カードバトル、レディ?

「兄ちゃん! 町の人達に迷惑掛けちゃ駄目でしょう!」


「悪かったって、今度は気をつけるからさ。んにゃんにゃ」


「貰った魚がもう無くなっている……」


 ソールがゴマを引きずって家に返した後、町の人達に謝り回っていた時に貰ったという魚をゴマにあげたのだ。

 が、その魚は全て皿から消えていて、満足そうに腹を擦る一匹の猫が残った。


「ところでよソールさん、町を走り回ってる時にも見たんだけどよ、何でみんなこれをしてるんだ?」


「ん? これかい」


 ゴマが腰にあるケースをポフポフと叩くと、ソールも示し合わすようにケースの表面を撫でた。


「ここでは守り神の一種であり、魔除けらしいんだ。困難を前にした時、その者に選択肢と力を与えるそうだ」


「ボクらの守護機神見てぇなものか。にしても、みんなしてこれ付けなくてもよくねぇか?」


「それが、外したりしようとすると、みんな慌てて止めるんだよね。畑を手伝ってた時も、ケースが汚れるの嫌だから外そうとしたら、おじいさんに止められちゃって、結局付けたまま畑仕事をしたんだ」


「なんだそれ? おかしいんじゃねえか」


 猫達は首を傾げたが、村の人達と交流する上でケースが大事なのは確かだった。

 それぞれにそれぞれの文化があると、ニャンバラやチュートピアを介して文化や信仰を体感し理解していったために、それが大きく違和感になることはなかった。


「んで、魚はまだあるか?」


「兄ちゃんまだ食べるの?」


「あったりまえだ! どんどん持って来い!」


 呆れた顔のルナに、食べっぷりに感心したソールが、ゴマの元気な姿に微笑んでいた。



 □■□■□


 多様とは選択肢。

 選択肢とは運命。

 運命とは試練。


 あなたが望む世界は、どれほどの試練があるのでしょうか。


 □■□■□


「んにゃ!? あ、夢か」


 飛び起きたゴマは、寝ぼけた顔に疑問を染めて唸った。


「運命とは試練。そういうの前にもあったな。けど、勇者ゴマ様の前では試練なんて屁でもねぇな」


「兄ちゃん!!」


「おう、どうしたルナ?」


 日は既に沈み、町の住人も寝ている時間。ゴマがいる家の二階で就寝していたはずのルナが駆け下りてきた。


「外が騒がしいんだよ! 何かあったのかも」


「とりあえず外出るぞ」


「ルナ君、一緒に行こう」


 猫三匹が戸から飛び出すと、その光景が映った。


「何だ!? あれ」


 町の至る所から炎が巻き起こり、悲鳴が各場所から響き渡る。

 ゴマが走り回ったのどかな町並みは、炎の怪物がとぐろを巻いて蹂躙しているかのように、景色を変えていた。


「ん?」


 思わぬ変化に面食らっていたゴマだが、悲鳴に混じりカタカタと硬質な物が打ち合う音がして、その方向に走り出す。


 ルナの引き留める声を背に受けつつ、ゴマは原因へと駆け出した。


「……やっぱりな、魔物の仕業か」


 人の白骨が、ゆったりとだが住人の背を追いかける。

 欠けた剣に素朴な盾を装備して、目に映った物を片っ端に壊していた。


「聖なる星の光りよ。我に愛の力を!」


 念じて手を掲げたゴマ。

 だが、


「……な、なんで転身出来ねぇんだ!?」


 暁闇の勇者ゴマ、星の加護を受け力を借り、それを用いて敵をやっつける。

 それが、星猫戦隊コスモレンジャーの戦闘スタイルであり、ゴマにとって最大の戦闘手段だ。

 けれど、何度祈りを送ろうと、ゴマの体に分厚い鎧も、鋭い剣さえ現れない。


「くそったれ! こうなりゃ転身なしでも倒してやる!」


 ヤケクソに挑みかかるゴマ。

 けれど、もう一つの異変が襲った。


「な、何か急に力が抜けて……」


 自慢の猫パンチを頬骨に食らわせようと接近したが、殴りかかろうとした瞬間、力んだ拳が緩み、踏ん張っていた脚も浮いて空振ったのだ。



「にゃ、にゃんでだ……」


「ゴマ君! 逃げろ!」


「ふにゃ〜」


 地面に横倒れたゴマは仲間の声に応えるよう、ゴロンと横に寝転がる。

 その姿は猫の癒やし動画として投稿されていそうなほどリラックスした動作だ。

 ゴマの横で剣が地面に突き刺さる。


「……やっと、力が入って来たぜ」


 すっくと立ち上がるゴマ。スケルトンも剣を抜いてゴマへと向き直る。


 「コノヤロー、一体何しやがったんだ」


 威勢と闘志は変わらない。だが、ゴマの表情は険しい。


「攻撃しようと思うと、力が抜けちまう」


 握った前足に力がしっかりと入る。

 しかし、ゴマは先程のように勢いのまま突進しようとはしなかった。

 攻撃しようとすれば力が抜けて攻撃される、しかし、攻撃しなければ相手は倒せない。


「くっそ! こんなのってねぇよ! ボクは選ぶ権利さえねぇってのか」


 むちゃくちゃに踏みつけた土から煙が昇る。

 その煙が黒煙と合流し、夜空を曇らせる。


 白骨がカタカタと不気味に歯をかち鳴らせる。


 嘲笑うように、


 馬鹿にするように、


 ゴマの心を踏みにじる。


「ボクは、負けねぇ。選ぶ権利がなくとも、運命を変えてやる」


 前足がケースの宝石を撫でる。


「試練なんて、運命なんて、ボクが変えてやるんだ! にゃ!?」


 眩しさに目を細めるゴマ。発光源は腰のケースからだった。

 共鳴するように、同意するように、その光は強く優しく輝きを増していく。


「今度はなんだよ!」


「ゴマ様、あなたは運命を変える選択をするのですね」


「レイ、お前どうしてここに」


 いつの間にかレイがゴマの近くに立っている。依然炎は建物を貪るように熱気と勢いを増しているというのに、その表情は冷静で、どこか無機質だった。


「あなたが選ぶというのなら、力が与えられます。しかし、与えられるということは、選び続けるということです。それでも――」


「よく分かんねぇけど、今すぐあの骨野郎を倒せるなら何でもいい、ボクは最強なんだ、攻撃さえ出来れば構わねぇぜ」


「……分かりました。あなたの選択に祝福を」


 紫の発光が更に強くなった瞬間、蓋が開き、長方形の薄いカードが飛び出す。

 慌てて掴んだゴマは、その内容を読み上げた。


「剣、防御、拳……、何だこれ?」


 カードの内容や枠の色は一枚事に違っていた。というか、これをどうしろと言うのだろうか。


「よく分かんねぇけど、とにかく、剣だ!」


 剣のカードを手札から抜き取ると、他のカードが宙に浮く。

 とにかく剣だ。相手を切り倒す白刃のイメージをカードに期待して、握った。


「お、おぉー!」


 光の粒子に分散したそれが再度集まる。それは、まさに白刃の剣だった。


「へっへ、待たせたな骨野郎!」


 剣を持ち上げ疾走する。スケルトンは迎撃の予備動作に入るが、ゴマの動作の方が早かった。


「おらぁ!」


 パラパラと骨片が散らばる。見えてるのか見えてないのか、スケルトンは動作を止め、仲間を葬った敵に眼窩がんかを向けた。


「へっ! お前らまとめてぶっ倒してやる」

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