第3話 つい口角が緩んでしまう
奈子に告白されて翌日。
「なぁ徹、なんでお前奈子さんと付き合わなかったんだよ。噂になってるぞ?」
「別にいいだろ、俺が誰と付き合おうと振ろうと」
「そうだけどさぁ、勿体なくね?あの美女だぜ?学校でも大人気の生徒会長にして、高3の春だっていうのにもう有名大学から推薦が来てるって話だしさ」
俺の幼馴染がどれだけ有力物件なのかを列挙している彼は、俺の前の席の
奈子は優秀…そんなのは誰が見ても分かり切っている事実。テストではいつも満天で、体育の成績も常にA判定。たまにあいつはどこ目指してるんだろうと思う事もあるが、人の人生なのでそこまで興味はない。
「今思い出したんだけどよ、徹って結構前に好きになった人が居るとか言って無かったっけ?もしかして今その子と付き合ってたり?」
答えにくい質問をしてくる。俺がここで付き合ってると言えば「誰だ誰だ?」と質問攻めを食らう。だが、付き合っていないと嘘を言えば奈子とどうして付き合わなかったのかと質問攻めにあうだろうし。
場所は教室軽く話せば誰かの耳に入り、それがまた噂になる。もしここで楓先輩の名前を出しでもしたら、噂として奈子の耳にも届くだろう。
そうなれば、俺たちを別れさせようと何かしらの方法を取ってくると予想できる。昨日告白をしてきてそれだけというのも、彼女らしくない。
奈子は自分の欲しいものは何が何でも手に入れようとする人間だ。それは俺も例外ではない。物でないだけで何かしらの刺客や証拠品を見せつけて、いつか俺たちの関係を明るみにしてくれるに違いない。
だが、逆に言ってしまえば。見つからない状況であれば、楓先輩といちゃつくことも可能。これは最優先に考える事かもしれない。放課後に相談してみるか。
「なぁ徹聞いてるか?」
「え?なんだっけ」
「だから、いま彼女いるのかって事」
「あーそれか。秘密ってのは無しなのか?」
「無しだな。もし、俺がここでお前に聞いておかないと変な噂が立つことになるかもしれないからな。噂ってのは事実かどうか分からないと尾びれがついて自分が損することになるぞ。これは経験者からのお偉いお言葉だ」
「そうだな。お前に言われると説得力あるよ」
修吾は中学の事、今とは全然違い土地狂ったヤンキーみたいな見た目だった。そんな時に俺と友達になったんだけど、俺の容姿はなんというか陰キャという感じ。その頃から楓先輩の事が好きで「私は陰キャっぽい徹君見てみたい」という要望で髪を伸ばしていた。
まぁ当時の俺と修吾を見ると対局見た目をしていた為、俺がいいようにされて財布扱いやらパシリにされているだとかあらぬ噂が立ち、修吾は何もしていないのに生徒指導室に行く羽目になったのだ。
その後に俺が先生たちの誤解を解いたのだけれど、修吾は半分トラウマになっている。それ以降見た目を気にして、強い精神力を付ける為だとか言って野球部に入ったらしい。
そんな彼のお言葉だ、一番俺が理解している。俺が原因で修吾は嫌な思いをしたのだから、親友の彼の前では嘘はつきたくない。
「居るよ彼女。これ以降の質問は無しだ。いいな?」
「お、おう。居たのか彼女。俺と知り合う前から好きだとか言ってたよな…それが成就したと。おめでとうだな」
「ありがと。あと、この事はあまり口外しないで欲しい。俺の彼女は目立つのは苦手なんだ」
「そう言う事なら任せとけ!俺は口が堅いからな!」
「あはは、期待しておくよ」
修吾は嘘を付かない人間だ。変に誤魔化して誤解が生まれるよりも正直に話して解決したがる奴で、俺との約束も破ったことがない。
とても信頼できる。だから話したというのもあるが、ここは教室…誰が聞いていてもおかしくないのだ。
警戒を怠らないに越したことはないだろう。
そんな話をしていると、先生が教室に入って来て朝のホームルームが始まる。
先生の話は簡単な連絡事項という感じで特に聞いておかなければならない事はない。そんな先生の話を半分聞き流していると、ズボンに入っているスマホが振動した。
なんだろうとスマホの画面に電源を入れると楓先輩からメッセージだったのだ。俺は少し興奮気味にメッセージアプリを開き内容を見る。
『今日の放課後はどうするの?』
今日の、というのはどう言う事だろうか?入学してから毎日のように部室に足を運んでいるのだから行かないという選択肢は俺にはない。
『もちろん行きますよ』
『そうなんだね!待ってる!楽しみ!』
と可愛いクマの笑顔のスタンプが送られてきた。楓先輩は動物が好きで何種類かのスタンプを持っているらしく、頻繁に送ってくるのだ。そんな楓先輩が可愛くて、つい口角が緩んでしまう。
何もなく放課後を迎えることが出来れば、今日も可愛いあの楓先輩の要る楽園に足を運ぶことが出来る。
今日は一緒に何をしようかな?
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