第25話 漁夫の利と、広がる怨嗟

「何があったのか、纏めてくれ」

 カンデラの明かりの中で、会長がキリッとした顔をする。


「出てからで、良いだろ」

 匠先輩から、突っ込みが入る。

「ああ、まあ。それもそうだな」


 来た道を、ぞろぞろと帰っていく。

「しかし、浅くてよかった。この面倒な罠で、何階層もあれば全滅は必至だよな」

「そうだな。最近は、どこの国も命大事にだから、時間が掛かる。その間に深くならないか不安だよ」

 会長のその予感は、見事に外れる。


 この遺跡型ダンジョン。被害者が多くなれば深くなる。

 かといって、中に人が入らないと増殖をする。

 目的は、仲間というか、魂を取り込むため。

 自分だけ苦しいのは嫌だ、他の奴らも巻き添えにしてやる。

 邪神の個人理念は、そんなものであった。


 後は取り込んだ魂の中に、パラノイアやシリアルキラーが意外と多く、その影響が行動方針を決める。

 例えば、宝物に何かを仕組んで、ほくそ笑むとか。



 無事問題なく、外へ出た一同。

 思った以上に、気が張っていたのか、出た瞬間にへたり込む。

「なんだか頭が痛い。極度の緊張が、弛緩した感じだな」

「ああ、だるい。それでだ、中で……」

 会長が言いかけたところで、話がぶった切られる。


「疲れたし、文仁のおごりで、ファミレスにでも行こう」

「そうだな。それが良い。行くぞ」

「ああ」

 遙子先輩の発案に全員が乗る。


 気がつけば、チェーン店の焼き鳥屋。

「「「お疲れ!!」」」


「うめーっっ」

 匠先輩が叫んだが俺達も、ビールの、のどごしに感動していた。

 かなり疲れていたようだ。

 高校生達二人の目が、ずるいと語っている。


「忘れないうちに」

 その目に気がついたのか、そう言って高校生達に、アルバイト代が出る。


 周りから手が出るが、会長は知らん顔。

「俺達の分は?」

「うん? 楽しかったし。俺達友達じゃないか。打ち上げだ。ここはおごろう」

 会長は爽やかな真面目風な顔で、きっぱりという。


「あれだけ危ない目に遭って、友達だからで済ますのか? 親しき仲にも礼儀というものはあるだろう」

「いやあ、まだ組織も綺麗にできていないし、また追々何とかする。うちへ入るなら優遇するから」

 ニコニコしながら、ジョッキを咥える会長。


「高校生。よく見ろ。こういう、身内のなれ合いから、ブラックな会社ができていくんだ」

 素直な二人は、うんうんと頷く。


 匠先輩の戯れ言を、完全無視して、また同じ質問が来る。

「ところで、中での顛末を教えてくれ」

 やっと会長は質問できた、そう思いタブレットを取り出す。


 だが当然、匠先輩はあんず先輩と、楽しそうにいちゃつき始め、俺達は、二人で焼き鳥の批評や、姿の見えていない二匹に焼き鳥を与える。

 完全なる共食いだが、気に入ったようでバクバクと食べる。


 余ったのは、会長と遙子さん。二人は落とし穴の所で盛っていたので、最後が分かっていない。


「おーい。ねえみんなぁ。報告をしてくれないかなあ。僕ちゃん困っちゃうんだが」

 タブレットを持ったまま、いい大人が泣き真似をする。


「困れば良い」

 シャキーンと言う感じで、あんずが言い切る。

 酔ったんだろうな。


「あんずの言う通り。友達だから冒険はした、困っていたようだしな。だが報告となれば業務だ。俺も非常に心苦しいが、タダではできんのだよ。分かるかね」

 匠先輩は会長に言い切る。


「最後、片をつけたのは、和達だったね。どうなったのかなぁ?」

 会長は、匠先輩は駄目だと理解したのか、いきなりこっちを向いて聞いてくる。


「最後? 会長さんが、遙子さんと、落とし穴の所でエッチなことしていました。私、しっかりばっちり見ました」

 凪海も酔ってきたようだ。絶好調だな。


「あーうん。そこは良いんだ。その前後は?」

「別の所にいたので、見ていません」

 凪海がビシッと手を上げて言い切る。


「あーうん。俺達の様子じゃなく、ダンジョンの話なんだが。その別の所で何がどうなったかを教えてくれないか?」

 そう言われて、首をひねる凪海。

「えーと綺麗でした。クリスタルがあって、剣で切るとパキーンて割れて。和とおそろいのブレスレット拾いました」

「ブレスレット?」

 会長が一瞬食いついたが、凪海が見せたものは、拭いても黒ずみと緑青(ろくしょう)っぽい緑のさびが浮いている。


 金属に詳しい、匠先輩。一目見て。

「残念、真鍮だな」

 と、判断する。


「古代遺跡じゃないからな、アンティークな価値とかどうなんだろうな?」

「だとしても真鍮だろ。大して事ない。それに同じような遺跡ダンジョン196か国以上ある。価値なんてないだろ」

「じゃあ、今日の報酬に貰います。おそろい」

 そう言って、無邪気に喜ぶ凪海を見て、匠先輩が言ってくる。


「せめて、プラチナでも良いから買ってやれ。かわいそうだろ」

「そうですね、良いアルバイトでもあれば、買ってあげられるのですがね」

「そうだよな」

 そう言って、二人で会長を見ると、一心不乱にタブレットに向かって何かを書いていた。聞こえないふりだよな。


 そんな事があってから、数日後。

 死んだはずのダンジョンを、確認すると言って、自衛隊が突入した。

 簡単な罠は、生きているかもと報告に書いたが、死んでいたようだ。


 後日の報告では、自衛隊の決死の調査により、ダンジョンが死んでることが確認されたと報告が上がった。

 その後、一月くらいのインターバルで、罠が復活して、ダンジョン内部が明るくなった。


 その報告が上がった頃、調査に入った隊員が見つけたナイフをこそっと持ち帰っており、普通に見ればなんという事がないナイフだが、その隊員は刃の美しさに惚れ、とうとう我慢ができず、自らの指を傷つけた。

 スパッと切れ、その切れ味に満足をする。

 そうは言っても皮膚の表面を切ったくらい、わずかに滲んだ血は、絆創膏一枚で問題ない程度。

 後で、毒の可能性を思いついたが、毒ならもう症状が出るだろうと安心して寝た。

 長い眠りへ。


 翌日、早朝の点呼時に起きず、布団を捲ると顔色が蒼白となっていた。

 あわてて、医務室へ連絡。

 バタバタしていると、同僚が突然倒れる。

 振り返ると、ナイフを持った状態で、こちらを向いている白い顔。

 幸いあまり動きは速くないので、取り押さえる。


 そんな感じで、医務室の先生は、刺された同僚の治療に奔走。

 こっちはこっちで、取り押さえて、拘束をする。

 その時、別の隊員が噛まれた。

「ゾンビかよ」

 何気なく言った、誰かの一言が、この事件の核心に触れていた。

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