第27話 モンスターの氾濫

 その国は、ダンジョンを無視した結果、モンスターの氾濫を招いた。

 国の各所から湧き出したモンスター達は、正確に首都へ向けて、ひた走ってくる。

 確実に、何かの意思を感じる行動である。


「面倒だ、奴らには分からんだろうから、地雷原と、なんだったら倉庫からクラスターを出してこい。場所は分かる様にしておけ」

 結局、クラスターでは後片付けが面倒だという事になり、ナパームを使用する。


「攻撃隊。投下する」

「本部了解」

「投下」

 機体の下から、爆弾が投下される。


 眼下では、避難が済んでいるとは言え、家や畑が容赦なくどんどん燃えていく。


 その中で、黒い巨体が現れ、爆撃機に向かって口を開ける。口吻(こうふん)の前に魔力が収束すると現れた高照度の光は、そのまま機体に向かって撃ち出される。


「なんだ?」

 視界が、光に包まれ、反応する猶予もなく燃え尽きる。

 ナパームが燃え、撃墜された飛行機から滝のように炎が流れ落ちる。


 それを確認すると、何かに導かれるように再び走り始める。


 対戦車ライフルや装甲車に取り付けられた重機関銃(じゅうきかんじゅう)が火を噴く。

「予算の都合で機関砲(きかんほう)じゃなく重機関銃になったのが、幸いだな。機関砲ならとっくに弾切れだ」

 ヘッドセットを通じて、冗談が流れる。


 そうこの国はあまり裕福ではない。

 だが政権の不安定さから、内乱やクーデターを繰り返し、先進国や新興国などが入り込み、複雑な情勢だった。


 そのため、ダンジョンなど、訳の分からない物は後回しにされていた。


「それでも。いよいよ、弾切れだ。基地へ帰還しようぜ」

「了解」

 装甲車は、防衛線を一台また一台と離れていく。

 すでに、補給をトラックでなどできる状態ではないと、連絡が来たのは三十分も前。


 基地への帰還中、目の前に現れだしたモンスター達。

「なあっんだよ、これは。あそこで防衛していたって意味ないじゃないか。すでに抜かれているぞ」

「基地へ帰還しろ。前線など放棄しろ」

 下で通信中なのだろう。大声が聞こえる。


「基地とは、連絡は付くのか?」

「ノーシグナル。終わったな」

「まあ一度、見てこよう。弾薬があれば儲けだ。なければこちらも、じり貧だぞ」


 装甲車は、こまかなモンスターを躊躇無く引き潰しながら、市街地へと入って行く。

 だが数時間前に見た風景とは違い、何もかもが壊されていた。


「こりゃあ、象の大移動でもあったのか?」

 のぞき窓から、外をうかがうが、木製の家など、完全に壊され、踏み潰され、見る影もない。


 基地へ到着すると、門は破壊されていた。

「門の鉄のゲートは、ぐにゃぐにゃだな」

「バリケードを、構築する暇もなかったのか?」

「サイドについている、防弾壁も途中で止まってやがる」

 普段は、鉄の門扉だが、有事には横からコンクリート製の壁が出てくるようになっていた。だがそれも、途中で止まっていた。


「あっおい。あそこで食われているのはアダーじゃねえか。ああ。あんな良い胸が」

 よく見れば、モンスターの塊の中からは、人と思える残骸が見て取れる。


「倉庫へ向かう」

 モンスターに囲まれている人間は、もうきっと生きてはいないし、生きていても辛いだけだ。

 そう思い、ドライブをしている軍曹はアクセルを踏み込む。


 ぐしゃぐしゃと、モンスターを踏み潰し倉庫へ向かう。さすがに丈夫な造りである弾薬庫。破られてはいなかった。

 だが問題は、この状況でどうやって取りに行くか。

 そして、積めるだけ積んだ後、次の奴らが来たときに開けっぱなしだと困るだろう。


 だが、悩んだ末。

 モンスターは、きっと弾薬など興味はない。

 そう思い、ドアの一メートル手前に横付けをする。

「周辺制圧。安全域を確保しろ」

「「「はい」」」

 そう言って手に小銃を持ち、飛び出していく。

 この中には、一分隊十人しか乗っていない。

 運転一人とハッチの警戒に一人。

 そのため出られるのは八人。


 二人ずつ、半円形に陣取り、残り二人が、倉庫のドアを開く。


「電子錠は死んでいる。強引に開け!!」

「これってどのタイプだ?」

「当然…… 上下のシャフトタイプだよな。無理だな。装甲車で押して貰おう」


 そう言うと、二人は無線で依頼する。


「分かった。ちょっと離れろ」

 装甲車の向きを変え、ドアを押してみる。

 だが当然そのくらいでは、びくともしない。


 移動時の基地とは違い、内部での爆発に備えて、ひどく丈夫に造られているのが弾薬庫。

 さがって、突っ込む。

 重厚な衝突音がする。


 だが、搭乗員はひっくり返ったが、ドアと装甲車共に問題なし。

「危ないが、ロックのある上部と下部を撃つ。やばそうなら、後ろへ入れ」

 そう連絡をして、ハッチから出てきた隊員の手には、ランチャーが握られている。

「「「ちょっとまてぇ」」」

 あわてて、みんなが離れる。



「いけぇ」

 目視十メートル。超至近距離。


 安全装置があるため、当然撃っても爆発しない。

「バカだろ。三十メートルは離れろ」

「ですって。下がってください」

 そうして下がり始めると、後ろにいた兵達を轢きそうになる。


「「どわぁ」」


 疲れからか、やる事が無茶苦茶になる。


 結局、三発撃ち込むとドアは倒れた。

「確保ー」

「弾薬もだが、腹も減ったぞ、中にレーションがあったら持ってきてくれ」

「あるか、そんなもの。パイナップルでも食っとけ」

 そう言って、ピン付きだが対人手榴弾が投げ込まれて、ゴンと頭に当たる。

「食えるかこんなもの、後投げるな。何かの折に、ピンが抜けたらどうすんだよ」


 そうぶつぶつと言いながら、彼は周辺の地獄のような風景を眺める。

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