第31話 最奥の不思議
そのまま、どんどん進んでいく。
十階を過ぎ、二十階を過ぎ、次で三十階。
「もう、いい加減飽きた」
凪海や水希ちゃんが、文句を言い出す。
「もういい加減、到着するだろう」
そうして、幾度目か分からない、宝石に気を流す。
石の壁、複雑な文様が刻まれていたが、気にせず開いた。
すると濃密な、黒い霧に全員が包まれる。
あわてて、浄化魔法を全開で発する。
だが、効いてはいるが、俺達は、何かのストーリーを見ることになる。
見た事の無い、獣人たちの国。
魔法のある世界のようで、黒い霧を纏った狼系の獣人が、目を爛々と輝かせ、魔法を撃ち出す。
逃げ惑う獣人たち、背中から容赦なく焼かれ倒れていく。
前から来た、軍隊のような者達。
何かを叫び、攻撃を始める。
だがその威力は低く、狼の腕の一振りで消えてしまう。
そして、彼らの頭上に、大きな火球が発生し、落ちる。
逃げ惑い、焼かれ倒れていく。
体を動かし、何かをしようとするが、動けない。
だが、世界が白い光に包まれる。
そして場面が変わる。
見ただけで、現在の地球よりも圧倒的に進んだ文明。
だがそこにも、黒い霧を纏った男が一人。
いや男かどうかは分からない。
ヒト型ではないから。
微妙だが、クラゲっぽい。
コントロールルームらしき所で、光を発するパネルを操作する。
カウントダウンらしい、見たことない文字が変化していく。
やがて、その世界は消滅をしたのだろう。
視界が、一気に宇宙空間まで引き上がる。
確かに存在している惑星に、ヒビが入り、そこから炎が吹き上がる。
よく見れば、小さな宇宙船が飛び出している。
だが黒い霧は、それを追いかけていく。
そしてまた、場面が変わりと言うのを幾つ見ただろう。
分かるのは、場面場面での人々の苦しみと悲鳴。
助けを望む声。
それを確かに聞いた。
何もできず、それをタダ眺める。
それが辛く苦しい。
心の底から、そのつらさがにじみ出てくる。
人々の救済の願い。それが宇宙から発せられ、エネルギーとなってどこかへ流れていく。
そして、黒い霧もどこかへ流れていく。
やがてそれは集まり、黒き翼を持った何かへと変わる。
そして、そいつと目が合った。
底のない空虚な深淵。
にやっと笑う、黒いもの。
人では無いなにか。
人の魂を捕らえる甘美な何か。目を見ていると魅入られる。
破壊願望が自身の中に芽生え強大な力を振るいたくなる。
だがその時明るく優しい光が背中側から包んでくれて、それに身を委ねる。
その光は俺を導き、そっちへ行っては駄目と諭してくれる。
ああ俺は、知っている。
この波動は凪海だ。共に世界を創り上げた存在。
桃の味のするキスをくれ、優しく体を包む。
その後、頭が、思考がクリアになる。
ふと、目を開ける。
心配した表情の、みんながのぞき込んでいる。
「大丈夫?」
「みんな無事か?」
そう聞くと、首をひねられる。
「この部屋に入ると、いきなり和が糸が切れたように倒れたの。えーと一時間くらい経つけれど、途中浄化を、いきなりやたちゃんが掛けたりして」
そう言われてやたちゃんみると、いつもの様にそっぽを向いている。
「何を見ました?」
てんちゃんから質問が来る。
「ああ色々な所での、苦しみと願いを聞いた」
「それは、それは。願いは形にしないといけません。それがきっと今回の天命」
そういって何か納得し、うんうんと頷いている。
「よくわからんが、助けられるものは助けよう。なんだか力も増したようだし、視界がおかしい」
さっき目を開けてから、みんなの体から出ている光が見える。
むろん繋がりも。
起き上がると、体も育ったようで、少し服が小さい。
「和が育っている」
凪海も言っているから、勘違いでもないようだ。
目の前に浮かんでいる、クリスタルを取る。
それだけで、ダンジョンから光が失われる。
それを、六つに分け。玉としてみんなに分ける。
何故か、扱いが分かる。
みんなは、与えられた瞬間取り込むようだが、俺は意識して取り込む。
欠けていた何かが戻ってくるように、力も増す。
「良し戻ろう」
そうして俺達は、都合三十階昇って行く。
「これは辛い。色々出てこないから良いけれど、今度からはテントか何か持って来ましょう」
一志がぼやく。
「泊まりたいなら、テントもシュラフもあるよ」
「えっ本当ですか?」
「ほら」
そう言ってテントを出す。
ぽんと投げるだけで広がるタイプ。ワンタッチテントとかポップアップテントと呼ばれるもの。
「ほんとうだ」
「でも、泊まるのか。大丈夫だと思うけれど、ゾンビとか復活するとやばくないか?」
「それは確かに」
「少し休憩をして、少し無理をしてでも戻ろう」
そうして、小一時間休憩し、眠気を誤魔化しながらダンジョンの外へ出る。
するとすっかり日は上がっていて、日にちが一日進んでいた。
外では、先輩達がもめていた。
俺達を見つけて走ってくる。
「大丈夫だったか、心配したぞ」
そう言われたので、嫌みを振りまく。
「地下三十階ありました。誰か達が、ばっくれたので大変でしたよ」
「そうかそれは大変だった。ゆっくり休んでくれ」
そう言うと、先輩達はちりぢりに走り去って行く。
「お疲れ。帰ろうか」
「そうですね」
そうして何とか帰ってきた。
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