第38話 ダンジョンの不思議
「道が途絶えました」
珍しく、やたちゃんが困ったところで、後ろ側で騒ぎが起こる。
「どうしたのでしょう?」
「後ろで、扉が閉まったようだ」
通訳のできる隊員さんが教えてくれた。
全員が、入ったところで突然しまったようだ。
ここは結構広いが、人数も多い。
「後ろから、どうなっていると? 質問が来ている。どうなっているんだ?」
「それが、ここに来て、先がなくなったのです」
「無くなった? どこか見落としたのか?」
「そうかもしれません」
そう言いながら、此処で天井崩落のトラップでもあれば、やばいと思っていたら全員が蹲る。
一瞬の浮遊感。
焦ったが、床はそこにある。
このホール全体が、エレベーターだったような感覚。
その感覚が収まると、いきなり奥に通路ができて、腐った匂いがやってくる。
そう、見渡す限りのゾンビ達。
まるで、こちらの人数と合わせてくれたような親切な歓迎。
「浄化」
当然、襲ってくるまで待ってなどいられない。
消えていくゾンビ達。
横で、辻岡二尉達が、目を丸くする。
困っていたやたちゃんも、歩き始める。
そこからは、また同じ作業。
そして、また行き止まり。
また、浮遊感と現れる通路。そして、今度はゴースト。
「浄化」
歩き始める。
今度は、無事にクリスタルを見つけて、つかみ取る。
フランス側に騒がれる前に、分け与え、ついでに二尉達にも分ける。
「なっ。本当に消えた」
さっき、欠片をほいっと渡すと、思わず手を出した二尉達だが、受け取ってまじまじと見ようと思った瞬間に、掌へ溶け込んでいった。
「これ、大丈夫かい?」
「元気になれます」
そう答える。
そして、帰って行くのだが、構造が。
さっきの広間から、出て、いきなり道が未知。
暗くなったせいだけではない。
途中で、宝の隠し扉もあったし、罠も書いたはずのバッテンがない。
都合、五十階以上上がって出口から出ると、見知らぬ場所。
「どこだこれ?」
皆がキョロキョロしていると教えてくれた。
「モンパルナス墓地だと、言っているようだ」
入った、カタコンブ・ドゥ・パリからは、五百メートルほど離れており、最近遺跡化したダンジョンらしい。
「じゃあ、途中であった部屋。浮遊感があったのは、ダンジョン間を移動したのでしょうか?」
「もう一度、カタコンブ・ドゥ・パリ側へ行ってみないと駄目だね」
そう言われてげっそりする。
「疲れました。明日にしません?」
「そうだね。話をしてこよう」
そして、ホテルに行くと、すでに三日も経っていた。
「やっぱり、時間の流れがおかしいね」
ホテルのチェックインの時に自衛隊の人がぼやく。
報告書のつじつまが合わないと、言っていた。
そして、部屋へ入りゆっくりしていると、一時間もせずにノックされる。
「どうしました?」
ドアを開けると二尉が立っていて、報告をしてくれた。
「フランス軍から連絡が来て、遺跡型ダンジョン。三つとも死んでいたようだ。あれは複数でもクリスタルは一つのようだね」
「そうだったんですね」
謎はすべて解けた。
そう思って、ほっとすると、俺の後ろ側を二尉が凝視している。
なんだ? 凪海が裸でうろうろしていたのか? そう思い、あわてて振り返ると、そんな事はなく、ほっとする。だが、やたちゃんとてんちゃんが、なんだこいつという目でこっちを睨んでいる。
うん。お前達のせいだろ。
「この生き物は? 来るときには居なかったよね」
「いや居ました。姿を消していただけで」
まあ驚くよね。
「彼らは、僕(しもべ)として力を貸してくれています。ご内密に」
「あーうん。分かった。じゃあそういう事で。ゆっくり休んでくれ、また食事になったら誘いに来る」
「お願いします」
そう言って、ドアを閉める。
やたちゃんは、まあ大きいカラスだが、てんちゃんはペンギンで通せるかな?
冷蔵庫に住んでいるペンギンも居るから、大丈夫だろう。
そして夕食では、何故かまたスーツを着て、女性はドレス。
また開催された作戦終了のパーティで疲れ果て、そこへ今回の作戦で目立ったせいか、俺達全員囲まれて、契約がどうとか技を教えろとか、娘をチームに入れろとか色々。
凪海達も、随分モテモテで、さすがフランス人。口説かれまくったようだ。
君達は、朝パンを咥えて走るのだろうとか、水希ちゃん達は聞かれたらしい。
偏った日本の情報が、流れているようだ。
本当に疲れて、部屋に戻る。
翌日、自衛隊と別れ、直行便で帰れることになった。
ビジネスクラスを、フランス側が用意してくれたようだ。
空港で、秋山くんが荷物を盗まれたりしたが、てんちゃんが捕まえ。大事に至らず十二時間ほどかけて帰ってこられた。
疲れ果て、家路につく。
だがそれは、ほんの始まりだった。
数日後、報告書を会長に出しに行くと、ニコニコ微笑みを浮かべた会長が、一枚の紙を差し出してくる。
何やら、びっしりと書かれた文字。
一瞥して、突き返す。
これは駄目だ、隙間無く書かれた国名と日付。
それが衝撃で、失認(しつにん)しそうになった。
「心の安寧のため、拒否します」
「拒否? それは、我に死ねと」
机に両肘を付き、口の前で指を組み、雰囲気を出した会長が、めがねを光らす。
「ええ。それなら、一人で済みます。皆のためです」
そう言うと、キリッとしていた顔が崩れ、今度は泣き落としに掛かってくる。
「たのむよぉ~。和ちゃーん。受けてくれないと文仁くん泣いちゃうよ」
「泣け」
そう言って、踵を返すが、書類をばらまき机を越えて、すがりついてくる。
会長に引っ張られ、脱げそうなズボン。
タイミング悪くドアが開いて、あんずさん登場。
「あらあ。いつから二人、そんな関係に?」
興味津々な目が、二人に向けられる。
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