第35話 青春のいちペイジ
「へー。じゃあ、付き合ったりはしていないんだ」
「こいつとなんて、無しでしょ」
一志の同級生、天上さんの秋山君へのとどめの一言。
クリティカルに決まり、かなりのダメージを負ったようだ。
「ひでえ。そこまで言わなくても。ぼくは、こんなにも君のことを愛しているのに、君はぼくに、そんな残酷なことを言うんだね」
芝居がかった雰囲気で、手を広げ、その後おもむろに、自身を抱きしめながら、そんな台詞を叫び出す秋山君。
「ちょっと待ってよ。バカじゃない。そんな事一回も聞いてないんだけど」
「うん。遠回しにはあるけれど、まともには言ってないし。今言った通りだけど、どう?」
芝居は終わったらしい。いきなり素に戻り聞いてくる。
「どうとは?」
少し、天上さんの腰が引けている。
「付き合わない?」
「へっ?」
「お友達から、恋人にステップアップしても、そろそろいい頃だと思うけれど」
「えっ。本気?」
「うん」
「……ちょっと待って、それは、こんな状況でいきなり。……凄く恥ずかしいんですけど」
「話を振ったのは、晴美の方だし」
「ちょ、名前呼び」
「いつもじゃん」
「あっ。そうね」
天上さんは完全にテンパって、真っ赤になっている。
俺達は、ニヤニヤしながら見守っている。
「悪いが、三分たったぞ」
おもしろいところだが、お湯を入れて、三分が経ってしまった。
伸びてしまう。
「あっ。食べましょ」
天上さんが、逃げに掛かった様だ。
「晴美。あーん。愛する君に、とても大事なチャーシューをあげよう」
「えっ」
そう言いながら、なぜか、口を開ける天上さん。
当然、口の中にチャーシューが入ってくる。
「どう、おいしい?」
にこやかに聞く、秋山君だが、天上さんの答えは。
「普通」
もじもじと、そう答える。
「じゃあ、なるともいる?」
「いや良いから、こっちにも入っているから」
天上さんが持っているのは、そばだ。
「残念」
そう言いながら、秋山君が箸を咥える。
「あっ」
「うん?」
「何でも無い」
皆は周りで、ニヨニヨとみている。
「若いって良いわね」
凪海が、そんなことを言い始める。
確か高校生の時、ガンガンに凪海がアプローチをしてきて、有無を言わせない感じだったよな。確かに、こんなやり取りはなかった。
「もう、良いじゃ無い。やっちゃえ」
水希ちゃんがそう言って、それを聞いた天上さんがむせ込む。
「だよね。僕もそう思うんだよ。普通なら、そんな顔を見たら引くけれど、僕は気にしないよ」
天上さん。鼻から出てはいけないものが出てきている。
高校生の女の子にはちょっと。
さっと、秋山君からティッシュが出てくるが、ものが口と繋がっているらしく、オタオタしている。
秋山君が引っ張ろうとするが、熱いらしい。
「ごべんはなれて、びないべ」
「ああ、ごめん」
スパッと離れる。
「ううっ。最悪ぅ」
何とかなったようだ。
「お茶でも飲んだら?」
そう言って、秋山君が差し出す。
「ありがとう」
うーむ。悪いが、楽しい。
皆の、ニヨニヨが止まらない。
晴美は考える。ずいぶん前から、冗談交じりに言われることはあったし、気にはしていたけれど、こんなにはっきり言われたのは初めて。
私のこと、かわいいとか、好きとか言った口で、すぐにあの子の体型がとか、他の男子と話しているし、モヤモヤしていた。
……でも、いくら何でも、こんな人前で、それもダンジョンで、外国で。
恥ずかしくても、逃げられない。
水希ったら。変なことを言うから、むせて、鼻からおそば出るし。
思いっきり、皆に見られたし。
どうしたらいいのよ。
まあ騒動も落ち着いたし、そろそろ、出ようか? そう思っていたら、面倒なことに軍の人かな? 罠にマークをつけていたから追いついてきた。
言葉があれだから、自衛隊じゃないようだ。
そう思ったら、自衛隊の人たちもいた。
軍と違って、私語がないから静かだったようだ。
「やっと、追いつきました。勝手に入るなんて」
「いやまあ。ダンジョン内部は慣れていますし」
「それで何かをしましたか? ダンジョン内部が綺麗だと、軍の方達が騒いでいますが」
「少し、浄化をしました」
「浄化ですか。それは報告書にあった、再現できない最大の謎と、海外で言われているものですね」
「そうなんですか? 汚れを祓えって、力を解放するだけなのですが」
そう言うと、隊員さん。引率の二尉、辻岡 誠さん。が、へーと言う顔になる。
「見たかったな」
「まだ先がありそうなので、見られますよ」
「あっそうだね」
そう言っている間に、勝手に進んだ現地の軍の人が太ももから、血を流しながら引きずられてきた。
「この先はまだ未踏です。勝手に行かないでください」
そう伝える。
彼らは来たばかりだが、軍関係者は興奮状態なので、腰を上げて進むことにする。
「じゃあ、行きましょうか?」
やたちゃんの後を付いていく。
姿を隠しているが、俺には見える。
通路に来ると、血が落ちている。
やたちゃんの知らせに従って、印をつけていく。
むろん、やたちゃんの行動は、凪海の為だろうが、利用させて貰う。
奥へ進むと、壁に穴。パズルだよ。
もう一方の壁、やたちゃんが石をつつくので、その場所を押し込むと、少し奥で石が落ち込む。
通路ができてのぞき込むと、中にはいつもの物達。
適当に収納して、今度はパズルを解き始める。
今回も、水希ちゃんの出番だ。
指示に従い、石をスライドさせて、最後に剣の鞘で奥の石を押し込む。
すると壁全体が、いつもの様に、ガラガラと崩れる。
「君、今剣を持っていなかったか?」
「気のせいです」
見られたが、無視をする。
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