第30話 予想以上に育っていたダンジョン

 当然行くのは『生け贄の祭壇』。すでに閉まっているので、もう一度開きに行く。


 少し待っていると、扉が開く。

 あわててブロックを、挟む。


「さっさあ。いくか」

 ちょっと声がひっくり返る。

 先輩から話は聞いているし、ビビってしまう。


 だが、やたちゃんとてんちゃんのペアは強く。

 その者達、聖なる光を体に纏い、状態で怨霊達を消滅させながら進んでいく。

 まるで、無人の野を進むがごとく。


 二メートルくらい離れていても、怨霊? 達は消えていく。


 祭壇の周りで、どこかスイッチを踏んだらしく、祭壇がズレる。


「さあ、ここからは、未踏エリアだ」

 降りていくと、臭い。

 何かが腐ったような匂い。


 ああ、居るよ。

 うぞうぞとゾンビだ。

 それも、恨みを垂れ流すようなって、本当に色々垂れ流すし、引きずっている。


 思わず、てんちゃんを前に押し出す。

「主、浄化くらい使ってください」

 そう言って叱られる。


「見たくないし、匂いも無理」

 周りを見ても、みんな鼻をつまんでいる。


「ええい。ふがいない。たかが生ける死人ごとき」

 そういうと、文句を言いながら浄化を始めて行く。


 すると浄化の光に当たったゾンビ達は、見事に崩れて消えていく。

 ただ、その表情が、苦しそうなのが悲しい。

 浄化されるなら、喜んでくれると良いのに。


 やたちゃんとてんちゃんのペアは、どんどん進む。

 この通路は、迷路のように入り組み、迷いそうだが、ゾンビが徘徊するせいか罠はないのが嬉しい。


 そして、石室のような空間へ到着をする。

 迷いなくやたちゃんは進み、石室の一部。

 何やら、女の人が書かれた場所の一つの石を突っつき始める。


 横から、手助けをする。

 すると、少し力を入れると、押し込め、上の石が降ってくる。

 当然あわてて手を、引っ込める。


 まるで寄せ木細工のように、パズルになっているようだ。

「これは、次どうなるんだ?」

「任せてください」

 そう言って、水希ちゃんが、指示を始める。

 それに従い、石をずらしていくと、真ん中に穴が来た。


 奥に、石があり。ためらうが、手を突っ込み。押し込む。

 するとスコンと向こうに抜けて、そこから崩れていく。

 当然あわてて手を抜く。

 転がった石を見ると、テーパーになっており、奥側と手前の石が支え合っていたようだ。

 崩れていない部分も、手作業で崩す。


 すると、何事もなかったかのように、やたちゃんは進み始める。


 今度も石室。

 だがそこには、待ち構えていたミイラ、俗に言うマミーが立っていた。

 やたちゃんとてんちゃんのペアが発する、聖なる光に焼かれ燃え上がる。

 うん。かわいそうだが、登場即退場だな。


 石室内部は少し広く、階段を下る。

 下った後。回廊を進み、また行き止まり。

 カミソリの刃も入らないほどの緻密な石組み。


 やたちゃんが指し示す所には、綺麗な石がありそこを押してみる。

 だが変化はない。すると、珍しくやたちゃんが、教えてくれる。

「馬鹿者。そういうものは魔力を流せ」

 そう言うと、横を向く。


 魔力? 気を錬り、手から流してみる。

 すると、石は光り始めて、壁全体がスコンと落下する。


 そして、目の前に現れた、マミー達。

 当然だが、光に焼かれて消えていく。

 何の見せ場もないまま、ただ静かに青白い炎を吹き出して。


「なんだか、哀れね」

 ぼそっと、凪海がつぶやく。


「浄化されているから、本望だろう」

 適当なことを言って、凪海を抱きしめる。


「そうね。やたちゃん。案内をお願い」

「はい。喜んで」

 そう言って、ぴょんぴょんと案内を始める。

 気のせいか、犬のように尾羽が揺れている。

 

 また、石組みの雰囲気が変わる。

 相変わらず、隙間のない組だが、石が小さくなった。

 まるで、日本の石垣のようだ。


「マチュピチュの石組みみたい」

 水希ちゃんがぼそっと言う。


「そういうの詳しいの?」

「なんとなく、好きなんです」

「へー」


 他愛ない会話をしながら、進んでいくと、奥からからからと音が聞こえて、装備をつけた骨が参戦。

 だが、聖なる光を浴びると、散けて消えていく。


「これ、浄化ができないと、凄く苦労しそうなダンジョンね」

「そうだな。ゾンビにしろ、マミーにしろ。そもそも、最初の怨霊には、物理攻撃が効かないと、匠先輩がぼやいていたしね」

「そういえば、言っていたわね。他国の軍隊とかって、どう対応したのかしら」

「海外なら、聖水を水鉄砲で撃つんじゃないか? 知らんけど」

「適当ねぇ。それなら、園芸用の加圧ポンプの方が便利じゃない?」

「それも便利だな、途中でしゃこしゃこと、圧力を上げないと駄目だけど」

「そこはほら、戦国時代の鉄砲隊のように三段構えとか」

「そうだな」


 どうしても、こういう無駄話が出る。

 緊張を解すための、人間の心理なのだろうか?


 そしてまた、壁に遮られる。


 ここは、単に自然石を積んだ感じで他とは違う。

 野面積(のづらづみ)と呼ばれる、積み方のようだ。

 やたちゃんが一つの石をくちばしで指し示す。

 そこを押し込もうとすると、やたちゃんは一目散に下がる。


 それで目で追いながら、つい押してしまった。


 高さ三メートルほどの石組みが、一気に崩落を始める。

 思わず、叫びながら何とか逃げる。


 やたちゃんが少しは、心を開いたと思ったが、相変わらず俺には厳しい。

「大丈夫? 怪我はない」

 凪海が心配してくれる。


 それを見て、やたちゃんは、何も見なかったというように、先へ進み始める。

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