第23話 怨霊と生け贄の部屋

 三善あんずは、両親が離婚した時から、実のお母さんに『あんたさえ、いなければ』、事あるごとにそんな言葉を吐かれて育って来た。


 母親は、母親なりに就職の条件などが、あんずが居ることで制限され、それが気に入らなかったのかもしれない。

 だが小学校の低学年の時から、その言葉を聞かされ続けたあんずは、会長の文仁と仲良くなった頃には壊れていた。


 自身を、必要だと思って貰いたい。必要としてほしい。

 たぶん、依存性パーソナリティ障害 と呼ばれる症状だろう。

 まあ、ネットで調べたものとは、多少違いはあるが、多分そう。

 人に嫌われたりすることを、極度に怖がる。

 気が許せる相手だと思うと、すべてをさらけ出してでも、自分を認めて貰おうとする。


 そんな、理解されにくいトラウマを抱えたあんずだった。


 あんずにとって、文仁と匠に続く三人目。

 女よりも男の方が、自身を深く求めてくれる。

 そんな単純で純粋な思い。


 だが相手にしてみれば、迷惑この上ない行動。



「会長、もう一度開いてください」

 通路の奥から、和の声が聞こえる。

 その声を聞いて、凪海が奥へと移動を始めると、奥からあんずが出てきた。

「そこの落とし穴が開くと、奥で通路が開いたよ」

 それを聞いて、皆が驚く。


 あんずの顔を、ちらっと一瞥して凪海は奥へと向かう。


 奥にたどり着くと、まだ和は通路の前にいて、安全を確かめていた。

 変わりの無い姿に安堵して、背中から抱きつく。

「うん、どうした?」

「なんでもない」

 当然、和の挙動不審な行動には気がついている。

 でも言ってくれないのなら、そういう事だろう。


「入らないの?」

「うーん。罠は無いようだけれど、トラップと連動というのがな。中に入ると、外に連絡が付かないのが怖い」

「それじゃあ、やたちゃんとてんちゃんを呼ぶ」

 そう言って、凪海は空を仰ぐ。

 すると、目の前に二人? が現れる。

「置き去りにするとは、ひどいじゃありませんか」

 今日、出てくるときに付いてこようとしたので、ロープでくくって家に転がしてきていた。


「皆に見せるのはな」

「いつもの様に、姿を消せば良いでは無いですか」

 てんちゃんが、激おこだ。

「そう、なんだけどな」

 そう来る前に聞いていた、トラップが多いという言葉、ミスってトラップ発動されても困るし、二人? に怪我をされるのも困る。

 そんな思いから、置いてくることを決意していた。

 結局呼んだが。


「主、目的は、この奥にあるクリスタルですか? 案内します」

 やたちゃんが、案内は自身の存在証明と言わんばかりに、通路へ飛び込む。

「やたちゃん」

 凪海が叫びながら、通路へ飛び込む。

 やれやれと思いながら、和も続く。むろん、てんちゃんも。


 その頃、会長達は悩んでいた。

「開いて、約三分で閉じる」

「開いてから、向こうへ行っても間に合うけれど、閉じ込められるのも嫌だな」

「じゃあ、文仁は罠当番。みんな行こう」

「私も残るわ」

 遙子が、そう言って文仁に向かってウインクをする。


「じゃあ任せた。向こうから声をかけるから」

 あんず達四人は、奥へと向かう。


「遙子。俺の荷物を取ってくれ」

 文仁は、自分の荷物を指さす。

 緊張のためか、喉が渇いた文仁は、遙子に頼むが。

「荷物全部?」

「いや水筒が。そっちへ行くよ」

 そう言って、ぴょんとフロア側へ移動して、自身のザックを漁る。

「皆、大丈夫かしら?」

「警戒はしているだろうし、和に任せておけば大丈夫だろう」

「信頼してるのね」

「ああ、まあね。あいつも苦労してきたみたいだからな」


 丁度その時、奥から声が掛かる。

「いよっ」

 文仁は、落とし穴をまたぎ、また飛び越しすぎる。

 天井から落ちてきた串は、また、顔や体をかすめる。

「ひいいっ」

 文仁が、情けない悲鳴を上げる頃。


「あれ? なんでこっち?」

 そう、奥の壁では無く、回り込んだ壁側が開いていた。

「まあ良いか、行こう」

 躊躇無く、あんずが足を踏み入れる。

「ちょっと待て」

 あんずを追いかけ、匠が入り。その後を、一志と水希が追いかける。


 通路を抜けると、部屋があり。その上部には、何かの文字が書かれていた。

「なんだろ、読めないね」

「文字は文字なんだが、くさび形文字っぽいな」

 そう言いながら、罠を確認しつつ中へ入る。

 中央に、石の舞台がぽつんと置いてある部屋。


 彼らが、その文字が読めたなら、もっと警戒していただろう。

 入り口に書かれていた文字は『生け贄の祭壇』。邪神に取り込まれた魂の一つが昔使っていた文字。彼の魂は、自分の研究のために、同族を殺しまくり汚れへと落ちた。


 皆が、部屋に入ると、ゴーストが出てきた。

 あわてて四人は攻撃を開始するが、武器が通じない。実は倒すには浄化が必要。

「畜生。こっちの攻撃は素通りなのに、相手の攻撃のみ通じるなんて。ずるいぞおまえら」

 匠が叫ぶ。


 そのうち、あんずが引きずられ、石舞台へ引っ張り上げられる。

「あんず」

 舞台の袖に、ヒト型が現れて、剣を振り下ろす。

 あんずの首直前に、匠が剣を差し込むと、剣は実体があったようで何とか止まる。

 影の様なヒト型が、匠を睨む。

 その目と視線が合った瞬間、匠の全身がすくむ。

 なんだあれ、ものすごくやばいものだというのは分かる。


 その間にも、あんずの首を落とそうと、剣が振るわれる。

 必死に防御をする。


 するともう一度、そいつは匠を見た。

 その瞬間、見えない何かが、匠の体を突き飛ばす。

 匠は吹っ飛び、顔を上げたとき、振り下ろされる剣が見えた。

「あんずぅ」

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