第39話 こうしている間に世界では…… 

 キラキラおめめの、変態は置いておいて、外へ出ようとする。

 だが、しつこい会長は食い下がる。

「あんずさん。会長からのラブレター。一緒に旅行へ行こうって」

 そう言って、紙を渡す。


 見た瞬間、眉をひそめる。

「何これ? この短期間に六十二カ国? バカじゃない。ダンジョンの中と外、時間の流れが違うし無理っしょ」

 あんずさん、行動はあれだけどおバカじゃない。


「何とかなるだろ」

 その言い草に、俺が反論する。

「ならない。フランスでも三日掛かった」

「そうなんだ、報告書は?」

 床に散らばった書類を指さす。


「これのどこかに、さっき出した書類があります。探してください」

 そう言って、会長室を出てくる。


「ねえねえ待ってよ。フランスへ行ったの?」

「行きました」

「ちぇー行けばよかった」

「学校は大丈夫なんですか?」

「非常勤だから大丈夫」


 そう言った後、あんずさんはスマホを操作する。

 俺の、連絡ツールに着信。

 見ると、とっても過激な写真が送られてきた。

「どう、ドキドキする?」

「しますけれど、やめてもらえます」

「どうして、良いじゃ無い。興味があれば、凪海ちゃんと試してみたら?」

「こういうのはちょっと、凪海は受け付けないでしょう?」

「どうして? 私も怖かったけど、してみるとよかったよ。匠優しいし、気を使ってくれるし、こういうときは、私だけを見ていてくれるのが、よく分かって良いよね」

「よかったですね」

「うん。またヨーロッパ行くなら誘ってね」

 そう言って、待っていた匠先輩の方へ走っていった。


 匠先輩は、あんず先輩が、俺にこんなのを送ってきているのを、知っているのだろうか?

 そっと俺は、画像を削除した。

 クラウドにセーブした後。


「あー本当だ。それに増殖した遺跡型は、全部を攻略というか、一続きなんだ」

 椅子の背にもたれ、クルクルしながら、スピードを増していく。

「どうしようかなぁ。浄化か。教えられて覚えられるものだろうか?」

 高速回転の、椅子の上で会長は悩む。


 その頃。

「いやったー。できた。できましたよね」

「そうだね」

 喜んでいるのは、先輩である一志達を置いてけぼりにして、浄化をマスターした天上さん。今回の一件ですっかり大人となったようだ。


 できていない三人は、目をつぶり、体の中で気を錬る。

 放出しながら、汚れを祓えと意識を向ける。


 何故か、一志は炎を纏い、水希は光を纏い、秋山君の周りには風がまといつく。


「何だそれ?」

 見ている俺達も、実は気の操作を練習中。

 鬼教官は、てんちゃん。

「ほれほれもっと早く、周りに漏らさない」

 結構難しいことを言う。

 特に、ダンジョン攻略後、魔力というか気が爆上がり。

 普通にしていても、お漏らしをしてしまう。


 それでは、よくないと叱られて、修行中。


「うーん。押しとどめても、漏れちゃう」

「そこをぐっと、押しとどめてください」

 凪海を応援しているのはやたちゃん。


 そこへじいさん登場。

「ぬっ何だおぬし達、この気配は」

「修行中。内なる力のコントロール」

 その様子を見ながら、巻き藁を引っ張ってくる。


 一志に木刀を渡しながら、命令する。

「その気を纏わせ、切ってみろ」

「木刀で? 無理だろそれは」

 そう言いながら集中し、凄く力の抜けた雰囲気で木刀を振り下ろす。

 すると、スカッと巻き藁が切れる。


「やはりのう。奥義である破魔の太刀じゃな。物の怪や、幽霊、魔の者を切る基本技じゃ。精進せい」

 そう言って満足そうに帰って行った。


「魔の者が、切れるんですって」

 切った本人が驚いている。

「そうらしいな。じゃあ、一志君は効率は悪いけれどもう良いか」


 そんなことを言っていると、人が訪ねてきた。

「すみません、ここは竹見道場ですよね」

「はい、そうです」

「新生物ハンター協会の会長さんから、修行をしてこいと言われたのですが」

「だ、そうですが、和さん聞いています?」

「聞いていないけれど、普通の道場生じゃなく、こっち側だろう」

「まあ、そうでしょうね。今丁度修行中です。よければ、見学でも」

 そう言うと、じっとこっちを見ていた男2人。


 こっちに向いて名前を呼んでくる。

「井崎と出座、大きくなったなあ」

 そう言った後、二人ともが顔を見合わす。


「お久しぶりです。小学校の時の先生と中学校の時の先生。それと、間違いでなければ、樹花先生ですよね」

「はい、そうですけれど」

 女の人が、ぽかんとして居る。


「保育園の卒園生です」

 そう説明すると、納得したようだ。

「お城破壊事件」

「いきなり暴露をしなくても」

「あっごめんなさい。イメージが強くて」

 残りの、二人。亥和(いわか)先生も、日野先生も複雑な感じで笑っている。


 全員、凪海の被害者だ。


 話を聞くと、産休と育児後に復帰する席がなかったり、疲れてやめたり、田舎へ行ったついでに鍛冶がおもしろくて修行したりと理由は様々。

 偶然ハンターとして登録をしたが、仲間も居ない年齢も中途半端な三人を、会長がこちらへ斡旋をしたようだ。


「じゃあ、瞑想から行いましょう」

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