第26話 呪いの恐怖

 一人の隊員から始まった呪いは、あっという間に拡大をしていく。

 刺されても、感染。感染者に噛まれても感染。


 見知った顔だというのが、対応の遅れを生む。


 何とか捕まえて確認すると、襲いだした連中は、すでにバイタルがない。心臓が止まっていた。

「おい、脳波も検査しろ」

 上官から、命令が飛ぶ。


「動く死体だとすれば、どうだ? 倫理委員会へ問い合わせ後、結果を聞いてから、動くのか? 全員死ぬぞ」

 文句を言いながら、関係省庁へ連絡を回す。

 状態発覚から、三十分で、いま感染者二十人だが、基本乗数で増えるよな。良しその辺りを書いて、至急でながそう。


「うん? 三十分で二十人? たいした事ないじゃないか? 何を騒いでいるんだ?」


 そんな意見が通り、感染に気を付け捕縛せよ。と命令が来る。

「防護服を着て、捕縛?」

「あんなもの、すぐに破かれますよ」

「撃てという事か?」

「いや捕縛って、書いてあります」

 どこかでブチッと聞こえた。


「警察に電話して、感染症の疑いがあるとも伝えろ。ドアを閉めろ奴らを外に出すな」


「対象が死んでいる場合、警察の仕事なんですかね」

「馬鹿野郎、確認するまでは生きているんだ。確認して初めて死んでいると分かるんだよ」

「なるほど。『シュレディンガーの猫』ですね」


「いま現状は、何かにやられた隊員が暴れているだけだ、薬物かウィルスかは分からんが感染する」


 そうして、よく分からない警察官も、寮への突入で数人噛まれた。当然治療のため、基地外へと感染は持ち出されることになる。


 すぐに、病院へ向かっていたパトカーは横転事故を起こす。

 そして、中から出てきた警察官が、周りの野次馬を襲い始める。

 パトカーの横転。これは拡散案件と群がった人たちは、スマホの死角からどんどん噛まれ始める。


 初期対応のミスとも言える拡散。


 結局、周辺一帯を封鎖する大騒動となった。


 そんな騒ぎの頃。

「磨いたら綺麗になったね」

 鈍い金色だが、確かに材質は真鍮に似ている。

 その金色の金属中に銀が装飾のように入って、意外と綺麗なブレスレットだった。

 裏側に、魔力を通わせる魔結晶が二つ埋められている。

 埋め込まれた銀が、魔力回路。


「綺麗だし便利。部屋の片付けがはかどったよ」

 俺達は、貰った無価値なはずのアクセサリーで喜んでいた。

 情報が周知された後の価値は、とんでもないものになる。

 そんなものを、まだ複数持っている。



 さて、町中では。

「うぉい。来たぞ。捕縛用の網を持ってこい」

「連絡来ました。必要なら発砲許可。しかし、対象すでに死亡。銃撃による効果不明。との事です」

「そりゃ、ゾンビなら、本能に従っているからヘッドショット一択だろう」

「あの制服。身内だな。隣の若そうな奴で試せ。どうせ損壊されている」


 射線を確認して、発砲が始まる。

 だが、頭を撃っても止まらない。

「班長効きません。どうしましょう?」

「むっ胸だ。うてぇ」

 激しい発砲音が鳴り響く。


「効き目なし」


 だが数発、頭に集弾をすると止まった。

 脳と体の繋がりを、切る必要がありそうだ。


「市民から見られないように、カバーしろ。後に問題となりそうだ」

「はい」

 周囲に、足場が組まれて、ブルーシートで囲っていく。


 内部で、包囲を縮めていく。

 頭で動きが止まることが分かったので、足に数発。動きを止めて、頭に集弾。そのパターンが確立された。


「こりゃ、下手に撃つと仏さんの顔などぐちゃぐちゃだな。刀で首を落とした方が良いのじゃないか?」

「首だけになっても、噛みついてきたらどうします?」

「ありそうだが、嫌だな」

 ある程度緊張すると、人は軽口を叩きたくなる。

 それすら出なくなると、ミスをする。


 周囲の物音に警戒し、ビルの窓。建物の影。しらみつぶしに探していく。

 だが、分かっている情報で、あまり賢くはなく、動きも速くないこと。

 撃って良いことになって、近付かずに対処できるようになったため、ある程度楽になった。


 結局二町分が、作戦範囲となり。その中にいくつかのビルがあったため、二千人以上が犠牲となったが、一応この騒動は終息した。



 後日、捕まえていたいくつかのゾンビは秘密裏に実験され、ウィルスや毒その他検査したが原因は見つからなかった。

 だがその死体は、燃やされたときに、黒い煙が抜け。周囲に怨嗟の声が響いたとも言われている。


 その後。短刀は、厳重に封印された。


 そしてまた、遺跡のダンジョンが蘇り、自衛隊は突入をしていく。


 ところが、いきなり深くなっていて、命からがら自衛隊は引き返してくる。


 多分、命を沢山捕らえたからだろう。


 そこで会長は、困ることになる。

「えーみんなぁ。楽しい冒険に行かないかい?」

「ただ働きは、いや」

 前回の自身の行動が招いた結果だろうが、愉快な仲間からの返答は、当然ながら芳しくなかった。


 せっかく、一般のダンジョンへの入場が、講習が必要だが許可されたばかり。

 ある日突然、遺跡タイプになって大勢が死ぬなんて許されない。


 そこで考える。

「みんなぁ、日当一万円でどう?」

「「「もう一声」」」

「弁当付き」

「しょぼい」「けち」

 アプリの、返信が荒れる。


「御茶もつける」

「「「…………」」」

 既読スルーだよね。


 会長が悩んでいると、情報が入る。

 他国で、頑なにダンジョンを無視した結果。

 氾濫と呼ばれる事態が発生した。世界で初めて見るようなモンスター達が、津波のように押し寄せる姿はネット上で流され大騒ぎとなる。

 世界の終末だと、まことしやかにうわさが流れる。

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