第28話 滅亡は、一国だけではなかった
「もう無理だ。積めない」
「何だよ早く言えよ」
手に持っていた物を、適当にその場へ放棄する。
「狭いな、食料や燃料はどうする?」
「いるだろ。早い者勝ちだ」
あわてて、基地内へ突っ込む。
だが廊下より、装甲車の方が大きい。
あわてて下がる。
もう無茶苦茶。
ハッチを開き、周辺へと美味しそうなパイナップルをばらまく。
投げたのは対人用、破片手榴弾(フラグメンテーション)爆発すると、周辺に破片を飛散させる凶悪なタイプ。
簡単に、まとまったエリアが確保できた。
小銃を片手に、みんなが飛び降りていく。
物資のある場所は知っている。
「食い物ぉ。食い物はどこだぁ」
食堂へ行く四人と、倉庫へ向かう四人に分かれる。
装甲車の周辺は、後先を考えず、手榴弾祭りをやっている。
「倉庫、鍵が掛かっている」
「壊せ」
容赦なく、蝶番を撃ち抜き、突入する。
だが、倉庫には、先客がいた。
裸で抱き合う、男女。
「おまえら、ずるいだろう」
思わず撃ちそうになる兵長だが、止められる。
「途中で悪いが、ドアは壊した。出るのなら手伝え」
「服を」
女の子が懇願する。
「ああ、ゆっくりで良いぞ。みんなが大変なときに盛っていた罰だ。そのくらいサービスしろ」
「彼女は僕の」
「お前はさっさと服を着ろ、手伝え」
散らかっていた服を蹴飛ばす。
実に、本能に忠実な兵だった。
優先的に必要な、水とレーションを抱える。
装甲車の中に入らなくても、外にぶら下げても良いと考え、袋へ詰めていく。
「他の人たちは、どうなりました?」
「おまえたちが、いちゃついている間に全滅だ。倉庫の扉を開けていないから、そういう事だろう。逃げるにも物資は必要だからな」
そう言うと、いちゃつき男が、多少ヘコむ。
彼女は、服を着てしまった。
「新鮮野菜と、肉があったぜ。今晩はバーベキューだ」
ヒャッホーな感じで、食堂組四人が合流してきた。
「その二人は?」
「倉庫で鍵を閉めて、いちゃついていやがった」
それを聞いた兵の目が光る。
「餌にするか?」
「人手は必要だ。やめろ」
そう言われた兵だが、心の中では下種な事を考えていた。
その時彼女は、途中だったせいなのか、非常にそそる匂いを発していた。
戦時で敏感になっていたセンサーに、強烈に感じる。
元々生物は、生命に危険が及ぶと、そう言う行動を取るようにプログラムされている。
だが、そんな下種な考えは、かなう事はなかった。
向かう先。装甲車の方からやって来た、まばゆい光。
一瞬で、すべてが焼き尽くされてしまった。
兵の願望は、一瞬で終了した。
大きな体を持つ狼。
くるりと見回し、またどこかへ走って行く。
他の国の氾濫でも、その中に特殊な個体が存在していた。
三メートルを超えるオーガだったり、ワイバーンだったり。
ただ、そのエリアからは出ることなく、何か規則に従うような振る舞い。
何かの意思が、介在していることは明白となる。
同時期に、いくつかの国で発生をした氾濫。
沈静化したのは、その国が滅亡をして終了。
主要国では、その問題が取り上げられる。
「普段介入をしてくるくせに、どうして見捨てた」
アジアや、アフリカのいくつかの国が責め立てる。
「一度に幾つもの国で同時に発生。それに依頼も無し。また送るにしても周辺国に根回しも必要だろう。それとも、救援という大義で、君の国は武装をした状態で他国へいきなり侵攻をするのかね? そう言えば、解放とか祖国のためとか言って、いきなり侵攻する国もあったね」
そう言われて、噛みついていた代表はおとなしくなる。
「今我々は困っている。とてもね。国境までモンスターの楽園が、でき上がっているのが見て取れる」
そう言って困っている国は他にもあり、大体が途上国や国内が不安定な国。
自国内のダンジョン管理も満足に行えていない。
隣国の状況は、明日の自国の運命と言える。
「まあ今のところ、モンスターは何故か国境を守っているようだ。警戒して、今のうちに国内を纏めたまえ。良い切っ掛けじゃないか。そうだろう?」
大国の代表は、にまにまと笑みを浮かべる。
先ほど困っていると行った国は、別の大国をこれまで頼った。
今はその大国自らが、困った状況で手を貸してくれない。
それどころか、必要になったから貸してある金を、すぐ返せとまで言ってきている。
多分本当に、困った状況なのだろう。
「正式に、国連へ救援を依頼する」
「国連平和維持活動(PKO)かね。モンスターと仲裁? 決議が必要だね」
そう言うと、他の国からクレームが入る。
「今は、全世界的に同じ状況だ。余所に裂く力は無い」
「そうだな。うちもだ」
口々に、愚痴が出る。
「では民間組織を立ち上げて、各国が支援でもするかね。たしか、日本が専門組織を立ち上げたようだが。どうかね」
「それは、フォローすれば、依頼として来てくれるという事か」
そこで、金の匂いに気がつく国も手を上げる。
「では我が国も立ち上げよう。共通組織として、国連の下部組織とするかね」
「それでは、独自性が担保されない。完全別組織としよう。自国でさえ不干渉でどうだね」
いくつかの国への牽制として、独自組織という前提が立てられる。
「では、何だったかな?」
「日本では『新生物ハンター組合』と言う名称だそうです」
「どういう意味だ?」
「おそらく『Neoplasm Hunter Union』では無いかと思います」
「まあいい。正式には、後日決めよう」
そうして、各国の思惑の下、世界統一の暴力組織が一つ誕生した。
その影響は、当然、会長にも振ってくる。
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