第4話  問題発生

 あれから休み時間の度に楓先輩とやりとりをし、『今日のお昼は一緒に食べない?』と誘われ快く承諾した。


 食べる場所としては中庭の普段滅多に人の来ない所。職員室を出て目の前の窓から見えるフロールガーデンテーブルのある四人掛けの席。


 ここでならこっそり二人だけの時間を楽しめる。じゃあ部室じゃダメなのかって?めちゃくちゃ遠いんだよ。教室にもう一度戻らないといけないと考えると、行きたくなくなる距離だ。


 二人してお昼を食べるだが、楓先輩は今日も俺の膝の上に座っている。もう定位置になっているのではないだろうかと疑ってしまう。


 俺としても楓先輩の髪から爽やかな柑橘系の香りがするし、楓先輩の柔らかい太ももの感触を味わえる事に関しては歓喜でしかない。


 だが、そんな喜びの中俺は一つ気になることがあった。

 俺は自分で作った弁当で、楓先輩は菓子パン。


「あれ楓先輩って弁当じゃないんですね」

「うん、そうなんだよね、私朝が弱いから作れなくて」


 楓先輩が朝に弱いことは知っていたが、お弁当をそのせいで作れないのは知らなかった。それなら、と思い俺は楓先輩に提案してみることに。


「もし良かったら、明日から俺が作ってきましょうか?」

「え!?いいの?」


「はい!俺朝は奈子が来るのが早いので起きるのも早くなったんですよね」


 今日は生徒会の仕事があるからと来なかったが。 


「へぇ、でも作るのって手間じゃない?」

「一人分も二人分も変わらないですよ。あっ、味が心配なら食べてみます?」


 そう言って俺は卵焼きを箸で持ち楓先輩の小さな口の前に持って行く。


「じゃあ貰うね…ん…モグモグ、っ!美味しい!」


 楓先輩は俺の作ったちりめん入り卵焼きの味がお気に召したのか目を見開いて、少し興奮気味に感想を述べてくれる。可愛い。


「よかったです。他にも食べますか?これとかどうです、ハンバーグです」

「うん!はむっ…モグモグ…んー!!美味しい!!」


 楓先輩はその小さなお口で頑張って咀嚼し、目を細めてハンバーグの味を堪能しているのがわかる。そして最後には両手をほっぺに添え、頬が落ちそう!とでも言いたげな大満足の表情している。小動物にご飯を食べさせているみたいで何とも癒されるな。


「楓先輩野菜もとらないとですよ、はいこれどうぞ」

「…うん…ふぐっ!…ん…うげぇ」


 トマトを食べさせたのだが不評のようだ。その後のブロッコリーでも「無理無理!」と大きく首を横に振る。


 楓先輩は野菜が苦手なのだろうか。見た目も幼いのに、味覚まで子供なのだろうか。でも健康的に食事を摂取しないとその細くて可愛らしい身体がぷくぷく膨れて…それも可愛いかもな。


「楓先輩野菜ダメなんですね…食べられるのとかありますか?」

「野菜で?うーん、コーンかな後は何があるのか分かんないや」


「さっきのハンバーグに玉ねぎニンジン、しいたけ入ってたので多分そこらへんは大丈夫ですよね」

「え、しいたけ入ってたの?」


「は、はいどうしました?」

「私、キノコ無理なんだよね。でも気づかなかったし普通においしかった…徹君が作ってくれたからかな?」


 と目をキラキラ輝かせ、俺の顔を見上げて来る。

 やべぇ今日一番うれしい言葉を貰ってしまった。これは明日からのご弁当作りを頑張るしかないな!


 となれば、もっと楓先輩のリサーチをしなければ好物は何かとかアレルギーはあるのかなど、詳しいことを知るには…


「先輩、今日の放課後は買い物に行きませんか?」

「え?いいけど、もしかしてお弁当のおかず買いに行くの?」


「そうです、楓先輩が何が食べたいとかあればリクエスト受け付けるのでじゃんじゃん言ってくださいね」

「ほほう、それは楽しみ…!」


 と自然な感じで放課後デートを誘えた。放課後がますます楽しみになるな!


 話をしながら、楓先輩の小さな口に弁当のおかずを入れていく。と何を思ったのか楓先輩がこちらを振り向き焦ったように口を開いた。


「徹君、ごめん。おかず、全部食べちゃった…美味しくて」


 話に夢中で気づかなかったが、楓先輩の言う通り俺の弁当のおかずが全て無くなって白いご飯だけが残っている。どうしよう俺お昼食べてないのに…で、でも楓先輩が美味しいって言ってくれたから何にも問題ない!

 

「大丈夫です!一日抜くくらい平気ですよ」

「ダメだよ!ちゃんと食べなきゃ。私のパンあげるから食べて、はいあーん」


 そう言って楓先輩は俺の膝の上で器用に回転すると、向き合う形で持っていた菓子パンの袋を開け一つ掴み俺の口元で静止させる。


 先輩からのあーんだ、拒否する理由がないよな。


 楓先輩の持っていたのはチョコチップの入ったスティックパンで口を開くとチョコの味がしてくる。


 楓先輩は俺がきちんと咀嚼をして飲み込むまでをじっくりとみて、口を開くとパンをねじ込んでくる。少し強引な気もするが、楓先輩に食べさせて貰っていると思うと何とも幸せな気持ちになってくるな。

 

 だが、問題発生だ。


 ここは職員室の前、普段生徒が滅多に来ないとは言ったものの絶対に来ないとはならない。


 そうつまり、人に見られてしまったのだ。しかもがっつり…


 そして一番の問題は、胸元のリボンの色が青…三年生だ。


 

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