頭蓋骨に向け、ニュートンの法則に従って激突した。


「どうだ、参ったか!」


 巨大スケルトンは背骨から地面に倒れた。ゴマが得意げに笑う。


「何となく分かってきた。同じ攻撃のカードを連続で使うと威力が上がる見てぇだな」


 粒子からカードへと変わる現象を眺めながら、相手によりダメージを与えるコツを反芻する。


「つまり、強い攻撃カードを連続で使え続ければ楽勝って訳だ。ニャハハ! やっぱボク最強じゃねえか!」


 と、笑っていた時だ、


「うおっ!?」


 ゴマが後方の民家に激突した。顔から地面へ落ちる。


「なんだ? 今どこから攻撃しやがったんだ?」


 巨大スケルトンは両腕で立ち上がったばかりなのか、前後に上体を揺らしバランスをとっているかのよう。


 気にはなる。けれど、倒してしまえば杞憂に過ぎない。

 そう判断したのだろうゴマは、突撃した。


「カードは一度使うとチャージのためかしばらく使えねぇ。けどよ」


 ポンポン、と薄く発光するカード2枚を爪で触れ、腰のケースに前脚を回す。


「それなら使えるカードと交換すればいいんだ! 行くぞ骨野郎!」


 新たなカードに触れたゴマの両腕が眩く輝き、渦巻く炎が纏われる。


「拳に炎を掛け合わせた最強技だ、一発KOを決めるぜ!」


 眼窩を向ける巨大スケルトンに、右拳を引いて飛びかかるゴマ。

 この激戦を見つめる町人や2匹の猫は、厳しくも静かに行方を見守っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る