第32話 怠惰な一日

 怠惰な時間。

 ゆっくりとしているが、大学の授業、結構サボっている気がする。


「体の調子はどう?」

「うーん。かなり強化された。ダンジョンのクリスタル良いなあ」

「そうね。私も、強化されて、胸が育った」

 違うだろうと思うが、違わないとも言い切りがつかない。


「えーと何だっけ、協会へ出す書類。これ書かなきゃ」

「げっ、地図まで添付って書いてある」

「それじゃあ、水希ちゃん達も呼んで、擦り合わせた方が良いわね」

「これを持って、道場へ行こう」

「それもそうか」

 概略図だけをざっと書く。


「開き方も書くのか? さすがに覚えていないぞ。下から幾つ目とか、パズルみたいなのもあったし」

「そうね、会長に聞こうか?」


「あーだるい。サラリーマンて、いつもこんな事をするのかな?」

「さあ、でもなにをやっても、書類は必要でしょ」

「まあ、それはそうだろ。免税関係のインボイスとかややっこしいし」

「そうね。でもお役所って、少ないときは言ってくるけれど、多いときは、ああ。はいで、済ますみたいよ」

「そう聞くな」


 そんなことを言って、うだうだしていたが、なんとなく手を伸ばす。

「うん何?」

「気にしないで」

「気にしないでって、無理でしょ。甘えんぼさんかな」

「多少」

 そう、あの底で見た惨劇と、人々の悲鳴がずっと頭や耳から離れない。

 普段見ることのない凄惨な現場。

 だからって、凪海に甘え、じゃれつくのもどうかと思うが、今は欲しい。


「結局、夕方になったじゃない」

「ごめん。でもなんだかすっきりした」

「それは、そうでしょ」

「いや、そうなんだけど、ちょっと違う」

 そうは言っても、凪海にジト目を向けられる。


「まあ良いや」

「ちょっと待ってどうしたの? うんっ。もう」


「夜中だし」

 凪海の眉間にしわが寄る。


「寝たからな。疲れていたんだよ」

「いや疲れたのは、一日中」

 凪海がなんだか、ぶつぶつ言っている。


「寝よか」

「寝たじゃない!!」



 同時刻。

「畜生、何とかしてくれ。畑も何もかも無茶苦茶だ」

「先進国は、自国の方が大事だと、派遣をしてくれなかったらしい」

「ちょっと待て、世界中この状態なのか?」

「情報によると、ダンジョンの管理が重要らしいぞ」

「あの、モンスターが湧いている穴のことか?」

「そうだ、あれに適切に干渉をしないと、こんな状態になるんだとさ。今政府の役人はゲリラに接触し攻撃の中止を依頼して、共にモンスターを何とかしようと言っているらしい」

 そう聞いて考える。


「共通の敵か?」

「そうだな」

「どうでも良いが、たまにはゆっくりしたいぜ」

「今寝られるのは、モンスターにやられたときか、撃たれたときのみか」

「違いない」


 そんな会話は、世界中で起こっていた。


 だが突っぱねた先進国でも、状態は悪く。

「畜生。今日だけで二班死んでしまった。あの怨霊たちに効く武器はないのか?」

「聖水が効きませんでしたし、塩も効きませんでした」

「エクソシストを呼んでこい」

「それが、教会の方も忙しいとのことで」

「忙しいだと? 葬式か?」

「それが、リビングデッドが湧いていて」

 そう言われて、先日の出動を思い出した。


「あれは結構、心に来るからな」

「しかし、日本だけは、コントロールしていると噂があります」

「最近は何でも日本だな、どうやっているんだ?」

「不明です。情報を公開させるため、国際機関を立ち上げるようです」

「乗るかな?」

「どうですかね。日本はその辺りうかつですから」

「お人好しに賭けるか」



 他でも。

「まだ日本からの返答は来ないのか?」

「国際組織の通達は、行ったようですが、まだ組織の改編がどうこうと」

「そんな事は良いんだ。問題はあのゴーストだ。触れられるだけで、脱力。長時間になると死んでしまう。すると何故か仲間を襲い出す。ええい。対応できるのが日本だけだなんて、教会はどうなっている? こういうときの神の力ではないのか?」


 むろん教会にもエクソシスト、司教の許可を取り医師の立ち会いの下。悪魔払いは行われている。

 だが先日も、聖書や聖水その他、すでに試した。

 だが担当した司祭は力不足だと言い残し、逃げ帰ってしまった。


 そのため軍は、太陽光を光ファイバーで引き込んだり、放水をしてみたり思いつくことをやってみた。当然送風機も。


 だが、効き目がなかった。

 やがて、歩き回っているうちに、祭壇がズレ、ゴーストが消える。

 歓喜とともに、階下へ突入し絶望を味わう。


 だがゾンビは、退治できる。


 精神的何かを壊しながら、ひたすら突き進んでいく。

 迷路を抜け、石室で手詰まりとなる。


 超音波で壁を調べ、構造を理解。破壊するまで三日を要した。

 そして、ミイラも倒し奥へ進む。

 また壁。

 何か、宝石が埋め込まれていたが、前回の経験から、素直に削岩機を用いて砕く。

 だがダンジョン。砕く端から修復する。

「なんだこれは? どうやって開く?」

 そこへ、場違いなスーツを着込んだ男が入ってくる。


「日本からの報告が来ました。読み上げます。このトラップ解除は、宝石部分に気を流す。だそうです。モンスターには浄化を行う様です。誰か日本へ送り、五十年ほど修行させますか?」

 そう言うと彼は、両手を肩まで上げる。

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