第24話 ダンジョンは死んだ

 そう叫んだ瞬間、真っ暗になった。

 まだ周りで、息づかいとバタバタとした足音。

「真っ暗で、何も見えん」

「一志。ザックの中に、確かライトを持ってきたはず」

「そうだ、ちょっと待って」


 のんきそうなそんな声が聞こえるが、俺は直前に見た光景がまぶたに浮かぶ。

「あんずぅぅ」

「はあい。匠。真っ暗で見えない。どうなったのぉ?」

 あんずの、気の抜けた返事が聞こえて、脱力をする。



 少し前、もう一つの通路側。

「主、この先です」

 ぴょんぴょんと、やたちゃんが跳ねる様に進む。その先から、光が差し込んでくる。

 中には、台座の上に三十センチメートルほどの、クリスタルが浮かんでいた。

「ふわぁ、綺麗」

 おもわず、凪海から声が漏れる。


「凄いな、天井から光が注ぎ込まれている」

「おお。凄いですな。あの、エネルギーの流れが見えますので?」

「見えるじゃないか?」

「あの光は、普通の人間には見ることができません。宇宙を構成するエネルギーの流れ、あれが見えるのなら高位の存在である証」

 ウムウムという感じで、てんちゃんが頷く。


「さあ、壊されよ」

「はっ?」

 間の抜けた返事を返す。


「今この遺跡に力を与えるのは、このクリスタル。悪しきものが利用しております。ささ、ひと思いにスパッといってください」

 持っている剣を、てんちゃんが指さす。


「ああ、分かった」

 鞘から抜いて、気を巡らせ一気に切る。

 だが切れず、砕けてしまった。


 その瞬間、部屋の明かりが落ちてしまう。


 だがその暗闇で、まだ光の残滓を発している、クリスタルのかけらを、やたちゃんがついばむ姿が見える。

「あっ、やたの奴。独り占めにする気か」

 そう言って、てんちゃんが走る陰が見える。

「お二方も早く」

「おう」

 促された声に、そう答え。訳が分からないが、かけらを掴む。

 すると、掴んだ手の中へ溶け。消えていく。

「はっ? なんだこれ」

 体に溶け込んだ驚きの声だったが、さらに、力が増していくのが分かった。


 二人と2匹が黙々と真っ暗な部屋の中で、クリスタルのかけらを拾っていく。


 あらかた拾い集めて、やっとザックから手探りでライトを取り出す。

 キャンプ用のLEDライト。ランタン型。


 周囲が一気に明るくなる。

「明るい。ねえ、やたちゃん。この部屋、何か良いもの無いの?」

 凪海が聞くと、周囲を見回し、ぴょんぴょんと奥へと向かう。


「魔道式の仕組みは動作しませんが、単純な物理式罠は動作します。ご注意ください」

 てんちゃんが、注意を促してくる。


「此処に、何かあります」

 そう言って、壁を指さす。

 壁の一部を、やたちゃんが押し込もうとしているが、うまくいかないらしく脇から剣の鞘で押す。


「今のでロックが外れました。開くはずです」

 そう言われて、押したり横にスライドさせるのを試す。

 ゴリゴリという感じで、石がスライドする。


 中を見ると、いくつかの装飾品が転がっている。

 罠を確認して、取り出す。


「ふむ。この腕輪は空間魔法の収納庫。そしてこちらは、魔導用倍増媒体付指輪。この鏡状のものは、魔道式の盾。この杖は、やはり魔導用倍増媒体付の物です」

 説明を受けながら、リングとかに気を流し、背中に背負っていたザックを収納してみた。意識するだけで、ふっと目の前から消えた。

 取り出しも、出そうとすると、中にあるものが頭に浮かぶ。

「へー。これは便利」

 他には無いそうなので、部屋から出る事にする。


「魔導書が出ることがありますが、呪いがあることがありますので、ご注意ください」

「へー。魔導書なんてあるんだ」

 そんな雑談をしながら、通路の端に到着。

 閉まっているため、力ずくでスライドさせる。


 通路をたどり、会長達の所へ到着すると、暗いのを良いことにラブシーンが始まっていたようだ。

 明かりに気がつき離れたが。

「そのなんだ。匠達はどうした?」

「へっ? 先輩達には会っていませんが」

「いや、おまえ達のすぐ後に、行ったはずだ」

 考えて、反対側。あそこにも部屋があったのでは? そう思いつく。


 物理的罠以外は動作しないと言っていたが、一応、マークを避けて移動する。


 先ほど開けた通路は、まだ開いている。

 反対側の壁で、開いた形跡を見ると、うっすらとすじが見える。

「これだ」

 力を込めて、スライドさせる。


 その頃、内部でも。

「この辺りだよな」

 匠達も内部で当たりをつけて、ドアを開けようと力を込める。

 さて開くのは、どっち向けか?


「あれ開かない。逆か」

 そう言って、和が力を入れる方向を変えた瞬間、一気に扉が開く。

 どうも、和が扉を開けるのをじゃましていた様だ。


「皆、無事ですか?」

 カンデラ型LEDライトを向ける。


 一瞬、反射的行動で、あんずの変顔が見えたが無視をする。

「ああ、なんとかな。だが、ゴースト系のモンスターに効く武器を何とかしないと駄目だ」

「塩とか?」

「試してない。しまったな」

 そう言っていると、やたちゃんが中へ入っていく。


 しばらくすると、帰ってきたが、口に怪しいナイフを咥えてきた。

 姿を消しているが、何かを言っている。

「それは、怨嗟の太刀。持ってくるな捨ててこい」

 そう言われて、渋々捨ててくる。

 結構雑に。

 それが後日、騒動の種になる。

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